【きまぐれレポート】レポ2 「ゴアフェス Vol.5 A GO-GO!」に行ってきたレポ
ゴア!ゴア!ゴア!右を見ても左を見ても目に飛び込んで来るのはゴアばかり!はてみなさん、そんな地獄のような催しをご存じでありましょうか。東京は池袋の名画座・新文芸坐にて2020年から始まったこのオールナイト上映企画「ゴアフェス」(第一回目のみ「ワールド・インディペンデント・ゴア・フェスティバル」の名称)は、発起人のゴア映画ディストリビューター・ヒロシニコフさんが厳選した世界のインディペンデントな日本未公開ゴア映画を年の瀬に劇場で一挙見してみんなで血反吐を吐こうというもの。
ゴア映画とはすなわち残酷描写満載の血みどろ映画。世界には手弁当でひたすらゴアを作りに作っている謎の情熱に溢れたゴア界隈以外では無名の貧乏映画人がたくさんいるのですが、そんな人たちの血と汗と臓物の詰まった映画はなかなか日本で劇場公開されることがありません。であるからして、普段は日の目を見ないゴア映画たちに一年に一度くらいはスポットライトを当ててあげようというわけです。すばらしい博愛精神ですね。
さてそんなゴアフェスも今年で早5回目。だからなのか今回は短編1本に長編4本(いずれも日本初公開)の計5本も一晩に上映するという過去最大の暴挙もといボリューム。そこにゴア映画トークショーが1時間も付いてきて今回は料金3000円だったので、上映される映画は極悪非道なものばかりなのにめちゃくちゃ良心的です。ロビーにはヒロシニコフさん制作のゴア映画ZINEや上映作のゴア映画Blu-rayソフトなどのゴアグッズを販売するブースも設けられてゴアフェスの名に恥じないお祭り気分。第3回目ぐらいからは300席近い客席が全て埋まり、今回もチケット販売開始早々にソールドアウトとなってしまったという人気の高さも頷けるところです。
上映作の監督が来日するなど毎回トークゲストが豪華なゴアフェスですが、今回は悪名高い和製ゴア映画の金字塔シリーズ『ギニーピッグ』の非公式リメイク作品『アメリカン・ギニーピッグ』のシリーズ第三作目『ソング・オブ・ソロモン』が上映されることから、『ギニーピッグ2 血肉の華』などを監督したホラー漫画家・日野日出志の版権管理などを行う日野プロダクション代表の寺井広樹さん、上映作品『2 Girls 1 Gut』のGUY監督と『犬とナマズ』(R15+版)の山内大輔監督、『犬とナマズ』に出演した俳優・川瀬陽太さんが登壇。
寺井さんからは日野日出志先生は実はホラー映画が嫌いなので最初『ギニーピッグ』シリーズの監督を断った話や『ギニーピッグ』シリーズが国内でソフト化されない裏事情(シリーズと関係するある人物が強く反対しているためとのこと)など意外なエピソードが飛び出し、山内監督が自作にゴア描写をよく出すのはゴア描写をワンポイントで挿入すると映画の印象が強くなるためと作劇論を語れば、そんな山内監督のスナッフ映画『無残画』に影響されてゴア映画を撮るようになったとGUY監督。山内監督とは旧知の仲である川瀬さんは駆け出し時代の思い出話に血肉の華を咲かせるなど、充実の内容。残念ながら来日の叶わなかった『リブスプレッダー 悪魔の毒々禁煙キラー』のディック・デイル監督と主演トミー・ダーウィンさんからのハイテンションなビデオレター上映には笑わせてもらいました。
ということで和やか気分の中で映画の上映開始。トップバッターはGUY監督の5分短編『2 Girls 1 Gut』。 監督によればこちらは今後制作予定の長編映画のテストフィルムとのことで、内容は白い部屋に閉じ込められた二人の女性の小腸が何故かキュッと結ばれてしまっており、二人で小腸綱引きをするというシンプルなもの。テストフィルムとはいえ二人の女性の文字通り血反吐を吐きながらの演技はなかなか迫力があり、これがどんな長編になるのか気になるところです。
続く『犬とナマズ』(R15+版)はブライアン・ユズナ監督作を彷彿とさせるグチャグチャ異形人間や妖怪ナマズ人間が殺し屋たちを狂わせていく怪作、冒頭のテロップで北風と太陽のような犬とナマズの昔話が語られるのですが、これはメタファーだろうと思ったら映画終盤に本当にでっかい着ぐるみナマズが(あくまでもシリアスなトーンで)出てきたのでびっくりしました。なんなのかよくわからない物語が犬とナマズに収束していくパズルのような構成や、無表情で人を惨殺する蓮実クレアの格好良さが見所。ちなみにこのR15バージョンは映画祭や一般劇場での上映を前提として制作されたもので、成人映画館での上映を目的としたR18バージョンとは、エロシーンの量や過激度合いだけでなく、ストーリー自体異なるそうです。
『リブスプレッダー 悪魔の毒々禁煙キラー』(Ribspreader)はオーストラリアのパンク・ゴア・コメディ。治安が『マッドマックス』よりも悪い終わった街で母親を肺がんで亡くした男が罪悪感からタバコオバケの幻覚を見始め、夜な夜な街の喫煙者を惨殺してはその肺を取り出してお風呂場でキレイに洗浄・・・するユーモラスなスラッシャー映画だと思って見ていたら途中から殺人お花屋さんや殺人ストーカー被害者や殺人パンクレズカップルなどが代わる代わる画面に現れて殺人鬼ナンバーワン決定戦みたいなことになってきたのでなんだかよくわからんが賑やかで楽しい。トロマ総帥ロイド・カウフマンと『ムカデ人間2』のローレンス・R・ハーヴィもゲスト出演。
『キャットコール:オメガ・バイオレンス』(Catcall: Omega Violence)はラディカル・フェミニズムに目覚めたパンク女性(またパンクだ)が目に付いた男どもを文字通り粉砕していくというストーリーは一応あるものの、実際には複数の短編を強引に繋いで繋いで90分ぐらいの長編にしている映画なので、 展開は支離滅裂で意味不明、また技術面でも撮影も録音も編集もすべて終わっており、照明に至っては基本的に存在しないという、ゴア描写を見せる/見る以外の目的が何もない、ある意味でこれこそ今回のゴアフェスの目玉というべき無予算映画でした。すごかったです。やたらと勢いだけはあるものの特殊造型のレベルもかなり低く基本は人間の頭のような形をしたゴムに詰めた挽肉と血糊をグシャグシャと叩いて飛び散らせるみたいな感じで血糊が用意できなかったのかたまに血が緑だったりしました。もはやアウトサイダーアートとも言えるゴア描写の合間合間に差し挟まれるのは主人公のパンク女性が公園や観光地でヨガをする姿やキレイに咲いたお花の映像。明らかに監督がこの女性と旅行に行った時に撮ったプライベート映像です。付き合ってるんでしょうか。ちょっと羨ましかったです。
そしてトリは『アメリカン・ギニーピッグ:ソング・オブ・ソロモン』(American Guinea Pig: The Song of Solomon)、ステファン・バイロ監督による『アメリカン・ギニーピッグ』シリーズの三作目です。本家『ギニーピッグ』シリーズと同じく『アメリカン・ギニーピッグ』シリーズも各作品にストーリー上の繋がりはなく、今回は一軒家のほぼ一室のみを舞台にしたエクソシストもの。悪魔に憑かれた大学生くらいの女性が次々とやってくるエクソシスト神父たちを悪魔パワーでゴア惨殺したり内臓を全部口から吐き出したあと律儀にまた口から呑み込んで元に戻したりします。この映画もまたゴア描写を見せることに特化した作劇ではありますが、撮影や照明、それになにより特殊メイク・特殊効果などの技術レベルは今回の上映作の中でもっとも高く、ゴアを見せるだけの映画と言いつつストーリーにもちょっとした捻りがあるなど本格派。俳優陣の演技も素晴らしく、とくに悪魔に憑かれた主人公を演じたジェシカ・キャメロンさんは一般的なエクソシスト映画のそれを超える大熱演、あまりに真に迫っていたのでなにもこんな映画でそこまで本気を出さないでも・・・という気分に。ゴアカデミー賞があったら受賞間違いなしだと思います。
血祭りオールナイトから無事生還して思ったのは今回は初心回帰だなということでした。先にも書いたようにゴアフェスの第一回名称はワールド・インディペンデント・ゴア・フェスティバル。あくまでも普通なら映画館で上映されることのないインディペンデントの超低予算ゴア映画を映画館の大スクリーンで上映する試みでしたが、回を追う毎に上映作品が豪華になり、要するに技術力の高いちゃんとした(お金の取れる)映画が上映されるようになりました。しかし今回はとくに 『キャットコール:オメガ・バイオレンス』が商業性とは無縁の完全なる素人個人映画。それも「この監督は今までの人生で映画を一本も見たことがないのだろうか?」と感じてしまうほど見るに堪えない崩壊した映画でした。これこそがインディペンデント・ゴア。これこそがゴアフェス。こんな映画を年の瀬に徹夜して見るゴアフェス、末永く続いてほしいものです。