【こないだビデマでこれ買った】Vol.34『Chernobyl Diaries』を買った
様々な理由で日本では公開されたり配信されたりすることのない作品に出会えるのはビデマのおそらく最大の魅力じゃあないだろうか。2012年製作のこの映画Chernobyl Diariesもどうやら日本に入ってくることは今後もなさそうな1本。というのもビデマのソフトの中には店主さんのミニレビューの付いたものもあるが、このソフトのパッケージには赤字で「米国輸出禁止リスト掲載!」とかなんとか書いてあったからだ。本当かなぁ。しかしこの映画がたしかに日本に入ってくることがないのは間違いない。それはこのタイトルの映画がビデマのゾンビ映画コーナーに置かれていた、という事実ひとつだけで説明としては充分すぎるほどだろう。
放射線被曝で人間ゾンビ化というトンチキ設定はトロマとか昔のゾンビ映画にはよくあったので被曝ゾンビが出てくるから発禁だなんてそんなバカな、きっと過剰な思い込みか都市伝説だろうと考えるオールドな映画ファンは少なくないかもしれない。しかし、あのころから世の中も変わった・・・世界60ヶ国ぐらいで公開された原爆開発者オッペンハイマー博士の半生を描く伝記映画『オッペンハイマー』が世界で日本だけ米国公開から一年遅れでの公開になった、という背景にこの映画の原爆描写(の薄さ)がどのように関係しているかは定かではないが、かつて俺がTSUTAYAでバイトをしていた頃には『ヒルズ・ハブ・アイズ』取り扱い中止事件というのが実際にあったのだ。
この『ヒルズ・ハブ・アイズ』はオリジナル版ではなくアレクサンドル・アジャのリメイク版の方。劇場公開時に見に行ってアジャこそペキンパーの後継者に違いないと心の中で快哉を叫んだほどいたく感激した俺はDVDソフト情報がTSUTAYAのデータベースに入ると速攻で予約した。しかし、それから数ヶ月経って発売日が来てもなぜか俺の『ヒルズ・ハブ・アイズ』は店にやってこない・・・それどころかレンタル在庫さえ入ってくる気配がないではないか。いったいどうしたことかとデータベースを見てみるとセル・レンタル共になんと廃盤の二文字。そんなバカな!俺が働いていたレンタルフロアには取り扱い中止の情報なんて入ってきてないしセルコーナーの人に聞いてもよくわからんと言う、店長に聞いても知らないというので具体的な理由は不明だが、とにかくTSUTAYAでは『ヒルズ・ハブ・アイズ』はセル・レンタルともに全店で取り扱い中止になった1。
これがメーカー側の理由ではないことはTSUTAYA以外の店舗では普通にセルDVDが販売されていたことから明らかだ。いくらなんでも『ヒルズ・ハブ・アイズ』程度の映画でメーカーと取扱店が取引条件を巡って揉めるということも考えにくいし・・・ということは、証拠がない以上これは推測でしかないのだが、やはり『ヒルズ・ハブ・アイズ』の内容を巡ってどこかしらからクレームが入り、あるいはそれが懸念されて、TSUTAYA側の自主規制が働いたのではないだろうか。具体的に言えば、『ヒルズ・ハブ・アイズ』はアメリカの原爆実験の被爆者が奇形の人喰い殺人鬼一家になってアメリカ人旅行者を食いまくるというモラル面で明らかに問題がある映画なので・・・まぁ、そういうことだ!そんなわけで説明が長くなったが製作は『パラノーマル・アクティビティ』のオーレン・ペリ、アメリカ配給はワーナーという実はかなりメジャーな「売れる」ホラー映画であるChernobyl Diariesは、2012年のアメリカ公開時にもその前年日本ではたいへんな原子力災害があったことも多大に影響してか日本に入ってくることはなく、今でもこっそりと輸入盤で見るしかない「封印」映画なのである。
さてその封印を解いてみたところ、あらなに面白いじゃないの!ファウンドフッテージでこそないもののカメラワークはPOVのそれであるため、ゾンビっぽい人たちがはっきりと映らないとか、くちゃくちゃ音がするので人を食ってはいるらしいのだがその様子は直接映し出されないためゴア描写もないとか、そりゃ欠点は探せばたくさんあるが、チェルノブイリ原発のあるウクライナの立ち入り制限区域プリピャチにちゃんと行ってロケ撮影をしているので、とくに前半はホンモノにしか出せない負のムードがバリバリ、廃墟の団地内にもズケズケと入っていくのでコワイと同時に廃墟マニアなら大興奮だ。Chernobyl Diariesのタイトルに偽りなし、POVのスタイルでリアルに映し出される無人のプリピャチを見るためだけにでも、この映画を見る価値はある。
ストーリー的には『ホステル』以降アメリカンホラー界でプチブームになったツーリズムもので、ヨーロッパを旅していたアメリカの若い連中が仲間の一人であるロシア系の人の誘いで許可無くプリピャチに入ってみたところ、そこには近くの極秘研究所から脱走してきたらしいゾンビみたいな一群(被曝してゾンビになったと言いたいのだろうが詳しい説明はされないのでそんなつもりはありませんと言い逃れできる山師のテクニック)がおり・・・というどうでもいいやつだが、変にドラマ性を持たせずに次々と若い連中がゾンビに襲われて死んでいくだけの淡泊な構成が逆によく、ホラーは人が無残に殺されてこそとつい思ってしまう人非人なら思わず心の中でガッツポーズ。ゾンビから逃げてたらいつの間にか原子炉建屋近くまで行っちゃって多量の被曝により放射線熱傷で皮膚ボロボロという仮に助かったとしても(助かりませんが)救われない展開もデリカシーがなくて素晴らしいと思う。
ゾンビがあまり映らない分はうなり声とか廃墟に響き渡る物音などの音響効果でカバー。それが意外と効果を上げていてコワかったので信頼できるこの映画の監督ブラッドリー・パーカーの本業は特殊効果屋さんらしく、偶然にも現在日本公開中の月面着陸陰謀論映画『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』に特殊効果監修でクレジットされていた。ウクライナで撮影、ロシア系役者も参加、プロデューサーのオーレン・ペリはイスラエルの人、となんだか今にして思えば現今の世界情勢を予見(?)したかのような謎のアブなさも感じさせるChernobyl Diaries、クセあり映画愛好家ならばぜひ見ておきたい映画だ。
ちなみに今回飼ったソフトはBlu-rayで別エンディングが特典で入っていたが、本エンディングが最後の生存者がゾンビに食われて死亡オチだったので別エンディングはもっと希望のある感じかと思ったら、同じ人が放射線熱傷で髪の毛が全部抜け落ちて病院で絶叫するというそっちもそっちで希望ゼロのものだった。どっちでも別にいいよそれなら。
- ちなみにその後5年ぐらい経ってからしれっと一部店舗のレンタルコーナーに並ぶようになった。 ↩︎