【Merry Christmas!2022】ホーホーホラー!殺人サンタ映画大集合!
クリスマスといえばサンタクロース。ホラー映画といえば殺人鬼。ということは・・・クリスマスホラーといえばサンタ殺人鬼!!!まったくなんの創意もない発想だが創意がないからこそサンタ殺人鬼映画はこの世に溢れている。その嚆矢は一時期は英国ホラーの名門ハマー・プロと肩を並べる存在だったアミカス・プロダクションの『魔界からの招待状』(1972)。アミカスの得意とするオムニバス・ホラーの中でも完成度の高い一本で、そのファースト・エピソードが殺人サンタの登場するお話。以降キリスト教圏およびその影響圏内にある世界の様々な映画界に殺人サンタは出没することとなる。
その中でもおそらくもっとも有名なのは『悪魔のサンタクロース/惨殺の斧』(1984)。クリスマスに強盗に両親を殺され入れられたキリスト教系の孤児院でサディスティックな院長に虐待を受けてきた青年がなんとかまともな人生を取り戻そうとオモチャ屋で働き始めたところ運悪くその日はクリスマス、過去のトラウマが蘇り衝動的に殺人を犯してしまった青年は殺人サンタに変貌し街へと繰り出す・・・というちょっと可哀相な血まみれ映画だ。
今となればむしろ殺人鬼の屈折した心理を正攻法で描いた真面目なホラー映画の観すらある本作だが公開当時はよほどショッキングに映ったのかアメリカ国内では上映中止運動にまで発展してしまった。しかし映画自体は好評だったようで、『悪魔のサンタクロース2』(1987)、『ヘルブレイン/血塗られた頭脳』(1989)、『新 死霊のしたたり』(1990)、『キラー・ホビー/オモチャが殺しにやって来る』(1991)と4本の続編が作られたほか、最近になって一作目のリメイク版『サイレント・ナイト 悪魔のサンタクロース』(2012)も制作された。この際だからシリーズのリブートを期待したい(ちなみに殺人サンタが登場するのは最初の二作のみで以降は手を変え品を変え様々な恐怖を描いている)
『悪魔のサンタクロース』同様に過去のトラウマから殺人鬼と化す男の悲劇を描きつつ、こちらはより硬派、別の言い方をすれば地味だったためか大した反響もなかった不遇の一作が、その四年前に公開された『サンタが殺しにやってくる』(1980)。世間にうまく自分を合わせられない日陰者の心情を丹念に描写して個人的には好きな映画だが、なにぶん公開年がスプラッター・ブーム幕開け前夜とあって血しぶきは薄くそもそも殺人シーンが少ないとあって、ホラー映画らしいホラー映画を期待すると肩すかしを食らうかもしれない。
殺人サンタ映画にはサンタの殺人鬼化の動機として過去のトラウマが持ち出されることが多い。それはこのジャンルの鋳型を作ったといえる『悪魔のサンタクロース』『サンタが殺しにやってくる』の影響が大きいのだろうが、一方でその影響をまったく感じさせないひたすら陽性の殺人サンタ映画も存在する。『サタンクロース』(2005)はプロレスラーのビル・ゴールドバーグが文字通り悪魔の殺人サンタを演じたスプラッター・アクション・ブラックコメディというべき痛怪作。クリスマス・ディナーに押し入ったサンタ・ゴールドバーグが豪快に笑いながら腕力で人々をミンチにしていくオープニングもすごいがミサイル搭載の殺戮ジェットソリまで登場する終盤に至っては笑うしかない。
殺人サンタの活躍は本場アメリカやイギリスに留まらない。『ウォンテッドMr.クリスマス』(1989)はフランスの殺人サンタ映画。内容的にはホラーというよりシリアスな『ホーム・アローン』のような感じだが、殺人サンタの意思疎通のできなさは立派にホラー。スペインの『スパニッシュ・ホラー・プロジェクト クリスマス・テイル』(2006)はサンタに扮した強盗を残忍な子供たちが監禁して虐待するという陰惨な内容で、このサンタは殺人鬼という感じではないのだが、終盤は監禁状態を脱して子供たちを惨殺にかかる。殺人サンタ映画数あれど、殺人サンタの方を応援したくなる映画はこれぐらいかもしれない。
オランダの殺人サンタ映画『ナイトメア・オブ・サンタクロース』(2010)はジョン・カーペンターの初期傑作『ザ・フォッグ』(1980)の影響が強く感じられる一編。しかしこちらは監督がアクション派のディック・マースとあって『ザ・フォッグ』にあった怪談味はいくぶん薄れ、代わりに殺人サンタ+ゾンビ軍団と警察のカーチェイスや銃撃戦などが展開される。ケレン味のある構図やダイナミックなアクション演出、キレのあるサスペンスが冴えて、怖くはないがユニークで面白い快作だ。ユニーク度ではおそらく殺人サンタ映画史上不動の一位をキープするのがマケドニア映画『グッバイ20世紀』(1999)。ただしこれは人を殺すサンタは出てくるがホラーというよりもジャンル横断的な実験映画。安易には勧められないが変なサンタ映画を探しているなら見て損はないかもしれない。
殺人サンタがおそらく初めてスクリーンに姿を現した記念すべき殺人サンタ映画一作目『魔界からの招待状』はイギリス映画なので、これでアメリカ、イギリス、フランス、スペイン、オランダ、マケドニアに殺人サンタが確認されたことになる。ではキリスト教信仰は薄くともクリスマスが季節の行事としてすっかり根付いている日本はどうかというと、日本にも殺人サンタ映画はあった。それが『楳図かずお劇場 プレゼント』(2005)だ。これは少女がクリスマスに見る血まみれの悪夢という設定の映画で、見所はなんといっても邦画ではまれに見る強烈なゴア描写。物言わぬ殺人サンタが死体を解剖する場面の生理的嫌悪感は殺人サンタ映画史上最悪かもしれない。クリスマスに血を求める悪趣味な人には強くお勧めしたい隠れた逸品だ。
最近は殺人サンタ映画をあまり見かけなくなったがそれでも『ジングルベル』(2016)などの作品は一応ある。従来殺人サンタといえば単独犯だったがこの映画では殺人サンタが三人、その正体はチンピラ若者なのだが、彼らが理由もなくホームレスを弄び殺害していく様には従来の殺人サンタ映画とは違った怖さがある。もっとも、演出力の不足と起伏のないシナリオのせいで怖いというよりはゆるさと退屈さの方が強く感じられるのだが。
見かけなくなったといっても日本国内ではということで、海外に目を転じれば『Once Upon a Time at Christmas』(2017)、『All Through the House』(2015)など、最近はハロウィン殺人鬼のピエロの方にお株を奪われている観もあるが、細々と作られ続けてはいるようだ。日本未公開の殺人サンタ映画としては『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』によってのみ映画史に名を残す脚本家ジョン・ルッソとゾンビ俳優ビル・ハインツマンがタッグを組んだチープなお色気スプラッター『Santa Claws』(1996)が比較的知名度の高い作品なので、まぁこんなもの今更公開されても困るが、殺人サンタ好きならチェックしておきたいところ。
果たして人はなにゆえ殺人サンタをかくも求めるのか。殺人こそ基本的にはしないが暴力サンタもビリー・ボブ・ソーントン主演の『バッド・サンタ』(2003)、メル・ギブソン主演の『クリスマス・ウォーズ』(2020)、デヴィッド・ハーバー主演の『バイオレント・ナイト』(2023)とこちらも比較的よく映画界に出没しているし、ピエロ恐怖症が存在するようにキリスト教圏にはサンタ恐怖症もまた存在するのだろうか?『クリスマスまで開けないで』(1984)という逆にサンタが殺されまくるイギリスのスラッシャー映画もあるが・・・。
例外も多いとはいえ殺人サンタ映画にはクリスマスを楽しめない人間が登場することが多い。殺人サンタ自身がクリスマスにトラウマを抱えていたことから殺人にはしるのは『サンタが殺しにやってくる』や『悪魔のサンタクロース』といったこのジャンルの代表作だ。ひょっとしたら殺人サンタ映画には様々な理由でクリスマスをハッピーに祝えない人々の声なき叫びが込められているのかもしれない。いや、込められているかどうかはともかく、クリスマスというキリスト教圏の一大祝祭にあっては華々しいイルミネーションの影に隠れがちな、クリスマスの同調圧力に押しつぶされがちな、そんな人々にスポットライトを当てるから殺人サンタ映画はいつの世も求められるのかもしれない。
なにはともあれ、今後も殺人サンタには頑張って血と肉片と恐怖を世界中の子供の精神をもった人々に届けてもらいたいものです。それでは、メリー☆クリスマス!