【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第7回前編 英国映画協会「史上最高の映画100」×できるかぎり怒られないランキング考えてみた
英国映画協会(BFI)が10年に一度発表する「史上最高の映画100」の結果が出た。
ランキング常連の名作が選外&大幅に順位を落とし、代わりに女性や非白人による新しい古典映画が続々ランクイン。しかも栄えある第一位はベルギーの女性監督シャンタル・アケルマンによる尖りまくったアート映画『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)が選ばれるというという誰もが予想しえない展開であった。
この結果に監督・批評家として有名なポール・シュレイダーは大反発、「意識高い系リベラルによる歪んだ再評価」と痛烈に批判した。ウチのTLでも快挙!とたたえる人もいればハァ?という反応もあり賛否両論である。
人生で見られる映画の数は限られており、全世界の映画を網羅するなど不可能である。となると客観的な視点というより、個人的な思い入れや政治的態度で選ぶしかないだろう。今回は時代の気分が色濃く出た結果だったのかな・・・と思うが、これから数十年間「ジャンヌ・ディエルマン」が一位で黒澤やフォードやグリフィスやヒッチコックよりアケルマンが上、みたいな映画史になっちゃったら・・・正直ウチは困惑する。知らないうちに全然違う映画史に異世界転生したような気分である。ポール・シュレイダーの気持ちもわからなくもない。
まあこのランキング自体、イギリス名うての映画猛者が議論に議論を重ねた上での結果ではなく単なる1600人によるアンケートなのだからそんなに深く考えるものでもないと思うが。(それまでずっと一位だった「第三の男」は別に大した映画ではないし、ヒッチコックだって再評価されて巨匠枠に入ったのだから、映画史は常に改変し続けるものかもしれませんが・・・)
というわけで今回は進歩的映画ファンも保守的映画ファンも安心できるような、誰からも怒られない史上最高の映画ランキングを考えてみることにしました。今ランキングに求められているのは、癒しと融和だ!!
まずは2022年版「史上最高の映画100」の結果を振り返ってみよう。特に異論のない映画にはノーコメント、ツッコミたい映画には偉そうな一言コメントをつけてみました。
(注意:★は非白人監督・☆は女性監督。頑張って転記しましたが、指さしチェックしていないのでどっかしら間違えているかもしれません。)
95位 『ゲット・アウト 』ジョーダン・ピール 2017★
一発目からいきなり不安になるセレクト。10年に1回しか投票できないんだから、もうちょっと真面目に選んだらどうなのかと言いたくなる。
95位 『キートンの大列車追跡』バスター・キートン クレイド・ブラックマン 1926
95位 『黒人女』センベーヌ・ウスマン 1965★
見てない
95位 『トロピカル・マラディ』アピチャッポン・ウィーラセタクン 2004★
昔イメフォで見てめちゃくちゃ寝た覚えしかない。素直に「ブンミおじさんの森」じゃダメなんだろうか。
95位 『ウエスタン』セルジオ・レオーネ 1968
「続・夕陽」じゃダメで「ウエスタン」ならOKってこれぞ政治という感じがする。
素直に一番面白い映画を選べよ
90位 『抵抗』 ロベール・ブレッソン 1965
脱獄映画ならジャック・ベッケルの「穴」の方が普通に面白い。
90位 『たそがれの女ごころ』マックス・オフュルス 1953
90位 『山猫 』ルキノ・ヴィスコンティ1963
どう考えてもバート・ランカスターはシチリア貴族に見えないよ!
90位 『雨月物語』 溝口健二 1953★
順位低すぎだろ
90位 『ヤンヤン 夏の思い出』 エドワード・ヤン 1999★
う~ん、わざわざ100本に入れるほどの映画かなあ
90位 『パラサイト』 ポン・ジュノ 2019★
賞を取ったから何となく投票した人がいっぱいいるっぽい
88位 『恋する惑星 』ウォン・カーウァイ 1994★
88位 『シャイニング』 スタンリー・キューブリック 1980
ホラー映画でこのランキングに入ってるのは立派。
84位 『ゴダールの映画史』ジャン=リュック・ゴダール 1988
見てない。てか見れない。
84位 『気狂いピエロ 』ジャン=リュック・ゴダール 1965
84位 『ミツバチのささやき 』ビクトル・エリセ 1973
84位 『ブルーベルベット』 デヴィッド・リンチ 1986
嫌いじゃないけど、どう考えても100本に入る映画ではない。
78位 『セリーヌとジュリーは舟でゆく』ジャック・リヴェット 1974
クソ退屈なリヴェットの中で一番マシというだけ。
78位 『天国への階段』 パウエル&プレスバーガー 1946
これ絶対イギリスの以外の国じゃ選ばれない映画だと思う。おらが畑でとれた一番でかいジャガイモといったところだろうか。しかしこれが入って肝心の『黒水仙』(47)が外れてるのは解せないし、『血を吸うカメラ』(60)を入れる度胸もないらしい。
78位『モダンタイムス』チャールズ・チャップリン 1936
78位 『クーリンチェ少年殺人事件』エドワード・ヤン 1991★
78位 『サタン・タンゴ』タル・ベーラ 1994
見てる途中でおしっこに行った人は投票禁止
78位 『サンセット大通り』ビリー・ワイルダー 1950
75位 『山椒大夫』★ 1954
75位 『悲しみは空の彼方に』ダグラス・サーク 1954
ダグラス・サーク好きだけど100に入る監督とは思わなかったなー。
75位 『千と千尋の神隠し 』宮崎駿 2001★
72位 『となりのトトロ 』宮崎駿 1988★
駿で2枠使うなら他に入れるべき監督いるだろ・・・!と日本人ながら怒りが湧いてくる。
72位 『イタリア旅行』ロベルト・ロッセリーニ 1954
素直に「無防備都市」で良いのでは
72位 『情事』ミケランジェロ・アントニオーニ 1960
67位 『メトロポリス』フリッツ・ラング 1927
順位低っ!
67位 『落穂拾い』アニエス・ヴェルダ 2000☆
女性監督枠というよりドキュメンタリー枠かなあ。
67位 『赤い靴』パウエル&プレスバーガー 1948
67位 『ラ・ジュテ』クリス・マルケル 1962
67位 『アンドレイ・ルブリョフ』アンドレイ・タルコフスキー 1966
66位 『トゥキ・ブギ』ジブリル・ジオップ・マンベティ 1973★
見てない
63位 『カサブランカ』マイケル・カーティス 1942
順位低い。初めて見たときダセえ映画だなーって思った。マイケル・カーティスなら『肉の蝋人形』(33)一択。タイトルもいい。肉の蠟人形。
63位 『第三の男』キャロル・リード 1949
順位低い。でもキャロル・リードの映画面白いと思ったことないや。
63位 『グッドフェローズ』マーティン・スコセッシ 1990
「第三の男」と「カサブランカ」と同じ順位というのはスコセッシも困るような気がする。
60位 『自由への旅立ち 』ジュリー・ダッシュ 1991★☆
全然聞いたことねえ映画来た。露骨な女性監督推しだなあ~・・・と感じたが、女性監督作品は100本中、たった8本なのでこれで露骨と思う自分がいけない。でも推すんならもうちょい真面目に選べよと言いたくなる。
60位『ムーンライト』バリー・ジェンキンス 2016★
まあ10年代のアメリカ映画で一本選ぶならこれ。
60位『甘い生活』フェデリコ・フェリーニ 1960
59位 『サンソレイユ』クリス・マルケル 1982
クリス・マルケル好きだよ。でも100に2本入る監督じゃないよ!?
54位 『キートンの探偵学入門』バスター・キートン 1924
54位 『アパートの鍵貸します』ビリー・ワイルダー 1960
54位 『戦艦ポチョムキン』セルゲイ・エイゼンシュテイン 1925
54位 『ブレードランナー』リドリー・スコット 1982
54位 『軽蔑』ジャン=リュック・ゴダール 1963
ブリジット・バルドーのこんもりした尻と、なんか変な階段しか見どころないような気がする。
52位 『家からの手紙』シャンタル・アケルマン 1976
見てない。
52位 『不安と魂』ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 1974
ニュー・ジャーマン・シネマ枠は長生きしてる分ヘルツォークでもいいような気がする。
50位 『ピアノ・レッスン』ジェーン・カンピオン 1992
50位 『大人は判ってくれない』フランソワ・トリュフォー 1959
48位 『ワンダ』バーバラ・ローデン 1970☆
これもいいけど、100に入るかなあ・・・
48位 『奇跡』カール・テオドア・ドライヤー 1955
45位 『北北西に進路を取れ』アルフレッド・ヒッチコック 1959
45位 『アルジェの戦い』ジッロ・ポンテコルヴォ 1966
うーん当時のフランス人じゃないとこの映画の真の凄さは理解できないような気がする。
45位 『バリー・リンドン』スタンリー・キューブリック 1975
巨匠の「こんなのも作ってみました」枠
43位 『キラー・オブ・シープ』チャールズ・バーネット 1977★
見たいけど見てない
43位 『ストーカー』アンドレイ・タルコフスキー 1979
41位 『羅生門』 黒澤明 1950★
41位 『自転車泥棒』ヴィットリオ・デ・シーカ 1948
38位 『裏窓』アルフレッド・ヒッチコック 1954
38位 『お熱いのがお好き』ビリー・ワイルダー 1959
38位 『勝手にしやがれ』ジャン=リュック・ゴダール 1960
日本Twitterだったらリメイク版の『ブレスレス』(83)が入っていた。
36位 『M』フリッツ・ラング 1931
ペドフィリア(多分)殺人鬼をみんなで追い詰めるストーリーはむしろ今の方がウケそうな気もする
36位 『街の灯』チャールズ・チャップリン 1931
35位 『大地のうた』サタジット・レイ 1955★
34位 『アタラント号』ジャン・ヴィゴ 1934
「新学期・操行ゼロ」の方がいいと思う。
31位『 サイコ』 アルフレッド・ヒッチコック 1960
31位 『鏡』アンドレイ・タルコフスキー 1975
堂々3作ランクイン。こうなるとソビエトの映画監督タルコフスキーしか知らない疑惑が浮かんでくる。
31位 『8½』フェデリコ・フェリーニ 1963
30位 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ 2019☆
10年後誰も票入れなさそう。
29位 『タクシードライバー』マーティン・スコセッシ 1976
28位 『ひなぎく』ヴェラ・ヒティロヴァ 1966☆
60年代のチェコ映画なら『火事だよ!カワイ子ちゃん』(67)とか『白い鳩』(60)とか『夜のダイヤモンド』(64)とかもっと面白いやついっぱいあるだろう。なんでわざわざつまんないのを選ぶんだ。
あとチェコ映画を入れるならポーランド映画も一本くらい入ってないとおかしい。駿なんか入れてるから枠が足りなくなるんだ。
27位 『ショア』クロード・ランズマン 1985
ハンガリーに行ったときシナゴーグの近くで「ショア」を一日中上映してる雑居ビルがあった。
多分ヨーロッパではすげえ文化史的に重要な映画なんだろう。
25位 『狩人の夜』チャールズ・ロートン 1955
25位 『バルタザールどこへ行く』ロベール・ブレッソン 1966
24位 『ドゥ・ザ・ライト・シング』スパイク・リー ★ 1989
順位高いよ。
23位 『プレイタイム』ジャック・タチ 1967
21位 『晩春』小津安二郎 1949★
21位 『裁かるるジャンヌ』カール・テオドア・ドライヤー 1927
こんなんただの顔芸映画だろ。
20位 『七人の侍』黒澤明 1954★
順位低すぎ!お勉強のつもりで見たらめちゃくちゃ面白くて感動したんだけどなー 。
19位 『地獄の黙示録』フランシス・フォード・コッポラ 1979
18位 『ペルソナ/仮面』イングマール・ベルイマン 1966
17位 『クローズ・アップ 』アッバス・キアロスタミ 1989★
故人とはいえセクハラや盗作が蒸し返されているキアロスタミがこの順位なのはよくわからない。
16位 『午後の網目』マヤ・デレン 1953☆
Twitterで怪談インフルエンサー「雨穴」氏を見るたび、この映画に出てくる怪人黒マント(?)を思い出す。
15位 『捜索者』ジョン・フォード 1956
ジョン・フォード、たったの1本。今更「駅馬車」なんか入れられないんだろうが、だったら『静かなる男』(52)とかでもいいんじゃないの。
14位 『5時から7時までのクレオ』アニエス・ヴァルダ 1962☆
ヴァルダとアケルマンで4枠も使うならアイダ・ルピノやキラ・ムラートワに分けても良かったんじゃないのか。なんなら『クルーレス』(95)でもいいと思う。
13位『ゲームの規則』ジャン・ルノワール 1939
12位 『ゴッドファーザー』フランシス・フォード・コッポラ 1972
コッポラは「カンバセーション」とか、80年代のどうでもいい感じの映画(ペギー・スーの結婚とか)の方がほどほどに面白くて良いと思う。
11位 『サンライズ 』F・W・ムルナウ 1927
10位 『雨に唄えば』スタンリー・ドーネン 1951
やっとここでミュージカルが一本入った。
9位 『カメラを持った男』ジガ・ヴェルトフ 1929
8位 『マルホランド・ドライブ』デヴィッド・リンチ 2001
順位が高すぎる
7位 『美しき仕事』クレール・ドゥニ 1998☆
順位高すぎる
6位 『2001年宇宙の旅』スタンリー・キューブリック 1968
5位 『花様年華』ウォン・カーウァイ 2000★
順位高すぎる。「00年代、まず花様年華」みたいな風潮あるが本当にそれでいいのか。
4位 『東京物語』小津安二郎 1953★
小津はカラーの方が全然いいと思う。
3位『市民ケーン』オーソン・ウェルズ 1941
「七人の侍」「第三の男」「カサブランカ」が大幅に順位を落としてるのに3位キープは立派。
2位 『めまい』アルフレッド・ヒッチコック 1953
面白いんだけど、なんかというか腐りかけの花を愛でるような感じだよなー
1位 『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』シャンタル・アケルマン 1975☆
栄えある一位。ある日地球に映画を見たことない宇宙人がやってきて「史上最高の映画を見せてくれ」って言われて、この映画を持ってくる奴がいたらアホだと思うな。
<感想>
こう見ると性別とか人種とか作り手の多様性は進んでも、ジャンルの多様性は全然進んでないような気がする。ざっと見西部劇・ホラー・ミュージカル・SF・戦争映画あたりは全部足しても10本あるかどうか微妙である。あとアメリカン・ニューシネマの作品も全滅。
代わりに入っているの新顔組『黒人女』『キラー・オブ・シープ』『自由への代償』などの作品は日本じゃまず見ることができない。アテネ・フランセやイメフォあたりで上映を地道に待つしかなく、ここら辺英語圏と非英語圏の鑑賞環境の差を感じる。(キラー・オブ・シープは最近ピーター・バラカンの特集で上映されてましたが)
そもそも1位の『ジャンヌ・ディエルマン』や48位の『ワンダ』だって日本じゃ今年公開されたばかり。『ゴダールの映画史』やクリス・マルケルの作品も見たい人が見れる環境ではない。そういうわけでこのランキング、一見多様性の勝利っぽく見えるけど実は英語帝国主義の産物なんじゃないかと思ったね。(完全日本人の感想)
非英語圏の映画を見るのにも英語が必要。MUBIで女性監督の埋もれた傑作を楽しむのにも英語が必要。外国人と喋らず、余暇を『スプラトゥーン3』なんかに使っている貧乏日本人労働者じゃ、一生進歩的映画ファンにはなれないって・・・コト!?
お前らは開き直って『スラムダンク』(22)だけ見てろって・・・コト!?(被害妄想)
怖いっ!!怖すぎる!ちいかわのように、泣いてしまう!!
というわけで次はウチの番です。保守も革新も満足も満足、誰からも怒られない優しい映画ベスト100を考えてみました!
ちょうど良いところですが、長くなってきたので後編に続く!(正月休み中に書きます)