【映画の世界の片隅で】6人目 『ホーム・アローン』でケビンの次兄役だったマイケル・C・マロンナ
マコーレー・カルキンの世界的大ヒット作にしてクリスマス映画の定番『ホーム・アローン』は子供の頃にビデオテープがすり切れるほど見た個人的に特別な映画の一つ。映画の面白さ、アメリカ文化、人に親切のすることの大切さ、そしてとりあえず自分でやってみろのDIY精神などはこの映画から学んだもので、それがうまく生かせているかどうかは大いに怪しいとしても、人格形成に際して大いに影響を受けたのは間違いない。よく劇中の泥棒退治トラップを真似して糊を塗りつけたサランラップを扉などに貼って親に怒られたりしていたことを思い出す。
さて、あいにく今年のクリスマスは諸事情あって家で過ごすことになったため、何か面白いクリスマス映画はないかなと各種映画配信サイト探して辿り着いたのがこの映画。面白い。笑っちゃう。もう30年も前の映画だがその輝きは色褪せない。しかし大人になって見る『ホーム・アローン』『ホーム・アローン2』はわずかに子供の頃とは違って見えた。具体的に言えば、子供の頃はさして気にも留めなかったある登場人物の存在感が一回り増していたのだ。その登場人物とはマコーレー・カルキン演じる主人公ケビンの次兄、マイケル・C・マロンナ演じるジェフ・マカリスターである。
『ホーム・アローン』における主人公一家、マカリスター家の家族構成を確認しておこう。マカリスター家は息子3人娘2人の5人兄妹。上からバズ・マカリスター(デヴィン・ラトレイ)、ジェフ・マカリスター、リニー・マカリスター(アンジェラ・ゴーサルズ)、ミーガン・マカリスター(ヒラリー・ウルフ)、そしてケビン・マカリスター。ここにこちらも子だくさんの叔父のフランク一家が加わり劇中では泥棒のハリー(ジョー・ペシ)に「ここは孤児院か?」と言われるほどの賑わいを見せるが、フランク一家の末っ子フラー(キーラン・カルキン)を除けばしっかりと台詞が用意されているのは主にケビンと長兄バズだけで、マカリスター兄妹の残りの3人は二言三言程度しか喋らない。ジェフ・マカリスターの台詞は荷造りを代わりにやってもらえるよう頼むケビンに対する「水とトイレットペーパーを入れとけってバズが言ってたろ」「邪魔なんだよ、害虫野郎」というものだ。
結構手厳しいがその点は姉たちも同じで、一作目『ホーム・アローン』時点でのケビンは劇中年齢8歳、そのうえ裕福な郊外家族の末っ子とあって口の減らない他力本願の甘えん坊であるから、兄や姉たちが邪険にする気持ちもまぁわからないでもないというところ。しかしジェフ・マカリスターの表情筋の乏しい顔つきには他の兄妹にはない疲労の色がある。『ホーム・アローン』の主人公はあくまでもケビンであり、ジェフ・マカリスターなどは脇役も脇役であるからその背景が語られることはないが、しかし俺も大人となった今、下手をしたら子供たちよりマカリスター夫妻の方に年齢がが近くなってしまっている今見れば、その背景はあくまでも勝手にだが想像できてしまう。
板挟みなんだろうなぁ、わがままケビンと意地悪バズの間で。ケビンとバズが喧嘩になったりすると両親からあなた兄なんだからor弟なんだからって仲を取り持つよう日常的に言われたりしてるんだろうなぁ。バズからは厄介事を押しつけられて、ケビンからも厄介事を押しつけられて、妹たちは勝手に遊びに行ったりしちゃうし…という次男坊のツラさ。果たして実際にそうかどうかはともかく、そう想像させる表情をジェフ・マカリスターはしているのである。
その疲労に年若くして押しつぶされてしまったのか続編『ホーム・アローン2』ではジェフ・マカリスターの台詞はゼロ。あくまでも気持ち的にだが一作目よりも一層疲労の度を増した無表情で雨の降りしきるフロリダを眺める姿には人生の悲哀すら感じさせた。その観を更に強めるのはジェフ・マカリスターことマイケル・C・マロンナのその後のやや意外な経歴、なんとマイケル・C・マロンナ、『ホーム・アローン』という世界的大ヒット作で華々しく役者デビューを飾っておきながらも出演側ではなく照明スタッフへと早々転身してしまったのだ。現在もテレビドラマを中心に端役での出演やゲスト出演は続けているが、『ホーム・アローン』公開の7年後に制作された『Six Ways to Sunday』で初めて照明技師としてクレジットされて以来手掛けた作品は58作品にも上り、出演作の倍近くある。手掛けたタイトルも『メン・イン・ブラック3』などの大作やアカデミー賞を賑わせた『プレシャス』、一世を風靡したテレビドラマ『アグリー・ベティ』など堂々たるものだ。
ちなみにマカリスター家の他の子供たちのその後はといえば、長女リニー・マカリスターのアンジェラ・ゴーサルズは活動の場を映画からテレビドラマに移して現在も役者として活動中だが、あまり目立った作品には出演していない。次女ミーガン・マカリスターのヒラリー・ウルフは『ホーム・アローン2』を最後に映画界から引退、柔道家に転身して世界ジュニア選手権48kg級で優勝、1995年の世界選手権では準決勝で谷亮子(田村亮子)と戦うなど、全然知らなかったのだが結構すごい成績を残していた。バズ・マカリスター役デヴィン・ラトレイのその後はひどい。おそらくケビン役マコーレー・カルキンをも凌いでマカリスター家の中ではもっとも俳優として成功したデヴィン・ラトレイは『ハスラーズ』やNetflixドラマ『ベター・コール・ソウル』などの話題作に出演、最近では『ホーム・アローン』シリーズ最新作『ホーム・スイート・ホーム・アローン』にもバズ・マカリスター役としてマコーレー・カルキンさえ呼ばれていないのに出演を果たしている。だが、その直後にDVの疑いで起訴、更にはレイプ容疑でも捜査対象となって、現在は司法の裁きを待つ身。あまりにもバズ的と言うほかない。
末っ子ケビンことマコーレー・カルキンのその後の波乱の人生は言うまでもないだろう。巨額のギャラを巡る両親の泥沼離婚、アルコール依存症、映画界からの一時離脱と様々な奇行(といっても本人は楽しんでやっているようだ)…こうして見れば『ホーム・アローン』の遺産をもっとも生かすことのできたマカリスター家の子供は現在一線級のハリウッド照明技師となったマイケル・C・マロンナなのかもしれない。低きに流れることもなく、高みを目指すこともなく、映画の世界の片隅でサポート役に徹して粛々と堅実に。その生き様はまさしく次男坊。兄と弟のその後も頭に入れて『ホーム・アローン』のマイケル・C・マロンナ=ジェフ・マカリスターを眺めれば、そこには何か人生の教訓のようなものも見えてくるのかもしれない。