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【猛暑を冷ませ!極寒映画特集!】心が心が心が寒くなる『シンプル・プラン』

サム・ライミの映画において忘れられがちな作品であり、思い返される事の少ない一本だろう。

サム・ライミといえば、やはり『死霊のはらわた』シリーズや『スペル』といったコメディ調のホラー作品や『スパイダーマン』のアメコミ映画で話題に上がることが多く、代表作といえばそれらが思い浮かぶ。

だがフィルモグラフィをみてみれば、撮ってきた作品は多種多様である。

中でもこの『シンプル・プラン』は特筆すべき一本だ。『死霊のはらわた』はアッパーな血まみれ映画だし『スパイダーマン』も派手なヒーロー映画だ。だが『シンプル・プラン』は陰惨な犯罪スリラー映画だ。サム・ライミの作品群では最も暗い映画に位置する。

舞台は雪のオハイオの片田舎。妊娠したした妻と暮らすハンク、その風変わりな兄のジェイコブ、2人の粗暴な友人ルーの三人はある日、雪深い森の中で大破したセスナ機を発見する。そしてそこには大金が残されていた。三人は金を奪おうとするが、慎重を期す為に雪解けの季節まで金に手を付けず、隠し通すというシンプルな計画を思いつく。

その後は誰もが想像する通りだと思うが、その計画がうまくいく事はない。次第に歯車が狂いだし、静かな田舎の町で死体が増えていく事となる。

「普通の人が一番怖い」

この映画のポスターに書かれたキャッチコピーはこれだ。だが映画を見た後で思うのはこうだ

「普通だと思いこんでいる人が一番怖い」

この映画には特別な立ち位置の人間は出てこない。物語の中心となる人物3人は田舎で暮らすただの市井の人々だ。中でもハンクは仕事もして、妻がいて、最も中庸に暮らす人物と言える。その兄のジェイコブは独身でみすぼらしく周りからは嫌がられるタイプの男、ルーは乱暴で酒浸りで妻との関係は悪く家庭は荒れている様だ。どこの土地にも、コミュニティにもいるタイプの三人に思える。

だがこの中で最も邪悪な小悪党はハンクであることが分かっていく。彼は自他ともに認める「普通」の男だが、風変わりなジェイコブも、粗暴なルーにも見下している部分が多くあるのだ。自分が一番マトモな人間だという傲りが彼にはあって、これがこの物語の非常に気色の悪く、恐ろしい部分になっている。

思うに、こういう人物は今の世の中にSNSなど中心に多く見えるようになっている。そしてそういう空気感がいよいよ社会を覆っているようにも感じる。ある種の正しさ、まともさを持った人物が「正しい」を免罪符に他の者は切り捨て、見下し、断罪するというような事だ。

逆にこの映画では、変人扱いされているジェイコブは思慮深く、優しさをもった人物であることがセリフの端々や行動から明らかになっていくというのが切ない。

大金が見つかるという事件を皮切りに「普通の人々」という一括りの中に差別の構造が見えてくる。
『シンプル・プラン』はそれを逃げ場のない濃密なやりとりで、緊張感を途切れさる事なく最後まで見せるスリラー映画の傑作だ。

「普通」という言葉の暴力性を見出す、心が寒くなる映画である。

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