【猛暑を冷ませ!極寒映画特集!】北欧サスペンスのおすすめ映画あれこれ詰め合わせパック
寒い映画といえば北欧サスペンス。せっかくだから北欧サスペンスにはそんなに詳しくないが色んなまとめ記事を参考に北欧サスペンスの面白作を10本ぐらいピックアップしてみるかと思ってGoogleで「北欧サスペンス 映画」と検索したらなんか以外とランキング記事みたいのが出てこなかった。ということでちょっとだけ出てきた北欧サスペンスおすすめ記事みたいなものも参照しつつ基本的には自分の記憶を頼りに北欧サスペンスのいいやつを並べてみよう。
とその前に何をもって北欧サスペンスとするかだが、これはとくに明確な定義のない俗語なので、たとえばニコラス・ウィンディング・レフン監督の出世作で北欧の至宝マッツ・ミケルセンの映画デビュー作である1996年のデンマーク映画『プッシャー』であるとか、あるいは同じデンマークのラース・フォン・トリアー監督による『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も、犯罪行為が物語の中で重要な位置を占め、緊張感を煽る演出が施されているという点では広義の北欧サスペンス作品に含めることもできなくはない。
でも一般的に北欧サスペンスって言って『プッシャー』とか『ダンサー・イン・ザ・ダーク』をイメージする人っていないでしょ、たぶん。いや知らんけど。北欧サスペンスが日本でブームとなったのはなんといっても2009年のスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』から。ってことで基本的にはミステリー要素を含むものをここでは北欧サスペンスということにしておく。①ミステリーの要素を含み②殺人などの犯罪的な出来事が起き③劇判(BGM)はあまり使われずリアリズムのタッチで④昔の作品は一般的に北欧サスペンスとは呼ばないので『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の公開前後の1990年代~2010年代ぐらいの作品で⑤そして何より北欧諸国、すなわちデンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、アイスランドのいずれかで制作・撮影された映画、これを北欧サスペンスとしてこの記事では取り上げちゃいましょう。
さてさて北欧サスペンスの火付け役は2009年の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』なわけですが、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』は何も突然生まれたわけではなく、こういう映画が作られた背景には様々な北欧サスペンスの積み重ねがあるわけです。たとえば『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』とはフェミニズム的な題材や横溝正史的な欲に塗れて爛れた人間関係などで共通するのが北欧サスペンスの裏定番的な作品としてよく挙げられる2005年のアイスランド映画『湿地』。アイスランドの荒涼とした風景をバックに殺伐として救いがない物語が展開されるこの映画を見れば、なるほどリスベット・サランデルという凶暴にして不屈のヒロインが北欧サスペンスの鬱屈世界に風穴を挙げた『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』が世界的にヒットした理由もなんとなくわかるような気がします。
時代を更に遡りましょう。1997年のノルウェー映画『不眠症』。ノルウェー名物白夜を背景に脛に傷ある刑事が殺人事件の捜査をしながら懊悩し錯乱していく一種のサイコ・サスペンスといえるこの映画は、2002年にブレイク前のクリストファー・ノーラン監督によって『インソムニア』のタイトルでハリウッド・リメイクされた現在の北欧サスペンスの先駆的作品。VHS時代にはどこのレンタルビデオ屋のサスペンスコーナーにもわりと置いてあった。好みの問題だがアル・パチーノが主演してノーラン監督作らしくケレン味の付与されたリメイク版よりもオリジナル版の方が地味な分だけ狂気が鈍く光る感じで怖くて好きだし、だいいちこっちの方がやはり「北欧サスペンス!」という感じがする。
VHS時代の北欧サスペンスからもう1本、スウェーデン・ノルウェー合作の2000年の映画『スリープウォーカー』。こちらも『不眠症』同様に睡眠障害もののサイコサスペンスで、タイトル通り主人公は夢遊病に悩まされる。夢遊病、突然消えた家族、そして血の痕跡・・・尋常ならざる状況に直面した主人公は何が起こっているのか記録するため頭にビデオカメラを巻いて眠るようになる。そこに記録されていたものとは・・・というこれも怖い映画。ビデオカメラの粗い映像も殺伐ムードに拍車をかけ、北欧サスペンスらしく冷たい空気が全編に蔓延するなかなかの秀作だ。皮肉めいたエンドロールもナイス。
現在は『枯れ葉』などのヒューマニスティックな労働者コメディの名手としてよく知られているフィンランドのアキ・カウリスマキ監督も、実は長編映画監督デビュー作はドストエフスキーの同名原作を翻案した『罪と罰』で、これや1990年の『マッチ工場の少女』は北欧サスペンスっぽさがある。といっても『マッチ工場の少女』などは起こる出来事は凄惨なのだが、アキ・カウリスマキ特有のロベール・ブレッソン的な間や登場人物の無表情により、北欧サスペンスというよりはブラックユーモア映画の印象の方が強いかもしれない。
ブラックユーモア的な北欧サスペンスというとノルウェーのポール・シュレットアウネ監督の1996年作『ジャンク・メール』は、冴えない郵便配達人が一目惚れした女の人のストーカーとなって、やがて犯罪行為に巻き込まれていく・・・というちょっとデヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』を思わせるところもある物語。この監督は寡作ながら北欧サスペンスの職人で、他には2005年の『隣人 ネクストドア』や2011年のノオミ・ラパス主演作『チャイルドコール 呼声』なども、コンパクトにまとまった北欧的な美学を感じさせる良作。現在は主にテレビドラマの監督として活躍しているらしい。
上の北欧サスペンスの定義には含めなかったが、これまで挙げた作品を見ていくと、リアルな中にもどこか寓話的な印象を受ける作品が多いのも北欧サスペンスの特徴であることに気付かされる。いろんな意味で話題を呼んだ2008年のスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は題材が吸血鬼という超自然的なものであるためジャンル的にはホラーとなるが、それが明かされるのは終盤で、途中までは典型的な北欧サスペンスのトーンでストーリーが展開する。そのため見方を変えれば、これもダークな寓話としての北欧サスペンスの一種と言えるんじゃなかろうか。
2012年のデンマーク映画『偽りなき者』もマッツ・ミケルセンが幼稚園の少女に淫行をしたとして町の人々から迫害される寓話的、もしくは聖書的な色彩の濃い物語。実はこの少女は幼稚園の先生であったマッツが好きで、自分から離れていくマッツに嫉妬して性的暴行を受けたと嘘をついた、という風に見えるのだが、肝心のシーンは描写されないので真偽はわからず、最後まで見てもモヤモヤが残るあたり実に北欧サスペンス。あと最後クリスマスが出てくるのでクリスマス映画でもあります。こんな映画をクリスマスに見たくはないが・・・。
ちなみにマッツ・ミケルセンは2005年にも聖書もののデンマーク・ドイツ合作映画『アダムズ・アップル』に出演しているが、こちらは主人公が元受刑囚ではあるものの、信仰をテーマにしたブラックユーモア映画なので北欧サスペンスという感じはあまりない。2017年のアイスランド映画『隣の影』も日本では北欧サスペンスとして紹介されたが、どちらかといえばご近所トラブルを題材にしたブラックユーモア映画じゃないだろうか。とはいえ、いずれも面白い映画ではあるのだが。
そのほか、2013年公開のデンマーク映画『特捜部Q 檻の中の女』は好評を受けてシリーズ化され、『ミレニアム』シリーズと並ぶ北欧サスペンスのヒット作となった。デンマークの北欧サスペンスではスザンネ・ビア監督2013年の作『真夜中のゆりかご』も評価が高い。が、これらはいずれも筆者未見のためなんとも言えず。ただ、いずれも現在ではアマプラとかU-NEXTとかの動画配信サイトで配信されているはずなので、北欧サスペンスのあの冷たい空気で心身を滅却したいという人は見てみることをおすすめします。逆に、個人的に印象に残っている『不眠症』や『ジャンク・メール』はおそらく2024年現在配信なしで、いずれも国内でDVD化もされていないため、鑑賞難度が比較的高い。地球温暖化対策として世界のみんなが冷たい北欧サスペンスを見るようになればそのうちこれらも北欧サスペンスの原点(?)的作品として配信されるかもしれないので、みんなで見よう北欧サスペンス!
マッツ・ミケルセン主演の『残された者 -北の極地−』(2018年)も副題から想像出来るように、かなり寒いというか寒そうな映画です。ジャンルとしてはアドベンチャーもの、なのですが北極圏に不時着した(らしい)唯一の生存者(らしい)マッツが極寒の中、救助をマッツ……いや、違った救助を待つという、出演者は、ほぼ彼だけの一人芝居。そうでなくても艶気ダダ漏れのマッツ。まともに芝居するのは彼だけなので艶気も倍増。そのため観客はあまり寒気を感じないという難点もあります。難点といえばどう考えてもストーリー上辻褄が合わないヘンなシークエンスがいくつもあり、ひょっとしたらアドベンチャーものではなく、妄想系なのかなという気がしないでもない一風変わったヘンな作品です。見所はマッツがカップラーメンを食すシーンで、来日して「猫と一緒に炬燵にミカン」がすっかり気に入り、帰国してもそのライフスタイルを取り入れているマッツのこと。きっと炬燵でカップラーメンも食していることでしょう。
マッツはあんなにスマートで艶気ダダ漏れ(←大事なことなので二度言いました)なのに、TVシリーズ版『ハンニバル』の”せんとくん”とか、かなりヘンなものもへーぜんと熟す人なので、この物理的にもメンタル的にも「極北」といえる『残された者』も面白い作品になっています。
『北の極地』、見ました!面白かったです、マッツの表情筋の死んだ芝居が良くて!こちらの映画は北極映画ということで前の特集記事の「南極北極映画小史」で一言だけですが触れてますのでよろしければどうぞ〜
https://movietoybox.com/archives/2024/07/17/4147/