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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.36 『The Black Cat』(1990) を買った

いつものようにビデマのイタリアンホラー棚を見ていたらThe Black Catと知ってはいるが見慣れないタイトルが目に留まった。The Black Cat、すなわちエドガー・アラン・ポーの名編『黒猫』。これまで幾度も映画化されてきたホラーの定番タイトルでイタリアン・ホラー界においても巨匠ルチオ・フルチが『恐怖!黒猫』として原作と全然ちゃうやんけとおそらくスタッフに心の中で言われながらも大胆に翻案映画化していることは言うまでもない。

その『黒猫』かと思ったがソフトのジャケ裏を見ると違うらしく監督・脚本、ついでに出演までこなしたのはルイジ・コッツィ。初期アルジェント映画の脚本家であり難病恋愛映画の佳作『ラスト・コンサート』と『エイリアン』をイタリア風にパクったらなぜか卵が爆発しまくるようになった『エイリアンドローム』を監督したイタリア映画界らしく守備範囲が広いと言えば聞こえが良いが要するに節操のない映画職人だ。ふーん。しかしジャケ裏の解説文を読んでいると衝撃の事実発覚。イタリアでは元々Demons 6として公開された・・・ってこれ『デモンズ6』だったのかよ!

イタリア映画界にはBeyond the DoorシリーズやZombiシリーズなどシリーズではないホラーの名シリーズが数々あることはよく知られているが、『デモンズ』もその一つだったとは知らなかった・・・『デモンズ2』以降はゾンビものでもないし(『デモンズ’95』はゾンビものだが)日本の配給が勝手にそんな邦題を付けているのかと思っていたが、このThe Black Catが当初Demons 6のタイトルだったということはれっきとしたシリーズのようだ。いや、れっきとしたシリーズじゃないだろ!ポーの『黒猫』を勝手に『デモンズ』シリーズに入れるなよ!さすがイタリア映画界は原作に対して容赦がない。

原作には一切出てこない死者との交信を主テーマにジャッロ風の連続殺人を絡めたフルチの『恐怖!黒猫』は原作とは全然違いつつも実はポーの様々な作品をミックスしたポー好きフルチのマニアックなポー・オマージュ作の側面もあったが、ルイジ・コッツィにフルチのようなポーへの思い入れはなかったらしいのでこの映画の原作無視っぷりはフルチの比ではなかった。なんと黒猫が出るのは無意味な折々のインサート・ショットを除けば最初だけ!それもThe Black Catという映画を撮影しているシーン(監督役はミケーレ・ソアヴィ)で出るのだが、その劇中劇The Black Catは以降のストーリーに関係がないという興味のなさなのだからすごい。『黒猫』といえば壁に猫が生き埋めにされてというあのあまりにも有名なラストだが、それさえもなかったので、ここまで単にポー及び『黒猫』の名前で売りたいだけの原作映画化というのもなかなかないんじゃないだろうか。

以降はこのThe Black Catを撮影していたスタッフと女優が新作魔女映画の準備に取りかかったところそのシナリオの中に出てくる魔女が現実世界を侵食し女優の家に現れては汚い汁を吐いたりテレビの中の内臓を爆発させたりとかするのだが、途中ゴブリンの『サスペリア』テーマ曲が流れ『サスペリア』自身にも『バタリアン』風に言及されるので何かと思えば、もともとはこの映画、アルジェントの『インフェルノ』に続く魔女三部作の完結編として構想されたらしかった。『サスペリア』と『インフェルノ』の続きが色々あってThe Black Catになるのだからイタリア映画界である。あと『遊星からの物体X』のエンニオ・モリコーネによるテーマ曲のパクリみたいのも流れる。とにかく節操がない。

ストーリーのスケールは無駄にでかく宇宙空間の映像に胎児がオーバーラップする冒頭はすわ『2001年宇宙の旅』か!と思わせるが主な舞台は女優の家だし女優が魔女の悪夢を見ておかしくなっていく展開なので壮大なスケールに反してやってることはやたら地味。でも最後は現実世界に顕現した魔女がビーム光線を撃ってきたりする・・・『マニトウ』こんな感じだったよね。製作年が1990年(1989年説も)なのでサウンドトラックはアップテンポなハードロックで画面にめっちゃ合わない。映画シナリオの中の魔女が現実を変貌させていくという発想は面白いものの節操がなく常にふわふわしているのでどのへんを楽しめばいいのか最後までよくわからない映画だが、まぁいいかどうせ『デモンズ6』だし!

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com