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ウチだって社会派だぜ!!

【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第3回前編 元祖ガーシーチャンネル!?「哀愁の花びら」

 2022年2月、芸能界に激震走る!東谷義和、通称ガーシーと名乗る男が芸能界の裏側を告白する暴露系YOUTUBERとして活動を始めたのだ。彼は長年男性芸能人に女性の紹介をしていたらしく、その乱行ぶりを詳細に語った動画はみるみるうちに拡散された。暴力・レ〇プ・売春・ギャンブル・浮気・クスリ・詐欺・脱税・ヤクザ・未成年とのセ〇クス・膣内〇精・避妊具を付けない性〇為・薬物を使用した〇行為・・・我々小市民は恐怖のあまり切り抜き動画やまとめサイトから目が離せない!後出てない話と言えば殺人と連続殺人と屍〇と獣〇くらいだろうか? この記事を書いてるうちにガーシーが「真剣佑はロサンゼルスでチワワをレ〇プしてる」とか言い出すかもしれないが!

 ちなみにガーシーは自分の仕事を「アテンド業」と説明しているが、女衒(ぜげん)という奥ゆかしい言葉が日本人のボキャブラリーから消えてしまったのは残念である。(やってることは全然奥ゆかしくないんだが)そういえば今村昌平で『女衒 ZEGEN』(87)なんて映画もあったね。

 さてガーシーチャンネルに先駆けること約60年前、アメリカに「女版ガーシー」とも言うべき偉大な存在がいたのである。売れないテレビ女優だった彼女は実在の有名人をモデルにセ〇クス・ドラッグにまみれたショービズ界の裏側を暴露する小説を書いた。同性愛・不倫・ア〇ルセッ〇スなど過激な性描写や不幸のつるべ落としというべきお粗末なストーリーで批評家からは酷評されるも、売れに売れまくり当時の発行部数記録を塗り替えることになる。なんと現時点で3100万部!『偉大なるギャツビー』や『風と共に去りぬ』よりも上なのだ。

 その作家の名はジャクリーン・スーザン。彼女が書いた史上最強のクズ小説『人形の谷間』(66)と、その映画版である『哀愁の花びら』(67)は日本ではほとんど知名度がないが、アメリカ文化史を語る上で欠かせない極めて重要な作品である。では60年代ハリウッドの宵闇にでっかい人間関係の星座を描いていこう!綾野剛と乃木坂の肉体関係みたいに!

 一応断っておくが、ここに載せている情報はインターネット上の様々な英語記事を参照したものである。出典を確認するよう心がけているが、60年代に発行された雑誌や邦訳の無い本が多く残念ながら元情報をすべて確認できたわけではない。そのためこの記事の信憑性はガーシーチャンネルと同じくらいであるとご理解ください。

 


 小説「人形の谷間」は1940年代から60年代までの芸能界で奮闘する女性たちの栄光と敗北を描いた一大長編だ。スターの卵である若い女性3人が主人公で、こいつらが男とくっついたり別れたりする以上の内容はないのだが、ダサい文章や困惑するような性描写・安っぽい悲劇的展開の連続で「一周回って笑える」系の作品だ。ちなみに「人形の谷間」というタイトルについてだが「人形」というのはドラッグの隠語である。登場人物にはそれぞれモデルとなった実在の芸能人がおり、読者の下世話な興味をそそる物語になっている。


 

 ざっとヒロインたちを紹介しよう。

アン 

 田舎からニューヨークに出て来た田舎者のお嬢様。最初は芸能関係の法律事務所で秘書として働いていたが、後に美貌と知性を買われ化粧品のCMタレントとして売れっ子になる。NYに上京してすぐ大富豪にプロポーズされるも、同じ法律事務所で働いている作家志望の恋人ライアンに一途。おそらく実際にCMタレントとして活動していたジャクリーン・スーザン自身がモデルなのだろう。まったく厚かましい作者である。

ジェニファー 

 美貌の新人女優。アンがデボラ・カーみたいな上品な奥様タイプとすれば、こちらはマリリン・モンローのようなゴージャス系の「夢の女」タイプ。セックスシンボルとして消費され一向に女優として評価されないハリウッドに嫌気がさしフランスでポルノ女優として起死回生を図るも、彼女の自慢の肉体は乳がんに侵されていた!数々の男性と浮名を流すも、付き合う相手は見栄っ張りの貧乏貴族や既婚者プロデューサー、ア〇ルセックスをしたがる有名歌手(ディーン・マーティンがモデル)など癖が強すぎる男ばかり。

 モデルはジャクリーン・スーザンの友人だった女優のキャロル・ランディスだといわれている。ジャクリーンの伝記の著者である作家のバーバラ・シーマンは、ジャクリーンとランディスはただの友達同士ではなく、肉体関係(レズ)もあったのではないかと言っているのだから驚きだ。彼女は『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授役で知られる英国紳士俳優レックス・ハリソンの愛人だったのだが、29歳の時に自殺している。しかも第一発見者であるハリソンはなぜか警察や救急車をすぐに呼ばず、何時間も放置していたらしい。(うわー)

 当時ハリソン夫人だったのはドイツ出身の国際派女優リリー・パルマ―だが、この自殺事件の9年後ハリソンの別の愛人ケイ・ケンドールが白血病で余命わずかなことを知り、離婚してケンドールにハリソンを譲っている。なんだか谷崎潤一郎の世界みたいだな。ちなみにケンドールと死別後に再婚した4番目の妻レイチェル・ロバーツ(『ピクニックatハンギングロック』(75)等に出演)はハリソンと離婚後に自殺。こうなってくるとちょっと怖い。

ニーリイ

 歌と演技の天才少女。幼少期からボードヴィルのドサ回りを経験したゆえか、アンやジェニファーに比べて大人っぽく上昇志向が強い。ブロードウェイの大女優ヘレン・ローソンのショーに出演するチャンスを得るも、才能に嫉妬した彼女から数々のいじめを受ける。映画会社と契約してからはトップスターとして大活躍を見せる。しかし私生活ではバイセクシャルの夫の浮気癖や睡眠薬の乱用でヘロヘロ、いつしか「わがまま女優」のレッテルを貼られ凋落していく。モデルは『オズの魔法使い』(39)で有名なジュディ・ガーランド。

ヘレン

 ブロードウェイのトップスター。加齢ですっかり容貌が衰え、周囲から煙たがられているが仕事に対する姿勢はプロ中のプロ。モデルは「アニーよ銃よ取れ」で知られる舞台女優エセル・マーマン。アーネスト・ボーグナインと一時期結婚していた人です。売れっ子になったニーリィがヘレンに復讐する場面は、本作で一番ひどくて面白い箇所なので少しご紹介しよう。

「行かせるもんか、この業つく婆!」ニーリイがさけんで、ヘレンのうしろから跳びかかり、髪の毛をつかんだ。(中略)「かつら!」ニーリイが叫んで、長い黒髪をかざしてアンにみせた。「やっぱり、この髪も、この女と同じつくりものだったんだわ」(中略)「ねえ 何してんのよ?」ヘレンが金切り声をあげてアンの方にふりかえった。「ああ、便器のなかに捨てたんだ、きっと。そのあばずれ、殺してやる!」へレンが悪態をついているあいだ、アンと化粧室の女はニーリイを説得しようとした。唯一の答えは、つづけざまに聞こえる不吉な水洗の音だけだ。

井上一夫訳『人形の谷間』,二見書房,1970年

 ・・・読んでるだけで疲れるね。 

 「人形の谷間」は大反響を呼び、当時『ペイトン・プレイス』(56)が持っていた記録を抜いて、世界一売れた小説として出版史に名を刻んだ。ちなみに同時期のベストセラーでゲイ男性が性転換手術で完璧な美女に変身し、男性社会をぶっ壊すため大暴れする鬼才ゴア・ウィダルによる『マイラ』(1968)というさらにキレた内容の小説がある。何というか当時のアメリカ人は・・・暇だったのだろうか?

 さて、ベストセラー小説の常として当然「人形の谷間」にも映画化企画「哀愁の花びら」の話が持ち上がる。(ややこしいのだが「哀愁の花びら」は日本公開時のタイトルで、小説・映画共に原題は「Valley of the Dolls」です。)

 監督は『チャンピオン』(49)等で知られる名匠マーク・ロブソン、ヘレン役にジュディ・ガーランドがキャスティングされていた。ニーリイのモデルであるジュディ・ガーランドにいびり役ヘレン役を演じさせるなんて残酷な話だが、当時彼女は司会を務めていたTV番組が打ち切りになり厳しい状況が立たされていたらしい。製作元のワーナーは「人形の谷間」を崖っぷちジュディのカムバック映画として売り出しかった・・・という事情。マーク・ロブソンは前述した『ペイトン・プレイス』の映画化『青春物語』(57)で落ち目だったラナ・ターナー(娘が殺人犯になったことで有名な)のキャリアを見事復活させており、その手腕を買われての起用だろう。

故ナンシー関は川島なお美を「心のかさぶた」(気にしちゃダメなんだけど気になってしまう存在)と書いていたが、
筆者にとってガーシーチャンネルもそんな存在である。なお美が亡くなった時、TVの特集で自宅の表札に「アトリーチェ」(イタリア語で女優の意味)と書いていたエピソードが紹介されていたが、笑い話にしか思えなかった。日本版「哀愁の花びら」を選ぶなら彼女だろうか。

 3人のヒロインだが、アンは「ペイトン・プレイス」のTVドラマ版に出演していたバーバラ・パーキンス、ニーリイは『奇跡の人』(62)のヘレン・ケラー役でアカデミー助演女優賞を獲得したパティ・デューク、ジェニファーはロマン・ポランスキー夫人であるシャロン・テートがそれぞれ演じることとなった。また『夜の大捜査線』(67)『刑事コロンボ』(71)で知られる名女優リー・グラントや、端役で無名時代のリチャード・ドレイファスも出演している。

 さて、名匠マーク・ロブソンと大スタージュディと記者会見し、原作者のジャクリーンも鼻高々。キャストも出揃い、いよいよ撮影開始・・・という所で大問題が発生する。ジュディ・ガーランドが使い物にならないのだ。彼女は仕事中べろべろに酔っぱらっており、まともに演技ができるような状態ではなかった。耐えかねたマーク・ロブソンはジュディを2日でクビにし、ヘレン役は『明日泣く』(55)『私は死にたくない』(57)等で有名なスーザン・ヘイワードが演じることとなった。ヘイワードはマーク・ロブソンの『愚かなり我が心』(49)に主演しており、勝手知ったる仲というやつだったのだろう。

 ニーリイ役のパティ・デュークはこう振り返っている。「あのクソ監督はジュディを朝の6時半から夕方の4時までずっと待たせていたのよ。その間、取り巻きの男たちが彼女に酒を飲ませて・・・出番が来た時、もう演技できるような状態ではなかった。」つまり、監督がクビになるよう仕向けたってこと。かくしてジュディ・ガーランドは返り咲きならず、失意のうち2年後に世を去ることになる。ジュディの娘ライザ・ミネリが「母はハリウッドに殺された」と語ったのは有名だが、本当にその通りである。

長くなったので続きは後編で!

 

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ゲームって映画よりも面白れぇな~