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ウチだって社会派だぜ!!

【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第3回後編 元祖ガーシーチャンネル!?「哀愁の花びら」

 前編はこちら

 そんなこんなで始まった『哀愁の花びら』の製作だが、トラブル続きで雰囲気は最悪。出来上がった映画もクズとしか言えない代物だった。どんなもんか是非実際に見て確かめてほしい。

 失敗した原因だが、原作の20年間という時間の流れを無視して無理矢理現代ものとしてまとめたことが一番大きな理由だろう。男とくっついたり別れたり病気になったりロクに人物描写が無いまま次から次に事件が起こって原作以上に展開が早く感じられる。もう何が何だか。

 俳優陣についてだが、主役であるバーバラ・パーキンスは自分の役どころ(慌てず・騒がず・目立たず)を理解して健闘しているが、パティ・デュークのオーバーアクトは酷い。後半なんか演技というより格ゲーでひたすら強攻撃を連打しているようなヤケクソ状態だ。見てるこっちも思わず「ボディがガラ空きだぜ」と合いの手を入れたくなってしまう。一応演技派であるはずの彼女が酔っ払いながら「おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱいだらけ!私にはおっぱいは必要ない。だって大スターだもの!」と絶叫する場面は必見。

 男優陣の魅力の無さも致命的で、バービー人形のケンやハローキティの彼氏ダニエル、海物語のサムでももう少し存在感あるだろと文句を言いたくなるほどだ。画面に出てくるたび「コイツ、一体誰だっけ?」と毎回新鮮な気分にさせられる。(そんなことってある?)

 また原作の苦いラスト(ジェニファーは自殺し、ニーリイは仕事に復帰するも私生活はボロボロ、アンは愛のない結婚に埋没する)を改変して、わざとらしいハッピーエンドにしている点も不評を買った。脚本に参加していたハーラン・エリスンはこの改変に抗議してクレジットを外されている。

 試写会で映画を見たジャクリーンは「この映画はゴミじゃないの!」と激怒した。とはいえ原作自体が三文小説だから、一概に映画が悪いと言いきれないのがが困りどころなのだが・・・彼女は「私はビートルズやアンディ・ウォーホルと並ぶ60年代のアイコンになる」と公言するほどの野心家で、テレビレポーター役として映画版にも出演していたのだが。残念ながら女優としてのキャリアはこれで終わった。

「哀愁」ではひどいエピソードばかりだが、マーク・ロブソンの初監督作『第七の犠牲者』(43)は今まで見てきた映画の中で10本の指に入るかなという位の傑作。何としても見てほしいすげえ変なホラー映画。(未上映・未ソフト)元々ジャック・ターナーの下で編集やってた人です。

 67年は『俺たちに明日はない』『卒業』といったカッコいいアメリカン・ニューシネマの傑作が次々公開された年である。それに比べ『哀愁の花びら』のこのダサさはきつい。(マーク・ロブソンがこの映画の後に作ったサスペンス『屋根の上の赤ちゃん』は普通に面白い映画なので、単純に原作に呆れてやる気がなかったんだろう。)

 一応偉大な原作のおかげで『哀愁』は大ヒットを記録するも、観客からも批評家からも評価は散々であった。リチャード・ドレイファスは「公開からずっと後に初めてこの映画を見たんだけど、俺は67年の最高の映画と最悪の映画の両方に出てたみたいだな。」と語っている。ここで出てくる「最高の映画」とは『卒業』のことだが、パティ・デュークとスーザン・ヘイワードはそれぞれ『卒業』のエレインとミセス・ロビンソン役の候補でもあった。大きい魚を逃がして代わりにヘドロを釣る羽目になったのだから気の毒である。

 ジェニファー役のシャロン・テートについても語っておこう。今の若い映画ファンにはタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)のヒロインで、なんか殺されたらしい人としてしか認識されてないだろうが、『哀愁』は彼女の持ち味が生かされた代表作である。

 顔は綺麗、でも、すげえ大根。作中「私は才能がないから体が武器なの。バスト体操してるわ」というジェニファーのセリフがあるのだが、シャロン本人とあまりに重なるセリフな上に、「バスト体操」の変な動きも合わさって本作の見せ場(ネタ的な意味で)の一つになっている。ジェニファー役は元々人気女優ラクエル・ウェルチが演じる予定だったのだが、露骨なセックスシンボル役を嫌がって新人だったシャロン・テートにお鉢が回ってきたという事情がある。ラクエル・ウェルチといえば『恐竜100万年』(66)の原始人ビキニで有名だが、この作品は『紀元前百万年』(40)という戦前の恐竜特撮映画のリメイクだ。その「紀元前」でヒロインを演じたのが前編で紹介したキャロル・ランディスなのだから、実現しなかったキャスティングとはいえ不思議な縁を感じる。

 余談だがラクエル・ウェルチは長年全身整形の噂があり、古い映画本を読んでると「サイボーグ美女」と書かれてたりしてビビる。サイボーグ美女・・・メタルギアに出てくるサイボーグ忍者の手下みたいな奴を想像してしまう。彼女は「マイラ」の映画化である『マイラ -むかし、マイラは男だった-』(70)に主演しているのだが、全身整形の噂を逆手に取ったような役柄を演じていてなかなか痛快。この映画版「マイラ」は淀川長治が絶賛するほどめちゃくちゃ面白い映画なのでぜひ見てほしい。

 彼女は『恐竜』や『ミクロの決死圏』(66)のような特撮映画のヒロインや『女ガンマン 皆殺しのメロディ』(71)の裸ポンチョばかり語られるが、実はゴールデングローブ賞受賞歴もある名コメディエンヌである。ブラックコメディの佳作『走れ走れ!救急車』(76)やローラースケートに打ち込む女性を描いた『カンサス・シティの爆弾娘』(72)では彼女の溌溂とした魅力が味わえる。フランスでベルモンドの相手役を演じた『ムッシュとマドモアゼル』(77)なんかも楽しい。個人的には非常に過小評価されている女優だと思う。

 ラクエル・ウェルチの名誉のために記しておくが、『コクーン』(85)に出演していた娘のターニー・ウェルチは母親に顔がそっくりなので、彼女の美貌は手術の賜物ではなく生来のものである。なぜこんな噂が流れたのか?これは完全に推測だが、同時代『ピンクの豹』(63)のクルーゾー夫人役で有名な女優のキャプシーヌも「実は性転換した男」(また性転換!)という噂があった。キャプシーヌの場合、愛想のない態度や歯に衣着せぬフェミニズム的な発言で反感を買ったのが原因らしいが、おそらくラクエル・ウェルチも似たような理由だったのではなかろうか?(もう一度書くが完全に推測です)

 女優はちょっと態度が悪いだけでやれ実は男だのサイボーグだの噂されるが、男優はどんだけ態度が悪くて、飲兵衛で暴れん坊でも「トイレでタンポンを使ってるのを見た」とか「実はロボットで定期的なオイル交換が欠かせない」とか絶対に言われないんだから、この非対称性たるや!与太話ではあるが、こういう当時の芸能界の実態を知ると「人形の谷間」のバカなストーリーもちょっと印象が変わってくる。最近日本の映画界でも演劇界でもセクハラ告発が相次いでいるが、『哀愁』本編や製作時のエピソードを知ると芸能界で搾取される女性っていうのは何もこないだ始まった問題ではないということがわかる。今日的なテーマを扱っているのって何も今日の映画だけじゃないんだな。「アップデート」された新作映画をやたら持ち上げる人に感じる違和感はそこかもしれない。

 (しかしキャプシーヌ=男説は町山&柳下の「映画欠席裁判」でも話題に出ているそこそこ有名なネタだが、どうも日本での噂の出所は丹波哲郎らしい。『第七の暁』(64)で共演中にキャプシーヌと一度関係を持ったのだが、彼女が亡くなった時に解剖で男性だと判明し大変驚いた・・・という話をテレホンショッキングで語っていたそうだ。ヤッたなら男って気づかねえわけねえだろ!と叫びたくなるような脱力エピソードである。逆「M・バタフライ」かよ。)


 さて関係者たちのその後をご紹介しよう。アン役のバーバラ・パーキンスはテレビ女優として90年代半ばまで地道に活動。シャロン・テートは自宅で凶悪カルト・マンソンファミリーの襲撃に遭い、その場にいた友人やお腹の中の赤ん坊ごと惨殺された。このテート・ラビアンカ事件は夫ポランスキーの監督作『ローズマリーの赤ちゃん』(68)との奇妙な共通点を引き合いに出して語られることが多いが、真に事件を予言しているのはむしろ『哀愁』だろう。愛する男性との子供を渇望し、絶望して死を選ぶジェニファーの姿だけではない。妻の死後、未成年を性的に搾取してお尋ね者になったポランスキーは「人形の谷間」に出てくるショービズ界のゲス男そのものだからだ。第一回で紹介したデミ・ムーアもデビュー前にポランスキーと会っていたというのだから驚きである。 

 ニーリイ役のパティ・デュークも映画女優としてのキャリアを潰され、テレビに活動の中心を移した。「ローズマリーの赤ちゃん」の続編であるTV映画『続・ローズマリーの赤ちゃん』(76)等に主演しているが、『グーニーズ』(85)や「ロード・オブ・ザ・リング』の『ストレンジャー・シングス』で有名な俳優ショーン・アスティンのお母さんと説明した方が通りが良いかもしれない。

 原作者ジャクリーン・スーザンは1974年に56才で死去している。晩年の彼女は「かつて私の読者だった主婦たちは今やウォーターゲート事件に熱中している。家に帰ったらまずテレビ、小説は読まない」と嘆いていたそうだ。(第二回のアレ!)なんとジャクリーンはシャロンが殺された晩、彼女の自宅に招待されていたのだ。しかし、俳優・映画評論家のレックス・リードと急遽会う予定ができたことで難を逃れていた。その後彼女はジェニファーと同じ病気(乳がん)に侵され「あの日シャロンの誘いを断らなければもっと早くこうなっていたのね」・・・と語っていたというのだから運命とは皮肉なものである。(ちなみにレックス・リードは映画版「マイラ」でラクエル・ウェルチの性転換前の姿を演じている。つくづく「哀愁」と縁が深い映画である。)

 生涯セレブリティへの強い憧れを持ち続け、一発逆転をキめた3流女優・・・というのがジャクリーンに対する評価だが、作家としての彼女に一番近い存在は「ハリウッド・バビロン」等の著作で知られるアングラ映画界の王様ケネス・アンガーではないかと思う。ハリウッドの本流に対する屈折した愛情を、一方が小説として発表しもう一方が「ノンフィクション」として発表したことは大変興味深い。二人ともハリウッドという名の悪魔の子種を啜り、異形の姉妹「人形の谷間」と「ハリウッド・バビロン」を孕んだのである!・・・ついテンションが高くなってしまった。

 だれも見向きもしなかったカス映画「哀愁の花びら」は、その後ゲイコミュニティの間で人気を博すことになった。前述したカルト映画の名作『マイラ』や『ロッキー・ホラー・ショー』(76)なんかはバカな映画だが、狙ってバカをやっている点である意味とても頭のいい作品である。しかし「哀愁」は大マジのマジ。本物のバカ映画にしか出せない迫力・駄作でしか出せない味・・・唯一無二の個性を彼ら・彼女らは見出したのだのだろう。こういう時のゲイコミュニティの嗅覚は凄い。日本でも『デビルマン』(04)のように「一周回って面白い」系のカルト映画があるが、「哀愁」はその元祖のような存在だ。 

 『人形の谷間』と『哀愁の花びら』は後世の作品に多大な影響を与えた。「哀愁」の非公式の続編として作られたラス・メイヤー監督・ロジャー・イーバート脚本『ワイルド・パーティー』(70)は70年代を代表する傑作映画として評価されており、ジョン・ウォーターズにも影響を与えている。比べてみると『哀愁』のどこがダメなのか如実にわかるのでお勉強のつもりで2本見てみましょう。またドラァグ・クイーンの派手な化粧やパフォーマンスはこの映画が元ネタの1つだし、キッチュで豪華絢爛な作風で知られるファッションデザイナー、アレッサンドロ・ミケーレも影響を受けているクリエイターの一人だろう。

 スーザン・ソンタグが、大げさでけばけばしい大衆的な美的感覚・様式を「キャンプ」として定義したのは64年の事だが、今や「哀愁」はキャンプの代表的作品としてみなされている。バカも突き詰めれば一つの様式になるのだ。

 思うに、真に偉大な映画・後続に影響を与える作品というのは我々の視界の外からやってくるのではないか?ここ数年で人気の映画、例えばMCU作品全般やA24製作のアレコレや過去のヒット作のリブートもの・・・その内50年残る作品は何本あるだろうか?少なくとも『哀愁』は公開から55年経った現在も新たな観客を生み、縁もゆかりもない日本でこうやって長文を書いて記事にしてる奴もいるんだから立派な映画だよ。

 主演のバーバラ・パーキンスはこう語っている。「ゲイコミュニティには本当に感謝しているし、作品を誇りに思っている。『哀愁の花びら』のファンに出会ったら、意外と良いと思わない?って答えてるの。ジャクリーンが生きていたらきっと心からこの状況を楽しんでいたはずよ。」人気作を見るだけじゃ本当の映画好きとは言えない。ゴミ山からダイヤモンドを見つけられる映画スカベンジャーを目指そう!

 というわけでガーシー、お前も小説を書け!(強引に〆)

<参考文献リスト>
PATTY DUKE on JUDY GARLAND in VALLEY OF THE DOLLS @ Castro Theatre https://www.youtube.com/watch?v=3N9AAnnxpS8
Valley of the Dolls (1967) – IMDb https://www.imdb.com/title/tt0062430/
Q&A: Barbara Parkins WINDY CITY TIMES https://www.windycitytimes.com/lgbt/QA-Barbara-Parkins/11869.html
Once Was Never Enough https://www.vanityfair.com/culture/2000/01/jacqueline-susann-valley-of-the-dolls-books
Jacqueline Susann Dead at 53; Novelist Wrote ‘Valley of Dolls’ https://archive.nytimes.com/www.nytimes.com/books/98/01/04/home/susann-obit.html
Valley of the Dolls – The Judy Room https://www.thejudyroom.com/filmography/valley-of-the-dolls/
Valley of the Dolls (film) https://en.wikipedia.org/wiki/Valley_of_the_Dolls_(film)#cite_note-4
John Waters Goes Beyond the Valley of the Dolls https://www.criterion.com/current/posts/4242-john-waters-goes-beyond-the-valley-of-the-dolls



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正直映画よりもゲームの方が好きなんだよな