MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

ウチだって社会派だぜ!!

【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第9回 核戦争を生き延びろ!ウクライナ侵攻×『Duck And Cover』

 コロナの次は核戦争である!

 去年2月から始まったウクライナ侵攻、プーチンは核使用の可能性を明言し国際社会に衝撃を与えた。もはや第二のキューバ危機といっても過言ではない!4秒進めて3秒戻すってな具合でちまちま進めてた終末時計もモリモリ大回転しているに違いないだろう。我々もシン・西側陣営の一員として、来るべきプーチンや金正恩や習近平の核に備えなければならない!進め一億火の玉だ!

 今回ご紹介するのはアメリカの古い教育映画『Duck And Cover』(53)である。日本人はご存じない人が多いだろうが、実はこの映画アメリカの一定世代の人は誰でも一度は見たであろう超有名作品である。(『さようなら対馬丸』みたいな)

 なんたってアメリカといえば唯一の核使用国!核を知り尽くした国が作った映画なんだからきっと般若心経みたいにありがたく大変ためになる内容に違いない。見たら瞬時に覚悟完了して竹槍でプーチンを刺したくなるような!(ということにしてください)

 この映画は現在パブリック・ドメインでYOUTUBEで無駄に高画質なものや日本語字幕つきのバージョンがUPされている。上映時間わずか10分なのでこんな記事を読んで満足せず、ぜひ現物を見ていただきたいところだ。

 ところで「Duck&Cover」というのはこの映画オリジナルのタイトルではなく、冷戦時に広く使われていたスローガンである。日本の小学校でも「押さない・駆けない・喋らない・戻らない」の略で「お・か・し・も」という大変すわりの悪い、お・か・し・な防災スローガンがあったけど、イメージとしてはあんな感じ。


~ここから先は見た人向けの感想です~

  いかがでしょうか?のんきな絵面に思わず、核なめとんかと日本人としては思わず説教したくなる内容である。70年前の映画とはいえ、こんな認識で東側に勝てるわけないだろ・・・とひとしきりツッコんだ後思わず不安になってしまう。

 だが安心してほしい(?)この『Duck&Cover』は『サウスパーク』や『Fallout』シリーズなど数々の作品でしっかりとネタにされている。あちらの国でも真面目な教育映画というより、パロディや嘲笑の対象として受けとめられているのだろう。

記憶を頼りにVaultBoyを描いたら全然違っていた。VaultBoyは元々無印『Fallout』(97)の説明書に載ってる机の下に隠れる少年のイラストから生まれたキャラクターなのだが、どう見ても『Duck&Cover』の例の場面が元ネタ

 しかし、考えてみてほしい。この映画は劇映画ではなく学校で子供に見せる教育映画であって、グロテスクな人体破壊を見せて核の脅威を伝えるものではない。また核投下直後に絞った内容であって、伏せて隠れればもう安心!といってるわけではない。(核シェルター避難後はちゃんとまた別の教育映画がある)

 ネタにされている机の下への避難だってちゃんと有効性が実証されているものだ。広島・長崎では様子を見ようとして窓に近づき、爆風に巻き込まれた市民が多かったそうだ。ヤバそうだったらとにかくじっとして周りの物で身を守る行動は実に正しい。また制作したのはアメリカ軍ではなく、連邦民間防衛局(Federal Civil Defense Administration)という大統領府に所属していた組織である。彼らがどれだけ広島・長崎の惨事を知っているだろう?内容に問題があるとしても、それは後世の観客だから言えることなのではないか?

 (ちなみに米軍はというと『Combat Stress Management on the Nuclear Battlefield 』(58)という研修用映画を製作しているのだが、戦闘中に核が落ちたらココアを飲んで気持ちを落ち着けろ!という大変狂った内容で『Duck』よりもコッチのほうが全然ヤバい。)

 『Duck&Cover』は決して間違った内容ではない・・・ないのだが、ナレーションについているのんきな映像のせいで、あたかも「核はあぶなくないよ♪」というプロパガンダに見えてくる不思議な作品だ。(英語版wikiにも「よくある勘違いですが、これはプロパガンダを意図して制作されたものではありません」との記述がある。)ついトンデモ映画の烙印を押したくなるが、考えれば考えるほどこの当時はこう作るしかなかったのではないか?という気持ちになってくる。

  見かけによらず冷戦の苦みに満ちた映画、それが『Duck&Cover』だ。映画という媒体の特性(映像の声の組み合わせで生まれるメッセージ)や、その危なっかしさを考えるうえで大変参考になる教材と言えるだろう。

 ちなみに今の日本でもDuck&Cover訓練は普通に行われている。まあやらないよりやったほうがマシ・・・なのか?

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゲームって映画よりも面白れぇな~