【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第8回 悪とは何か?不条理とは何か?スシロー醤油ペロペロ事件×『ラルジャン』
久々の大型炎上案件である。たわいもない悪ふざけが日本中の怒りを買った。
その事件は回転すしチェーン スシロー岐阜正木店」で起きた。
とある少年が友人と来店した際に、テーブルに備え付けられている醤油ボトルの注ぎ口をペロペロなめていたというのだ。もちろん醤油は寿司につけて食うためのものでペロペロするものではない。ほかの客も利用するであろう醤油に自分の唾液を混ぜたというのだから大変である。しかもその犯行をなぜか友人が撮影し、なぜかTIKTOKに投稿してしまった。
同時期に別の回転寿司でこっそり大量ワサビを混入する悪質な客が話題となっていたため、注目が集まっていたのだろう。少年の動画はたちまちネット民に捕捉され、大炎上してしまった。現在少年の本名・家族構成・住所まで特定され、通っていた高校には嫌がらせの電話が大量に届いているそうだ。
それだけではない。被害を受けた「スシロー」が少年を民事訴訟で訴える構えを見せているのだ。もしスシロー側の訴えが認められれば、賠償金は数千万を下らないだろう。櫻井孝宏が不倫相手に支払う賠償金とどっちが高いのか大変気になるところである。醤油をぺろんちょしただけなのに・・・と本人は悔やんでいることだろう。
さて、いまだ狂乱冷めやらぬスシロー事件であるが、ここで一本の映画をご紹介したい。
その名も『ラルジャン』(83)フランスの巨匠ロベール・ブレッソン84歳の時の作品で、遺作にして最高傑作と称せられる名作中の名作である。そんな映画史に残る大傑作と、おバカ高校生が引き起こしたスシロー事件になんの繋がりがあるのか?と怪訝に思う方もいるであろう。実はこの事件、日本版「ラルジャン」といっても良いほど共通点しかない!・・・というわけで以後本記事の中では「スシロー事件」のことを「スシロー事件」ではなくフランス語風に「ラ・アフェール・スシロ」と呼ぶことにする!(文法的にあってるかどうかは知りませぬ)
まずは映画のあらすじをご紹介したいのだが、この映画、決して難しい話ではないのだが要約しようとすると結構面倒くさい話だ。
とあるところに労働者階級の青年がおりました。
その青年は写真店で修理の仕事を請け負った時に、丁稚の少年から報酬として偽札を受け取りました。
青年がカフェで偽札を使ったらさあ大変。偽札犯の濡れ衣を着せられ、仕事をクビになり、食い詰めた青年はとうとう銀行強盗に手を出します。
実はこの偽札、元はというと小遣いが足りない金持ちのボンボンが遊びで作ったものでした。
写真店の店主は偽札の存在に気付いていたものの、面倒なのでわざと青年に押し付けたのでした。
金持ちのボンボンもその親も写真店の店主も店員も被害者面をするだけで、誰一人青年に謝罪をするものはおりませんでした。
服役中、幼い娘は病気で死に、妻には去られ、最悪の事態が次々に起こります。
数年後青年は出所するのですが、積もりに積もった社会への恨みつらみが暴発し、次々に一家惨殺強盗事件を繰り返すのでした。そしてまた警察に捕まりました。終わり。
不運な青年を襲う不条理に次ぐ不条理、いつしか彼は社会に対する敵意を募らせ、ついに殺人に及ぶ・・・という全く救いようのないストーリーである。なかでも親切なおばさんとその一家を惨殺し、スプラトゥーンのバンカラマッチ並みにキルカウントを稼ぎまくるラストは衝撃的である。おばさんを斧で殺した瞬間WIPEOUT!って表示されてるよ。
もうラ・アフェール・スシロとの共通点はおわかりだろう。一枚の偽金<ラルジャン>が人の人生を破壊することもあれば、一本の醤油<ソイ ソージャ>が人生を破壊することもあるのである・・・。
いや、『ラルジャン』の青年は不幸でかわいそうだけど、ラ・アフェール・スシロの少年は自業自得だし同情の余地はない!との反論もあるだろう。しかし『ラルジャン』で最初に偽札を作ったのは金持ちのバカ子供であった。彼は青年を破滅させる原因を作った犯罪者にも関わらず、実家パワーでまんまと逃げおおせるのである。そこに注目して頂きたい!
この世の中にはどんなに悪いことをしても金や権力を使ってもみ消せるヤツがいる一方で、ラ・アフェール・スシロの少年のように必要以上の罰を受けるヤツもいる。これを不条理と呼ばずしてなんと呼ぼう。これが岸田のバカ息子や、田舎侍の子孫こと岸・家系図・信千代だったらどうだっただろう?
たとえ醤油に小便や鼻水や精液を入れても、示談金を払って終わりである。
おそらくここ数年のSNSでラ・アフェール・スシロの少年並みに叩かれた人物と言えば、池袋暴走事故の加害者の爺さんくらいであろう。事故とはいえ二人死なせちゃった爺さんに比べると、少年の罪は罪とも呼べないようなちんけな行為である。どう考えても異常な叩かれ方だ。
『ラルジャン』で主人公と同じ独房の囚人がこう呟く場面がある。
「法廷が味方せずとも、君には人間生来の権利がある。自己の存在や世界の不条理を認識した者に、宿命を認識した者に、何という?__服従せよ!」
本当の悪とは何か?常に問い続けなければならない!以上!