【こないだビデマでこれ買った】Vol.1『THE VHS STRANGLER : GIALLO TAPES』を買った
輸入盤DVDやBlu-rayソフトを販売している新宿ビデオマーケットといえば新宿の映画文化を闇もとい影で支える名店である。昔ながらのレンタルビデオ屋の香り漂うその店内には所狭しとカンフーやらゾンビやら宇宙怪物やらのアヤシゲな映画ソフトが並び、学術的に言うところのボンクラ映画オタクにとっては店内をうろうろしているだけでみるみる体力が回復していくというある種のパワースポットでもある。不思議なことに財布の中身は店内をうろうろしているだけでみるみる減っていくのだが。
さてそんな新宿ビデオマーケットでうっかり買ってしまったレアだったりアレだったりするだいたい日本未公開の映画をせっかく買ったのだし紹介しようというのがこのコーナー。栄えある第一回目は『THE VHS STRANGLER : GIALLO TAPES』!知らない。全然知らない。予告編を貼ろうと思ってYouTubeで検索したらヒットしなかったし世界最大の映画データベースサイトIMDbにユーザーレビューが一件もなかったぐらい知らないっていうか知られてない(ロッテントマトにはそもそもページがなかった)。はたしてこのソフトの中にはどんな秘境が待ち受けているのだろうか。
DVDをPCに入れるとすぐに本編が始まった。あれ、メインメニューみたいなの無いの?無い。メニューも無いしチャプターも無い。もちろん特典映像などもなくあとDVD-R。俺がこの映画を買ったのは『ゾンビーズ・フロム・セクタ-9』別題『ゾンビ9』の監督が参加したホラーオムニバスというビデマさんの説明に惹かれてではなく、生産者から直接しかも大量に買い付けているために輸入盤の新作新品ソフトにも関わらず2000円くらいという円安の世にあるまじき良心的な価格設定のためだった。パッケージを見ればなるほどかなり安っぽい映画であろうことは容易に想像できたが、今時チャプターも無いくらい(仕様が)安いなんて。ちなみに『ゾンビ9』についてはMOVIE TOYBOXのゾンビ映画探検家ハカタさんが以前レビューを書いてくれたのでよろしければ併せてご覧下さい。
映画本編しか入ってないというなかなかストロングというかハングリーな仕様だが、もしかするとこれはビデオテープっぽさを演出するためのギミックだったのかもしれない。タイトルの前部を直訳すれば『ビデオテープ絞殺魔』。その名の通りビデオテープを凶器にする覆面の殺人鬼が出てきて侵入した家の住人をテープで絞め殺すが、このビデオ狂の殺人鬼、それから家に漁っていて発見した謎のビデオテープに夢中になってしまう。そのビデオテープに記録されていたものは…という設定で以下5分~8分程度の短編ホラーが計13本続く、これはビデオ文化へのノスタルジーとオマージュの込められた映画なのであった。きっと『VHSシンドローム』シリーズを見てものすごく安易に思いついたんだろう。
『VHSシンドローム』の方はテーマや題材は様々でもPOVホラーという制約もあり各エピソードに統一感があったが、こちら『THE VHS STRANGLER : GIALLO TAPES』の方は内容は当然として画質も言語もクオリティも完全にバラバラ。共通項といえばどれも殺人が出てくるところぐらいしかない。各エピソードごとに製作プロダクションというかどれも自主レーベルなのでインディーズのひとりバンドみたいなものなのだが、さておきプロダクションのロゴが出るので、どうやらこれ『THE VHS STRANGLER : GIALLO TAPES』というハコのために作られた短編を収めたオムニバス映画ではなく、各国の自主制作ホラーの作り手たちから短編を集めて一本の映画にしたホラー・アンソロジーらしい。一人一人は非力でもみんなで力を合わせればソフトが出せて海を渡り極東の島国の新宿ビデマまで届く!基本的にどのエピソードも出来はヘボいがそう考えるとちょっとイイ話っぽい気がしてきてしまう。
タイトルにはジャーロとあるがジャーロ映画(※ジャーロ映画とは主に1970年代にイタリアで流行したミステリーとスラッシャーの中間形態みたいな映画のことだ)っぽいのは13エピソードのうち2本か3本。ジャケットには成人指定マークがあったのでどんな残酷描写があるのだろうと思ったら、ホラーというよりホラー趣味のフェチ系ソフトコア・ポルノみたいなエピソードが1本あったので、どうもそのエピソードのエロ描写が成人指定の所以ぽい。というわけでタイトルから想像させられるようなゴア描写とか残酷殺人なんかは思ったより少ない。どちらかと言えば直接的な描写よりBGMとか雰囲気で怖がらせようとするエピソードが多めなのはなんか意外である。ゴア描写は手間が結構かかるから…という身も蓋もない理由でそうなっているような気もしないでもないのだが。
印象に残ったエピソードはタイトルが長いイタリア語なので思わず書くのを控えてしまう恐怖のパパのエピソード。他の作品はフェイク予告編やゴア寄りのイメージ動画のようなものが多く、したがってストーリーどころか台詞もほとんどないぐらいなのだが、このエピソードは短い中にゴアあり意外な展開ありで作品としてちゃんと完成されていたし、考えなしに置いているわけではないことが伺える照明や監督本人とかなのかもしれない無名役者の繊細な演技が醸し出す低温の病的ムードが気持ち悪くて良い。制作のGORE PRODUCTION(まんまやないか)はもう1本人形と共に暮らす男のエピソードを提供していて、こちらもあの『クリーン、シェーヴン』を思わせる…とまで言えば完全に嘘になるが、とはいえなかなかムーディーなエピソードに仕上がっていた。
もう1本挙げるとすればその恐怖のパパのエピソードの次に入っている覆面のデブが死体解体を自撮りするエピソードだろうか。死体解体と書けばなにやら穏やかではないが開けてびっくり死体はカメラの外にある。デブは死体を刺したりなんかしてる見え見えのフリだけしてカメラの横に置かれた人間の皮のバレバレなレプリカをカメラにかざす、そして食う。お前そうやってなんでも食っちゃうから太るんだよ。しかしすごいのはその次の出来事で、一瞬目を疑ったのだが、今度は親指サイズの胎児人形をカメラの横から取ってきてカメラにかざす。妊婦を殺して腹の中の胎児を引っ張り出してきた、とでも言いたいのだろうか。そのサイズの時の胎児そんな形じゃないぞとツッコミを入れる人が周囲にいなかったのかなと思うとなんか急にエモーショナル。そしてまた食う。食うなよそれたぶん食えないよゴムとかシリコンとかだから。完成度は全13エピソードの中で一番低いが、残したくなくても印象に残ってしまうエピソードであった。
まぁ面白いかどうかで言ったら当然一つ一つのエピソードはそんなに面白くない。でも面白くないエピソードでも5分かそこらで終わってしまうわけだし、俺はもともとSF小説のアンソロジーとか大好きなのだが、こうやって何本も並べられると次はどんなのが来るかなという楽しみが出てくる。安いことは間違いないので見ようとする人にはある程度のチープ耐性とむしろチープさを楽しさに変換してしまえる寛大な心が必要になるが、そのハードルをクリアすれば作り手の手弁当っぷりが微笑ましくて結構楽しめるホラーアンソロジーなんじゃないだろうか。もしビデマに置いてあったら『THE VHS STRANGLER : GIALLO TAPES』、買ってくれとは思わないがジャケ裏ぐらいは要チェックだ。ジャケットちょっとカッコイイし。