MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.9 『Gloved Murderess』を買った

世界最大の映画データベースIMDbに置いてあるのでちょっとこのジャケットアートを見て欲しい。ビデマの棚から引っこ抜いたときにはその場違い感にえっと思ってしまった。まるでなんとかカッツィみたいなアート映画を思わせる小洒落たデザイン。カラリングもタイポグラフィも洗練されてカッコよく、「Music by VELVET ACID CHRIST」なんて書かれれば一切知らないアーティストだがなんとなく大物アーティストっぽい気もしてくる。タイトルの上には「JENNII CAROLINE in」の文字。こちらも一切知らない女優さんだがその名を冠するということは界隈では名の知れた人なのかもしれない。ジャケ裏デザインもスッキリと洗練されているためどのへんが見所の映画なのかイマイチわからないが、きっとアーティスティックなホラーに違いない。とりあえず買ってみた。

レーベル面もカッコいい。ペットショップボーイズのCDみたい。

さてジャケットによればアメリカン・ジャッロと銘打たれたこの映画。ジャッロとは説明不要かもしれないが主に70年代イタリアで量産された猟奇的なミステリー小説/映画を指し、このジャンルの特徴は探偵小説的な論理性よりも殺人描写の面白さを重視しているところにある。アメリカン・ジャッロと言われて真っ先に頭に浮かぶのはジョン・カーペンターだ。自作へのイタリア製ジャンル映画の影響を公言するカーペンターはジャッロ映画の手法に寓話性や怪談話を織り込んでスラッシャー映画の元祖『ハロウィン』を作り上げ、製作と脚本を担当した続編『ハロウィンⅡ』ではジャッロの名匠ダリオ・アルジェントの『サスペリアPART2/紅い深淵』にオマージュを捧げた。埋もれた脚本作『アイズ』はファッション業界という舞台設定も写真家という主人公の職業設定もそれらしい正調ジャッロ映画の佳作だった。

ジャッロ映画はとにかくスタイルで見せる映画というところがある。このGloved MurderessのDVDジャケットがやたらとカッコいいのもそうしたジャッロの精神に則ってのことだろう。映画の内容も確かにジャッロ精神を感じるものであった。主人公のファッショナブルといえばファッショナブルな気もしないでもない女性(ジェニー・キャロライン)は連日の悪夢に悩まされている。それは夜の街をナイフを手に徘徊しては男たちのチンコを切断して殺すというものだった。折しも街では連続殺人事件が発生しているらしい。果たしてこれは夢か現実か。主人公は夢の謎を探るべく自らのトラウマ的な過去へと遡行していく・・・。

ジャケットは洒落ているが見せ場はチンコの切断というギャップが実にジャッロなGloved Murderessである。チンコの切断(3本ぐらい)以外はダラダラどうでもいい会話シーンとか街を彷徨うショットとかばかりで別に面白くないのだが、チンコを刈る描写は出し惜しみしていないし、チンコを刈る夢のシーンには例のベルベット・アシッド・クライストのわりと名前負けしている80年代レトロ調のクラブサウンドが鳴ってまぁまぁ気分が盛り上がる。コントラストの強烈な撮影とジャッロ的に色彩のどぎつい照明というかカラコレもなかなか効いていて、ジャッロ映画としてのケレン味は及第点。メランコリックな雰囲気も悪くなく、50分というランタイムの短さもあり結構楽しめてしまった。ちなみに50分と書いたのはジャケット裏にはランタイム58分と書いてあるが明らかにそれほどの人数は関わっていないのにスタッフロールが超大作並みに8分ぐらい続くから。多くて数十人しか載せる名前がないと思われるスタッフロールを8分に伸ばしてあるのでロールの進みは信じられないほど遅く最初静止画かと思ってしまった。

それにしても驚かされたのはこの監督ダスティン・ファーガソンの驚異的なフィルモグラフィーである。他にどんな映画を撮ってるんだろうかとIMDbのこの監督のページを開くと監督作134本。映画監督として本格的に歩みを始めたのは2010年頃のようなのでわずか13年で134本作ったことになる。ためしに数えてみたら2020年は22本もの映画を監督しているらしく1ヶ月2本に迫ろうかという超過労死的ハイペースである。Gloved Murderessよりもダスティン・ファーガソンのその意味不明な馬車馬労働っぷりの方がよほど怖いが、おそらくは企画脚本撮影編集まで含めて1週間ぐらいでできる最低予算のジャンル映画の監督ということなのだろう。このGloved Murderessは例外的に洒落ているがIMDbのフィルモグラフィーを見る限り他のファーガソン監督作は最低予算ジャンル映画らしく駄菓子みたいな身も蓋もないジャケットデザインとタイトルばかり。Zombi VIII: Urban DecayとかAmityville in the Hoodとか。

最低サメ映画界隈の監督としても知られているらしいダスティン・ファーガソンだが、趣味的にこれらのゴミ映画を撮っているところも相当あるだろうとしても、やはり本格的な映画もたまには撮ってみたいと思うこともあるのかもしれない。その1本が最低予算ジャンル映画の監督作にしては随分と垢抜けたこのGloved Murderessなのだとすれば、なんだかちょっとイイ話っぽく感じられないこともないのであった。

ちなみにDVD特典で入ってる短編JENNII CAROLINE’s Horror Movie Workoutはジェニー・キャロラインがホラー映画に出るためのトレーニングと称して森の中をランニングしたり乳を強調してストレッチする映像にキャロラインの出演過去作の殺人シーンとかではなく主に会話シーンを差し挟んだダイジェスト映像集というか販促映像集であり、あまりにも安いしあまりにもつまらない。DVDの本編であるところのGloved Murderessよりもこちらの方が最低予算ジャンル映画監督としてのダスティン・ファーガソンの本領発揮といえる作品なのかもしれない。

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com