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ウチだって社会派だぜ!!

【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】番外編②オランダで一番有名な子供部屋おじさんについて紹介する

 世を騒がすニュースや面白事件に関係ありそうでなさそうでありそうな映画を紹介する・・・というのがこのコーナーのコンセプトだが、今回は番外編としてめちゃくちゃ面白い映画についてご紹介したいと思う!今回取り上げる作品は、オランダに住む自閉症男性とその家族に密着したドキュメンタリー『ケースのためにできること』(14)である。

ケースのためにできること

自閉症のケースは44歳。一緒に住む両親が身の回りの世話をしている。両親の愛情でケースは比較的自立した大人に成長したが、現在80歳と83歳の両親がケースの面倒を見られなくなった時のケースの運命は果たして…。ケースの将来のために献身する両親を映画製作者モニーク・ノルテが追う。

https://eufilmdays.jp/year2020/lineup/entry-896.html

 上の文章は2020EUフィルムデーズの配信時の作品紹介文である。なんか真面目っぽい説明文だが騙されることなかれ。主人公であるオランダの自閉症おじさんが、身の回りの色んな事にキレ散らかし、抗議し、大暴れする爆笑障害者映画なのだ!

 近年『僕が飛び跳ねる理由』(20)や『梅切らぬバカ』(19)『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(19)など自閉症がテーマの映画・ドラマが数多く公開されているが、この『ケースのためにできること』は主人公のおっさんのキャラが濃すぎてそれらの作品とは一線を画している。強烈な個性の持ち主を追っかけるという点では原一男の『ゆきゆきて、神軍』(86)に近いかもしれない・・・!(言い過ぎかもしれない・・・!)

 ちなみに奥崎謙三のように殺人未遂で捕まったりはしないが、こちらの映画も割ととんでもない終わり方をします。 


 オランダ地方都市に暮らすケース・モッマ(御年42歳)はお絵かきをしたり趣味の鉄道模型で遊ぶのが大好き。自閉症である彼は実家の敷地に建てられた離れで暮らしながら、悠々自適の子供部屋おじさんライフを謳歌していた。

 しかし、ケースの子供部屋ライフを支える両親は既に80才を過ぎ、立派な後期高齢者である。ケースの兄たちはなんとか両親が生きている間に自立してほしいと不満のご様子。

 そんな兄弟の心配もどこ吹く風、目下ケースの一番の心配事といえば、地球温暖化である。
テレビの天気予報を見ながら、少しでも温かい気温になると「地中海性気候の元では暮らせない!」と絶叫し、この世の終わりかのように嘆く姿は本作のお笑いポイントの一つ。

 ケースの母ヘンリエッテは神経質な息子を刺激しないよう、雑誌や新聞からネガティブな話題を切り抜いて見せないようにするという用意周到ぶりである。ついでに最近後頭部が薄くなっている息子の髪を梳かしてやったりもする。至れり尽くせりである。

 ヘンリエッテによると、ケースが赤ちゃんの頃からどこか他の子とは違うと感じていたらしいが、ある日テレビで自閉症の特集を見て、これはうちの子の事だ!と直感したらしい。
 以来母子二人三脚で歩んできたケースとヘンリエッテ。両親は自閉症向けのグループホームを設立する夢を持っているが、莫大な資金を必要とするためなかなか上手くいかない。


 ある日、ケース母子が車で移動している時に事件は起こった。ケースはドイツ人が運転しているであろうメルセデス・ベンツの荒い運転を見て車内で激怒してしまう。

 「汚いベンツ・・・クソキャベツ野郎のろくでなし、いつも攻撃的だ!」
 「クソキャベツ、信じられないよ!クソキャベツ!」 
 「あいつらをもう一度懲らしめるべきだ!モフリカに水爆を落とせ!」
 「電車で来れば良かった!」
 「あいつに会ったら、あいつの口を殴ってやる!高速道路なんて大嫌いだ!」

 ・・・と、ありとあらゆる言葉を尽くしてドイツ人を罵るのであった。ちなみに「キャベツ」というのはドイツ人がよくザワークラウトを食べることから来た悪口で、モフリカ(Mof,Mofrica)というのも第一次世界大戦から第二次世界大戦期に使われていたドイツに対する蔑称らしい。(由来は不明)

 その動画はYOUTUBEで100万近く再生されているのだが、オランダの総人口が1600万人であることを考えると結構驚異的な再生回数である。日本におけるマムシに噛まれた柴犬ラッキー(2240万回再生)か、トンビにカメパン盗まれた(1033万回再生)のようなものだろうか。

 コメント欄を見ると「オランダの戦後感情を1分で捉えるケース」「道路でドイツ人を見かけるたびにこの動画を思い出す」「ドイツ人の先生に宿題をいっぱい出された時の私」などの投稿があり、大国ドイツに対するオランダ人の複雑な感情が伺える。

 怒り狂うケースと冷静にたしなめるヘンリエッテのシュールなやりとりがオランダ国内で大ウケし、幸か不幸かケースは一躍時の人となってしまった。ケースの日常はテレビシリーズとして放送され、実に450万人が鑑賞したという。『明治天皇と日露大戦争』(57)並みの数字である。

 今年投稿された動画ではケース親子の顔がディープフェイクでオランダ国王ウィルヘルムとその母ベアトリスにすげ代わっている。『ケースのためにできること』の公開から10年近く経っているのだが、まだまだミームとして現役らしい。


 とまぁケースの愉快な日常をカメラは追っていくのだが、映画はそこそこ衝撃的な終わり方をする。

 ある日母が病気で倒れてしまい、いつもの様にお世話をしてくれないことに苛立つケース。こんなんで自立なんかできんのかよ・・・と不安になるケースの振る舞いだが、ヘンリエッテは息子の将来についてこう語る。

 「安楽死も一つの選択肢でしょうね」「あの子にとって死ぬことは解放でもある。死ねば自分を怒らせる物はもう無いのだから」「心配は電車に飛び込んで自殺することね。彼は電車が大好きだから・・・」

 いやどんな心配だよ!鉄道マニアが高じて電車に飛び込んだヤツとか聞いたことねえわ!とツッコミたくなるが、過保護な母親としか映ってなかったヘンリエッテが、実は深い諦念が突き抜けてクローネンバーグの『クラッシュ』(96)ばりの死生観に接近してしまった人であったことが判明するのである。てか安楽死・・・安楽死って何!?ケース死んじゃうのか!?怖いっ!ケース死なないでっ!!(オランダで安楽死は合法)

 そして映画は「甥っ子に身長を抜かされて最悪の気分だ!」とビデオ通話で激怒するケースの姿で終わる。

 え!?これを見せられて、私たちはどうしろって言うんですか!?と言いたくなるようなエンディングである。まあ現在進行形で進んでいる家庭の問題なので上手くまとめられなかったのだろうが、それにしても・・・ケースはあの後、一体どうなっちゃうんだ!?

 ご心配には及びません。ケース、生きております!
 『ケースのためにできること』(14)の続編『マイ・ファミリー 自閉症の僕のひとり立ち』(23)が11月25日(土)より新宿K’s cinemaなど全国の劇場で上映予定。ケースがあの後どうなったか、ぜひ見逃さないでほしい。(K’s cinemaでの上映は一週間だけなので注意)

 ケースは現在56才。未だ両親は健在である。

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ゲームって映画よりも面白れぇな~