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底抜け映画再審理

【底抜け映画再審理】第5回 被告:『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』

今まさに日本のみならず世界中で大絶賛爆裂ヒット中の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ですが、本作は時を遡ること30年前の実写版マリオこと『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』である。まぁ割と有名なので知っている人は多いと思うがマリオがどう見ても本当にただのヒゲのおじさん(しかもハゲてる)というビジュアルで当時のちびっ子たちに衝撃を与えた作品で、ガッカリ映画、とくに実写もののガッカリ映画としては度々名前が挙がる作品でもある。

ガッカリ映画を見直していいとこ探し(無かったらゴメン)をしようぜという趣旨のコラムなのでぴったりな作品だし、さらに30年の時を経て公開された新作アニメ版が超ヒット中となればそこに乗っかるしかあるまいということなのだが、本作は今まで取り上げてきたお題の映画たちとは少しだけ事情が違う。いやもったいぶるようなことでもないけど、実は俺今回が『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』初見だったんですよ。世代的には直撃くらいなんだけど上記したように「これ全然マリオじゃないじゃん…」というビジュアルに臆してしまい、さらに先に見た友人がみんな口をそろえて「見なくていいよ」と言っていたので何となく手を出していなかったんですね。前回までは全部見たことある作品だったから世間の酷評の声に対して「馬鹿野郎! こいつらにだって面白いところはあるんだよ!」という気持ちで臨めたのだが、今回は(ガチでつまんなかったらどうしよ…)とおっかなびっくりで本編を見始めたのであった。

んでどうだったのかというと、率直に言うと面白かったですね。まぁ名作とか傑作とかいうほどの作品ではないけど、割と楽しめたし、個人的な好き嫌いで判定するなら間違いなく好きな方の映画でした。しかしだ、これは先に言っておくがテレビゲームの『スーパーマリオブラザーズ』を原作とした映画としては確かに厳しいところはある。いやそこに関しては厳しいところしかないのではないだろうか。

ちなみにガッカリ映画が選出される本コラムに於いて第4回の『ターミネーター3』以外は全てが原作ありのものである。しかも奇しくも第3回の『GODZILLA』以外はその中でも全部テレビゲーム原作もの。まぁそこはテレビゲームに限らないが、漫画やアニメが実写映画発表されたときにTwitterなどのSNS上がきっとクソ映画になるに違いないと決めてかかってるファンたちの阿鼻叫喚で満たされるのはお決まりのようになっている。そこから見えてくるものが何なのかというと、B級やC級やZ級と言われる単純なクソ映画とは違ってガッカリ映画というのは期待からの落差が激しいものがその烙印を押されるのだということだろう。だって今年の2月くらいにやってた『キラーカブトガニ』とかはクソ映画とは呼ばれてもガッカリ映画とは呼ばれないでしょう。最初から期待されてないんだからガッカリされることもないわけですよ。それでいくとガッカリ映画の常連が原作ものになるというのは自明の理である。もしくは『ターミネーター3』のように続編ものだ。

まぁそんなことは今更大発見だと騒ぎ立てるようなことではまったくないのだが、本作で多くの人がガッカリした部分もマリオの実写映画としてこれどうなのよ? という部分であろう。たとえば生みの親である宮本茂としてはマリオの年齢は25歳前後というイメージらしいのだが本作では上記したように完全なるおっさんである。年齢は低く見積もっても40代半ばくらいはありそうだし、これもすでに書いたが頭頂部は綺麗にハゲている。マリオとして主演したボブ・ホスキンスは当時51歳であった。そればかりかルイージとは兄弟というよりも親子のような関係だし、ピーチ姫はいなくてなぜかデイジーがヒロインだし、デニス・ホッパー演じるクッパは妙に雰囲気があって面白いけどやっぱクッパには見えないって! とツッコミどころは枚挙に暇がない。あと、もう笑うしかなかったのはヨッシーがガチ恐竜。まぁ安っぽい着ぐるみで出てこられてもアレだけど、そっちでくるかぁというのは笑いながらも感心してしまった。感心するところじゃないよ!

なのでマリオ映画としては??? とクエスチョン3連打くらいはしてしまう出来だが、しかしまぁ懐かしい香りのするガキ向け実写映画としてはそこまで悪くないと思うんですよね。本作は93年の映画で当時はまだ物珍しかったテレビゲーム原作の映画なわけだけど、その系譜としてはおそらく『グレムリン』(84年)とか『ゴーストバスターズ』(84年)とか『グーニーズ』(85年)とか、その辺の映画の延長線上にある作品なんじゃないかと思うんですよね。あとはティムバートンの『バットマン』(89年)とかさ。もちろん、今挙げた名作群に比べると本作は間違いなく1~2ランクは落ちる作品ではあるが、ジャリ向けの映画だと思えばわりとこんなもんじゃね? っていう気もするし80年代には確実にあったガキ向け実写映画の残り香がする映画としてはそれだけでグッとくるところはありますよ。邦画でも角川映画で同じくらいの時期にそういう作品がよく作られていたがそういうところに郷愁を感じる人間にはかなり味わい深い映画でしたね。

ガキ向けの映画というのは当然今でもあるけれど、実写はかなり少なくなって9割以上はCGアニメのものになったと思う。詳しく数字を調べたわけではないが、恐らく『トイ・ストーリー』(95年)の大ヒットによって流れが変わったのではないだろうか。00年代以降の子供向け実写映画といえば『ハリーポッター』シリーズと『チャーリーとチョコレート工場』とあとはいくつかのディズニー作品くらいしか思い浮かばなかった。それでいくと本作はガキ向けの実写作品としてはCGアニメへと世代交代するくらいの時期で時代の徒花的な雰囲気も帯びていると思うんですよね。当然だがそんなのは“今見ればそう見える”ということであって当時の評価はそれはそれで仕方ないとも思うのだが、やっぱ見所がない映画ではないですよ。

あと個人的にはマリオの世界観とは相性悪そうなサイバーパンク感のある美術とかはかなりグッときましたね。そこは多分当時流行ってたからとか、そのくらいのノリなんだろうけど!

でもそこも映画とテレビゲームという異なる産業、異なるメディアの力関係の移り変わりを考えても面白い。当時はテレビゲームなんてまだまだガキのおもちゃに過ぎなかったからメディアとして完全に映画の方が強くて、ジャンルとして人気だったサイバーパンク要素をあろうことかマリオという作品と融合したり、ガキ向け実写映画の文脈そのまんまで制作することができた。要はテレビゲームなんて軽んじられていて、映画化してやるんだからありがたく思えよ、くらいの驕りが映画業界にあったことは間違いないと思うんですよね。『ストリートファイター』(94年)や『モータルコンバット』(95年)も中々酷かったじゃないですか。ちなみに俺はどっちも好きだが。でもここ最近は個人的な好き嫌いはあれど90年代とは比べられないほどにちゃんと映画化されてる作品ばかりですよ。その中でも最高峰のゲーム原作映画と言えるのが『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』であろう。その作中で任天堂の完全監修で完璧と言えるほどにマリオの世界が再現されている様はメディアとして、産業としてテレビゲームというものが完全に映画と肩を並べたと言ってもいいだろうと思う。そして『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』という作品は、当時は失笑を浴びたとしてもそこへと至る嚆矢となった作品であるのは間違いないのだ。

そんなん歴史的意義も含めて完全に面白い映画じゃないですか。疑いようもなく面白い映画ですよ。『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』はゲーム原作映画として先陣を切ったという功績ばかりでなく、消えて行ったガキ向け実写映画という郷愁も誘うまぁまぁ面白映画です。再審理としてはもう完全無罪だね。みんな胸を張って実写版マリオは面白いと言っていこう。

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