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底抜け映画再審理

【底抜け映画再審理】第6回 被告:『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』

本コラムはガッカリ映画を見直していいとこ探しをしようぜという趣旨なわけだがこの『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』に関してはちょっと今までとは勝手が違うというか、俺の中でノリが変わってしまっている部分がある。というのも本作『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』を俺はつまんない映画だと思ったことが一度もないのである。確か初見は劇場ではなくてレンタルビデオで見たと思うのだが、ただただ素直に「おもしれー!これ!」と思いながら見た記憶しかないので後になってバットマンシリーズ最大の駄作みたいな扱いを受けていることに驚きを禁じ得なかったのだ。今までそんなに悪くないよ? と書いてきた『ファイナルファンタジー』とか『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』とかは正直、まぁ駄作扱いされるのも分かるけどね、というもう一人の俺の声を聞きながらもそれに抗う感じで書いていたところもあるのだが、この『Mr.フリーズ』に関しては何がそんなにつまんねーのか全然分かんない。お前がクソ映画を愛好する趣味があるだけだよ、と言われたらそれで終わってしまうかもしれないが! でもこのコラムを書くため20年ぶりくらいに見直したけどやっぱ面白いなー、と思いながら見てしまったからな。だからもう禁じ手的なことを書いてしまうが、誰か俺にこの映画のどこがつまんないのか教えてくれよ! とさえ思うほどですよ。趣旨が変わってしまう!

でも世間的な評価はいまいちなんだよな。いや、いまいちどころかボロクソか。本作は97年に公開されたわけだがその製作は大ヒットした95年の『バットマン フォーエヴァー』を受けてのものである。監督も同じジョエル・シュマッカー。役者陣こそ入れ替わっているものの同じ監督が同じ題材で撮るんだからそこまで滑らないだろうと思われていただろうに、興行的にも失敗となり批評家からもコテンパンに叩かれてゴールデンラズベリー賞でも9部門受賞というある意味では輝かしいとも言える功績を残してしまったのである。挙句の果てに主演のジョージ・クルーニー直々に駄作扱いされていたはず。まぁ実際俺の周囲の友人からも評判は良くなかった気がするのだが、そうなるともう逆に俺は何を面白がっていたんだろうという、そこが問題になってくるような気さえするな。

ということでここからは本作が如何に面白いのかを書いていこう。まずハリウッド映画的なお約束で序盤に敵役の顔見せも兼ねた掴みのアクションシーンがあるんだが、シュワちゃん演じるMr.フリーズが美術館で暴れているところにやってきたバットマンの「やぁフリーズ! バットマンだ!」の名乗り。もうこの名乗り方で客は理解するべきなんだけど、こんなのちびっ子向けの特撮映画のノリでしょ。いやそれがダメなんだよ! という大合唱が聞こえてきそうだが無視して進めると、その後にもMr.フリーズが暴れて展示品の壺かなんかが台座から落ちそうになったらロビンとバットマンが連携して壺を受け止め「割れたらお買い上げ!」のセリフ。ダウンタウンがコントでやってた古臭いヒーローものパロディみたいなセリフ回しである。そういう軽く二世代は前であろうセリフ回しだけじゃなくアクションも全体的に緩慢だし、何の説明もなくMr.フリーズのモブ雑魚たちがワラワラと湧いてきてアイスホッケーぽい装備で画面内に乱舞する。極め付きはトゲトゲがいっぱい付いたおもちゃ感満載のMr.フリーズ・カーだろうか。なんかフロント部分にいっぱいトゲ付いてるんですよね。何なんだろうね、アレ。

さて冒頭15分くらいの描写を挙げていっただけでこんな感じなんだけど、こんなの面白い意外に無くない? 俺は超面白いと思うんだけど。でもまずこの冒頭の部分でダメだこりゃ、ってなる人とは前提としてバットマンへの向き合い方が違うんだと思うな。どっちがいいとか悪いとかじゃないけど、多分一般的な認識としてバットマンは夜の闇に紛れて警察の手には負えない悪に正義を執行するダークヒーローみたいなイメージなんじゃないかなと思うんですよ。「出た…ダークナイト…」というネット上でミーム化したような言い回しがあるほどにシリーズのマスターピースと化した『ダークナイト』なんかはモロそうじゃないですか。私刑人としてのバットマンに正義はあるのかどうかっていうことがヘビーでダークな世界観と共に描かれる。でも俺の初バットマンはファミコンの横スクロールのアクションゲームだったから、なんかガキ向けのヒーローものくらいの認識だったんですよね。だから本作でのノリも全然違和感はなかった。オークション的なシーンでカードでの決済をした後にCMのキメ台詞みたいにクレカを「出かけるときは忘れずに」って言うところとか大好きだよ。でもそういうノリはウケなかったわけだ。そしてその不評を受けて本作はシリーズ化される予定だったがその企画は打ち切られてしまった。その数年後にバットマンシリーズの再出発として撮られたノーランの『バットマン・ビギンズ』がヒットして『ダークナイト』の大ヒットに続くわけである。コミカルなバットマンよりもダークでシリアスなバットマンの方が求められていたわけだ。

確かに『ダークナイト』は傑作だと思うし俺も好きですよ。でもスーパーヒーローという題材で映画を撮る際に正義と悪を対象化してそれがどういうものなのかを検証していくような一見大人的なスタンスな作りの作品だけではなく、子供が○○マンごっことして玩具で遊んでるだけのような切り口な映画もあっていいと思うんですよね。というかその異なるアプローチの作品がバランスよく揃っていないとダメだろうとさえ思う。そういう意味ではこの『Mr.フリーズの逆襲』も十分に存在意義のある映画だと思うんですよ。MCUにしろDCにしろ昨今ますます人気コンテンツとしてヒーロー映画を作り続けているけど、大体ほとんどの作品がシリアスに社会問題とかを扱って大人の鑑賞に堪えうるヒーロー映画として描かれているじゃないですか。その方向性も一つのものとしていいと思うけど子供の玩具みたいなヒーロー映画もあっていいと思うんですよね。『アントマン』なんかは第一作目はそんな感じでとても好きだったんだけどシリーズを重ねるごとにデカいスケールで真面目な話をやるようになってお前までそっちに行ってしまうのか…と寂しい気持ちになりましたよ。

本作を酷評している人ってのも一般客・批評家どちらも含めて(批評家の方は当然だが…)ちゃんとした大人の人たちなんじゃないのかなと思う。この緩いオモチャ箱感はガキに見せればそれなりに喜ぶんじゃないだろうか。どうだろう、今完全に自分の願望丸出しな希望的観測を書いたが、バットスーツに乳首があったり時代を考えてもへっぽこなCG(本作は『タイタニック』と同期で二年後には『マトリックス』が公開される)とかもちびっ子は存外そんなこと気にはせずにナンセンスでバカバカしい世界を素直に受け入れるのではないだろうか。バットマンとはこういうヒーローであるとか、ヒーローものとは社会的なテーマを扱っていなくてはいけないとか、そういうことに捕らわれていたら本作は楽しめないのではないかと思う。おそらく『Mr.フリーズの逆襲』が目指していたであろう作風は後年『レゴバットマン』が完璧に近い形で体現したと思うが、あの作品に近い見方をすれば本作も十分面白いと思うんですよね。

まぁそういうのとは別に三人も出てくるくせにロクに深堀りもされないメインヴィランたちの扱いとかは普通にダメなんじゃね? という気もするが、まぁそこも含めてわちゃわちゃ感があっていいとも言えるでしょう。ヒーローもヴィランもある種のプロレスとしてじゃれ合ってるようなプロレスとして見るべき映画なんですよ。

あとはあれだ、上でも少し触れたが本作がなければ多分ノーランバットマンも生まれなかったから! コケてくれてありがとうくらいに…いや流石にそれは卑屈すぎる気もするが! でもそういう諸々の事情も含めてやっぱ面白い映画だと思いますよ。やっぱり面白いとしか思えないので、個人的にはこれを再審理にかけるということ自体が疑問ではあるのだが『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』は再審理の結果無罪です。むしろ面白いからみんな見ろ。みんなもっと見てヒーロー映画をいい年こいた大人しか見なくなったことに危機感を持て、と言いたいですね。

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