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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.6『NEKROTRONIC』(邦題:サイバー・ゴースト・セキュリティ)を買った

物理メディアで映画ソフトを買う際には何はなくともジャケットが物を言う。とくにビデマに置いてあるようなマイナー映画の輸入盤ともなれば検索しても有益な情報が得られないことも多く、ジャケットにピンと来るか来ないかが購入の決め手といっていい。実際この映画はジャケットに女戦士みたいのとクリーチャーみたいのとゾンビみたいのとサイバーパンクっぽい衣装を着たロバート・ダウニー・Jr.みたいのが映っていた、という理由で買った。女戦士みたいのとクリーチャーみたいのとゾンビみたいのとサイバーパンクっぽい衣装を着たロバート・ダウニー・Jr.みたいのが出てくる映画ならきっと面白いに違いない。もちろんジャケ写詐欺の可能性も頭の片隅に置いてのことだが。

で家に帰ってジャケット裏を見てみたら「“WYRMWOOD”の監督による…」とある。“WYRMWOOD”といえば『ゾンビマックス!怒りのデス・ゾンビ』の邦題で知られるあれではないか。初代『マッドマックス』の世界観と『死霊のはらわた』のテンションを併せ持つオーストラリア産低予算ゾンビ映画の快作。その監督キア・ローチ=ターナーの映画なら面白さは折り紙付きだ。昨年のシッチェス・ファンタスティック・セレクション(詳細は検索)で上映された『ゾンビマックス!怒りのデス・ゾンビ』の続編『ゾンビ・サステナブル』もアイディア満載、ケレン味ありまくりで面白かった。キア・ローチ=ターナーはジョージ・ミラーやラッセル・マルケイ、スピエリッグ兄弟に続くオーストラリア発ハリウッド着の才能になると踏んでいるので、これからの作品にも大いに期待したい。

さて“NEKROTRONIC”の内容はというとこれが意外と複雑だった。といっても難しいことはないのだが、なにしろ設定が多いのだ。遙かむかし人類が武器の概念を得てからというもの悪魔が影のように人類に取り憑いた。同時に悪魔を物理的にボコすことのできるネクロマンサーの血族も誕生したのだが、悪魔とネクロマンサーの戦いはいたちごっこで何年何十年何百年経っても一向に終わらない。そのうち悪魔はインターネットに活路を見出した。今の悪魔はスマホゲームなんかを介して人間に取り憑くが、そうとなればネクロマンサーも首に『攻殻機動隊』みたいなジャックを付けてインターネット網の中で悪魔と戦うのだった。

平和でつまらない日常の裏側で人知れずそんな戦いが繰り広げられているなどとは夢にも思わない主人公は冴えない便所の汲み取り屋。そのバカの相棒がまんまと悪魔ゲーに手を出したことから主人公の人生は一変する。突如として現れるゴーストと悪魔憑きゾンビとネクロマンサーたち。そしてネクロマンサーたちから聞かされる衝撃の事実。実は君はネクロマンサーの血族なのだ・・・そして君のお母さんは悪魔に憑かれて今やスマホゲーで人々の魂を吸う大悪党になってしまったのだ!なんだかなろう系のような展開というか、個人的にはアトラスの名作悪魔ゲー『デビルサマナー/ソウルハッカーズ』を思い出したのだが、日本のオタク文化からの影響とかあるんだろうか。

悪魔を倒すには所定の手順がある。悪魔に憑かれた人間をそのままぶっ殺すのではなく、悪魔の魂のようなものを憑かれた人間から抽出し、『ゴーストバスターズ』のような『ヘルレイザー』のようなボックスに保管したのち、機械化された魔法円で3Dプリンターのように実体化して倒すのだ。今や大悪魔となった主人公母は街の中心に位置するハイテクビルに鎮座してそこからネット越しに人々の魂を吸っている。果たして主人公とネクロマンサーたちはネットと物理の両面からハイテクビルに侵入して主人公母から悪魔データを抽出して魔法円3Dプリンターで実体化して倒して人類を救うことができるだろうか。ずいぶんとやることが多い。

ゾンビもゴーストも悪魔もサイバーパンクも女戦士もと欲張りな内容はたしかにジャケットに偽りなし。いろんなアイディアをジャンルを横断してゴチャゴチャ詰め込むというのは『ゾンビマックス!』二作とも共通するキア・ローチ=ターナーの手癖なんだろう。サンプリング元(と思われる)も『デビルスピーク』に『ゴーストバスターズ』に『攻殻機動隊』にピーター・ジャクソンの『さまよえる魂』+αにとオタク趣味の詰め合わせパック。設定上シーンごとに毛色の異なるガジェットが出てくるので、なんだかオモチャ箱をひっくり返したような映画だ。

その志はいいのだが、見せたいこととその見せ方にちょっとギャップがあるのがこの映画の難点。盛り沢山の設定を説明するために立ち止まっての説明台詞が多く『ゾンビマックス!』にあったような勢いは感じられないし、ゾンビもゴーストも悪魔クリーチャーもと色々出てくるのは嬉しいが全部ちょっとずつしか出てこないので中途半端な印象の方が楽しさに勝ってしまう。インターネットに侵入して悪魔と戦うと聞けばいかにも面白そうなのだがそのシーンもパパッと流されてしまうのでさして盛り上がることはない。対憑依スーツとかも鳴り物入りで登場するわりには全然活躍しなかったし、見かけ倒しとまでは言わないが、設定負けの観は否めないだろう。

とはいえ、そうしたストーリーテリングのまずさを美術やカメラワークなど場面場面の画の強さで強引に補っているのがキア・ローチ=ターナーの才能。喋る生首のコントやおとぼけ幽霊の相棒、悪魔クリーチャーとの対決やこんな映画に出てることにびっくりするモニカ・ベルッチなど、なんだかんだ見所は多い。

実はこれを書いていて知ったのだがこの映画“NEKROTRONIC”は『サイバー・ゴースト・セキュリティ』の邦題で未体験ゾーンの映画たち2020(詳細はこちらも検索)にて上映、ソフト化はされていないがアマゾンプライムビデオ見放題に入っていた。そんなに期待しないでなんとなく見てみると予想以上に面白いというたぐいの映画に思うので、配信で見るものを探してるときの選択肢としては大いにありなんじゃないだろうか。

DVDにはメイキングなどの他、この映画に先んじて制作されたパイロット版のような短編も収録されており、そちらは『ブレードランナー』オマージュの比較的シンプルな悪魔退治もの。『サイバー・ゴースト・セキュリティ』はその設定のわりにサイバーパンクを感じる風景が少ないところが不満のひとつだったので、続編があるなら『ブレードランナー』みたいなサイバー街並みを頑張って作って欲しいと思う。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com