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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.7 『The Orange Man』を買った

平成の名刑事ドラマ『古畑任三郎』に老婆がネットに入れた大量の小銭で後頭部を殴って人を殺すという回があったが、この映画“The Orange Man”のDVDジャケットには血まみれのオレンジの入ったネットを持つ男の手が描かれている。ジャケ裏の解説を飛ばし飛ばし読むとどうやらスラッシャー映画のようなのだが、スラッシャー映画ならDVDジャケットは凶器を手にした殺人鬼の姿が定番。『悪魔のいけにえ』ならチェーンソーが、『ハロウィン』なら包丁が、『13日の金曜日』ならナタが、『エルム街の悪夢』なら鉤爪がジャケットに描かれている。ということは“The Orange Man”で殺人鬼が用いる武器はネットに入った何個かのオレンジになる。そんなことがあるのだろうか。たしかにミカンと違ってオレンジで殴られたら痛いとは思う。しかしそれで人が死ぬかといえば大いに疑わしい。果たして本当にこの殺人鬼Orange Manはネットに入ったオレンジで人を殺すのだろうか。これはぜひとも買って確かめなければならなくなった。

映画は殺人鬼Orange Manの誕生から始まる。その昔オレンジの訪問販売をしていたOrange Manはオレンジが全然売れないことに腹を立てて発作的に客をオレンジの収穫に使っていると思われる鉤でぶっ刺してしまった。以来その地にはオレンジ片手に人を殺すOrange Manが徘徊するようになったのだ・・・って意味がわからないし鉤で殺してるじゃねぇか。なんとも不安になる出だしだ。

それから数十年後、主人公の中高年男子たちは例の町に釣り旅行にやってくる。そこから40分ぐらいは殺人が起こることもなく中高年男子たちがオシッコネタとかウンコネタとかをやってるだけなのでろくに画面を見てすらいないが、主人公がティーンエイジャー男女数人ではなく中高年男子四人組というのはなかなか珍しい。珍しいだけで面白いわけではないが、主人公が中高年である都合、出てくるキャラが片っ端から贅肉をたっぷり甘やかした成人病ボディ、そしてやはりこちらも贅肉で腹回りの大いにたるんだ主人公の妻の不倫話なども絡み、よくあるスラッシャー映画とは一線を画す設定や展開であることぐらいは認めないわけにはいかない。

映画が始まって小一時間、ようやく殺人鬼Orange Manが再登場して主人公たちを襲いはじめるのだが、ここでついにオレンジが凶器として飛び出した。逃げる女の背中にOrange Manがオレンジを投げる!投げる!投げる!だいたい距離的には10メートル投げる!黒沢清の『蜘蛛の瞳』には逃げる女を殺し屋の哀川翔が延々追いかけながら石を投げて殺そうとするというブルータルな場面があったのでそれを彷彿とさせるシーンだが、ただOrange Manが投げてるのは石じゃなくてオレンジである。10メートルの距離で5個ぐらいオレンジを当てられた女はやがて絶命。もしかして俺はアメリカのオレンジの持つ殺傷力を過小評価していたのだろうか。

その後もOrange Manはネットに入れたオレンジでぶん殴ったりオレンジを坂に転がしたり馬乗りになってオレンジの汁を目に当てるなどの殺人行動を取り主人公一人を残して中高年男子たちあえなく壊滅。残された主人公はやはりOrange Manに対し反撃に出るのだろうか。出なかった。仲間の一人が入院した病院で出会った巨乳熟女に一目惚れした主人公は彼女とメイクラブして新たな人生を歩むことにしたのだ(妻はマッチョ男と不倫していたし、だいたいその後オレンジで殴られて死んだ)

それからゴチャゴチャあってよくわからない状況で現れたOrange Manを拳銃で撃ってるうちに主人公誤って新恋人を射殺。最終的にそうなるなら主人公の人生再出発のくだりは丸々いらなかったんじゃないかと思うし、そもそもOrange Manにオレンジ食わされて死ぬとかじゃなくて誤射で死亡ってなに?なにか教訓でも匂わせたかったのだろうか。オレンジを買わないと酷い目に遭うぞというお話と思えば、何らかの教訓というか宣伝は感じられなくもないが。

血糊の量はオレンジを搾って出てきた果汁よりちょっと多い程度で内臓が出るとかそういうゴア描写は一切ない。オッパイ丸出しのエロシーンなどもないので、残酷描写やエロ描写が苦手という人でも安心して観られるコメディ・ホラーだが、ただおしっこはよく出るのでおしっこを見たくない人や、つまらない映画は見たくない人は避けた方がいいだろう。ただこれだけ貶しておいてから言うのもどうかと思うが撮影や照明はしっかりしていて結構プロっぽく撮られているので、絵面が安くてげっそりするようなことはない。そこはご安心ください。

特典映像にはトリビアムービーが入っていてこの映画の脚本は三日で書かれたこと、撮影機材には高額なブラックマジックが用いられていること、スタッフと主演者にきょうだい(双子?)がいることなどがもっさりと画面に流れてくるが誰がそんなもの興味を持つんだ。え、ブラックマジックで撮ってるのかよ!?とは思ってしまったが。

そろそろ結論にしよう。ネットに入ったオレンジで人は死ぬのかということだが、死ぬ。ネットから取り出したオレンジを投げて背中に当たっても、死ぬ。オレンジを召し上がる際はくれぐれもご注意ください。死ぬ。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com