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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.5 『Beast Of Blood』を買った

前回紹介した『The People Who Own The Dark』に続いてこちらも『ゾンビ映画大事典』を高校生の頃に読んで強く印象に残っていた一本。これはスチルが怖かった。浜辺に腹ばいになったゾンビが助けを求めるかのように手を伸ばしている・・・という場面のスチルが『ゾンビ映画大事典』に載っていたのだが、そのゾンビの風貌ときたら『サンゲリア』もかくやのボロボロヨレヨレ、血まみれの服はところどころ破れて使い古した雑巾みたいになってるし、ゴリラのような顔面の肉はすっかり腐り果てて額は骸骨が見えている、剥き出しの汚らしい歯は凶暴の印象と憐れみを同時に感じさせ、それにあの髪!吉本新喜劇とかに出る人か?と思ってしまうスカスカでボサボサの髪はギャグ一歩手前だが、あんなスカスカでボサボサの髪の持ち主と遭遇したらと考えたら恐ろしい。これは絶対に尋常じゃない精神状態だと判断してたとえゾンビでなくても裸足で逃げ出すだろう。

その恐怖のゾンビとついに対決する時がきた。『ゾンビ映画大事典』にも載っていたあの強インパクトのビデオジャケット(例のゾンビが自分の生首を両手で持ち上げてこっちを見てる)がDVDの背表紙に縮小されてビデマのゾンビ棚から俺を睨みつけていたのだ。値札を見ると中古2000円。高くはないが安くもない・・・が、重要なのは値段よりもその脇に記載された「廃盤」の文字。特典も満載みたいだし買わないわけにはいかないだろう。特典なんかどうせ見ないとしても。

映画が始まるとそこは夜間航行中の船の上。船員たちが何かつまらぬことを言っているとそこに例のゾンビがナタ片手に突如乱入!すごい腕力と瞬発力で次々と船員を殺めてやがて船は爆発してしまう!!爆発してもただでは死なない獣人ゾンビが流れ着いたのが舞台となるフィリピンの島ということでこのゾンビが浜辺に打ち上げられたシーンが『ゾンビ映画大事典』に載っていたスチルのようだ。それにしても冒頭からすごい急展開。昔の映画は無駄がなくて素晴らしいななどと思いながら引っ張り出してきた『ゾンビ映画大事典』を開くとこの映画『Beast Of Blood』はアメリカ・フィリピン合作の人気シリーズ『Blood Island』の4作目。冒頭から急展開なのは映画職人のサービス精神や眼力ゆえなどではなく(それもあるだろうが)前作との繋がりを明確にするためという説が濃厚だ。

実際その後は主人公らしい白人ヒーローがジャーナリストのヒロインとイチャイチャしたり島の住民相手にカッコつけたり島の娘に惚れられる(バックには夕陽)などどうでもいいシーンばかりがダラダラ続いてゾンビなんか全然画面に出てこない。ゾンビを作った悪の博士はショッカーみたいな要塞を森の奥に築いて時々村を襲ってはその住民を実験体として攫ってくるが、この博士の目的はパーフェクトボディーを作り上げて例の獣人ゾンビの頭とくっつけることらしかったので、ゾンビ薬を打たれた村人たちがうーあーと呻きながら襲ってくるような愉快な展開にはならない。登場するゾンビはあくまでも要塞に帰還したのち頭だけ切り離された獣人ゾンビ一体のみであり、そいつも実験室の中で頭だけぐぅぐぅ唸ってるぐらいで全然活躍してくれないのだった。1970年製作のゾンビ映画にしてはわりあいあけすけな濡れ場であるとか、豚肉を切ってるだけに見えなくもないがグロテスクではある手術シーンとか、悪の博士に業を煮やした村の住民たちが武器を手に要塞を襲撃するゆるい戦争映画風のアクションとか、見所は適度に配置されているのだが、ゾンビ映画として見ると製作年を考慮してもやはり物足りなさが残るだろう。首をもがれた獣人ゾンビも首無しデュラハンスタイルで復活したはいいが博士の首を絞めるぐらいで大した活躍しないし。

ところでこの首無しデュラハンスタイルのゾンビには見覚えがある。『死霊のしたたり』ではない。1962年の『死なない頭脳』という映画で、これは不死薬を研究する医者が事故で死んだ恋人をとりあえず生首だけ蘇らせ、その新しいできるだけナイスバディの肉体を探すというしょうもないストーリーの映画だが、首だけ蘇った恋人はすっかり残忍な性格に変わってしまうと同時にテレパシーのようなものを身につけ、実験室に閉じ込められていた獰猛な継ぎ接ぎ人間を操って医者を殺させるシーンがある。もしかすると『死霊のしたたり』の似たような場面にも影響を与えているかもしれないこの映画、時代的に『Beast Of Blood』がパクっていたとしても全然おかしくはないのだが、そう書いていて思い出すのは1967年のイギリス映画『怪奇!呪いの生体実験』、こちらもやはり狂気の実験により生首とか腕とかのパーツだけで生かされる人間が登場するのだった。どうやらホラー映画には動く生首ものというニッチジャンルがあるようだ。1985年には『死霊のしたたり』、1994年には『シュランケンヘッド/アメリカの怪談』、ホラーというよりSFコメディだが、1984年のソ連映画『ドウエル教授の首』というのもある。

そんな生首映画史の末席を汚す『Beast Of Blood』はまた島・秘境ゾンビ映画史の結節点でもある。世界初とされるゾンビ映画『ホワイト・ゾンビ』の公開後、雨後の竹の子のごとく現れた数多の低予算ゾンビ映画はいずれも『ホワイト・ゾンビ』に倣ってハイチもしくはどこか適当な秘境っぽい場所を舞台としており、そこに居を構えた悪の魔術士や科学者が人々をゾンビにしているというのが基本設定。どこでヴードゥーの魔術師が科学者に変わったのかは分からないが、1941年の笑えるゾンビ映画の佳作『死霊が漂う孤島』の時点ではもう科学者がゾンビを作っていた(ウェルズのSF小説『モロー博士の島』の影響もあるだろう)。初期のゾンビ映画はこうした島・秘境ものが大半だったが時代が下ると当然ゾンビも生息範囲を広げ、1968年の記念すべきモダンゾンビ誕生作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』では秘境どころか堂々と都市部にも進出、もはや島・秘境ゾンビなど時代遅れか・・・と思われたところに現れたのが『ゾンビ』と並ぶゾンビ映画の金字塔、1979年の『サンゲリア』であった。

時代的には『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と『サンゲリア』の間に位置する『Beast Of Blood』は、島・秘境ゾンビの舞台設定やキャラクター設定を引き継ぎつつも、この時代としては過激に属する残酷描写やゾンビのグロテスクな風貌でそれまでの島・秘境ゾンビものとは一線を画す。影響を与えたかどうかは知らないが(ないとおもう)『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の衝撃でゾンビ映画地図が塗り変わる中、『サンゲリア』が映画史に登場するまで島・秘境ゾンビの命脈を保ち続けたのが『Beast Of Blood』およびそのシリーズ作とも言えるわけで、後の1980年作『人間解剖島/ドクター・ブッチャー』がどうも『サンゲリア』だけではなく『Blood Island』シリーズもパクってるくさいことも思えば、なにせシリーズ7作ぐらいあるらしいから島・秘境ゾンビ映画史上の重要作であることは間違いない。

『死なない頭脳』などの動く生首もの、『獣人島』などのモロー博士もの、『サンゲリア』などの島・秘境ゾンビもの、『死霊のしたたり』などの人体実験ゾンビものと、様々な映画に接続することのできる『Beast Of Blood』、要は色んな売れてる映画の売れてる要素をパクってチャンポンしただけだろと言われればその通りかもしれないとしても、なかなか侮れない映画だ。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com