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ウチだって社会派だぜ!!

【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第1回 アカデミー賞ビンタ事件

 『放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!』はネットで話題の時事ネタや最新ニュースに、関係ありそうでなさそうでありそうな映画を紹介するコーナーである。文章が苦手なのであまり大したことは書けそうにないが、このコーナーが社会問題や様々な映画について新たな角度から考える一助になれば幸いである。

 栄えある第一回だが、やはり「アカデミー賞ビンタ事件」を取り上げないわけにはいかないだろう。事のあらましは長くなるので割愛するが、ウィル・スミスの「男らしい」行為をめぐって、映画ファンだけでなくフェミニズム界隈も巻き込んだ議論になったことは記憶に新しい。ウィル・スミスのビンタは女性の尊厳を守る正当なものである、いいやジェイダが自分で抗議できない弱い女性というイメージを与えた・・・とか何とか。

 その中で印象深かった意見だが、「『G.I.ジェーン』(97)は早すぎたフェミニズム映画の傑作であって、悪口ではない」というものだ。決して演技派ではないデミ・ムーアが丸坊主になって海兵隊で奮闘する様は公開当時こそ笑いものだったが、力強いフェミ映画として再評価されつつあるのだろう。

 早すぎた傑作は何も『G.I.ジェーン』だけではない。もう一つ歴史の影に埋もれた偉大なフェミニズム映画がある。『G.I.』前年に公開された同じデミ・ムーア主演『素顔のままで』(96)だ!今回はこの作品を紹介していこう。

 『素顔のままで』ざっと内容を説明する。デミ・ムーア演じる主人公エリンは、娘のアンジェラ(デミの実娘ルーマが演じている)の親権を取り戻す裁判費用を稼ぐために、ストリップ劇場「ぬれぬれ天国」で働いている。ある日、客で来ていた国会議員(病的な女好き)に惚れられ、政界の陰謀に巻き込まれるハメに・・・果たして娘の親権はどうなるのか!?という話。このスケベ国会議員をバート・レイノルズが演じているのだが、色んな意味でキャリア最低の仕事なのでファンは見逃さないように。

 まあ政界の陰謀部分はかなりどうでもいいのだが、「母ちゃんストリッパーの奮闘」というあらすじは女版スコセッシ映画と絶賛された『ハスラーズ』(19)に先んじている要素として評価できるだろう。同僚たちは個性豊かで、特にヴィング・レイムス演じる用心棒のシャドは、ヨーグルトにゴキブリを入れて食品会社から慰謝料をかすめ取ろうする中々憎めない奴である。日本でも数年前、ペヤングにゴキブリが入っていた事件を皮切りに異物混入告発がちょっとしたブームになった。中には自作自演が疑われるケースもあったが、もしや『素顔のままで』を見て犯行に及んだ可能性が・・・?

某大手コンビニチェーンで販売されている「かにかまチーズおにぎり」に虫が入っていた(とされる)事件。本当は写真を掲載したかったのだが、著作権の関係から心のこもった手書きの虫でお届けいたします。

 映画としての見どころはもちろんデミ・ムーアの裸踊りである。ハリウッドのトップ女優がおっぱい丸出しTバックで踊るのだが・・・デミの胸は明らかに豊胸手術で、胴体にセロハンテープでテニスボールをくっつけた様な不自然な形なのだ。ダンスも下手で床に這って胸を揺らす動作なんか、大暴れする牝馬のマネにしか見えない。『ハスラーズ』でジェニファー・ロペスが魅せた神業ポールダンスに比べると随分劣る。

 だが、こうも考えてみてほしい。豊胸手術というのは自分の体のことは自分で決めるという女性の自己決定権の象徴ではないか?デミのちっともエロくない微妙な踊りや、映画館で見たら眠くなるであろうストーリーは観客の「性的消費」目線を拒むものではないか?(ということにしといてください) 

 ここでデミ・ムーアの生い立ちを説明しよう。貧しい家庭に生まれた彼女は、薬物・アルコール中毒の両親に育てられ、15歳の時に母の知り合いの男にレイプされるという壮絶な少女時代を過ごした。成長してモデル事務所に入った後、地道に仕事をこなし『セント・エルモス・ファイアー』(85)で初の大役をつかむ。その後、大ヒット作『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)で人気女優となり、『ア・フュー・グットメン』(92)ではトム・クルーズやジャック・ニコルソンと共演、そしてついに『素顔のままで』で当時女優のギャラ新記録である1250万ドルを手にするのである。見事という他あるまい。

 残念ながら『素顔のままで』は公開当時酷評され、続く『G.I.ジェーン』も女が丸坊主になる先進性が野蛮な90年代の観客には理解できなかったのだろう。正当な評価を得られなかった。その後ブルース・ウィリスとの離婚など不幸が続き、彼女はトップ女優の座を追われることになる。

 しかし、こう振り返ってみると『素顔のままで』を決してクズ映画と切り捨てることはできないだろう。孤独な少女が文字通り裸一貫でのし上がり、男社会から勝ち取った成果を我々は目にしているのだから。映画そのものがつまらなくても、それは大した問題ではない。彼女こそ真のフェミニズムの体現者である。

 昨今の若手ハリウッド俳優は皆恵まれた家庭に育ち、幼少時から演技経験を積んだお坊ちゃまお嬢様ばかりである。確かに彼ら・彼女らは演技も上手く、容姿端麗。作品を選ぶ賢さもある。デミ・ムーアにつきまとう泥臭さとはまるで違う。しかし、『素顔のままで』『G.I.ジェーン』のように最高に挑戦的な企画に挑める、勇気ある俳優はいるだろうか? たとえ負け戦だったとしても。

 ビンタされたクリス・ロックも今回の事件にめげず、来年のアカデミー賞ではこう言ってほしいものである。「君の『素顔のままで』の続編が待ちきれないよ!」ってね。

 なんか余計に怒られそうな気がするが!

ゲームって映画よりも面白れぇな~