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映画観客鑑賞録

【須藤にわかの映画観客鑑賞録】第4回 『インシディアス』とほか一本の客

映画館が変われば観客の意識も変わる。最近よく思うのは昔に比べて映画館の観客のマナーが悪くなった…のではなく、昔ならとくに気にすることもなかった観客の様々な挙動が「マナー違反」として意識されるようになった、ということ。おそらくこれには三つ要因があって、一つはシネコンを主に映画館の音響設備などが昔に比べて向上し観客の個人的な没入体験がしやすくなったこと、もう一つは4DやIMAXなどの没入度が高い代わりに割り増し料金の上映に観客を呼び込むため映画への没入を劇場側が推奨するようになったこと、そして最後の一つはコンセッション(飲食売店)の売り上げをかさ上げするために飲食物持ち込み禁止などの厳しいルールが周知されるようになったこと。

シネコンのマナー広告は今は当たり前だがこれはほんの十数年前まではそもそも存在しない劇場の方が多かった(撮影禁止の啓発動画はずっとあった)。コンセッションの飲食物の価格は品物が粗末である代わりに今よりずっと安かった。当然IMAXや4DXなどないわけで、その頃はまだ映画も安くて手軽な娯楽だったのが、近年急速に高級化が進み、それに伴って観客のマナー意識もより厳しく変わってきたようなのだ、というのが俺の見立て。

それも悪いことではないのかもしれないが…とはいえなんだか寂しくもあるのは、今の多くの観客の基準ではマナー違反としか捉えられないであろう観客の挙動が、むしろ映画鑑賞を盛り上げてくれた記憶が俺にはあるからだ。その例を二つ、手を突っ込んでまさぐれば『イレイザーヘッド』よろしくホコリを立てる老化脳から取り出してみよう。

最初の記憶は新橋ガード下の二番館・新橋文化で『インシディアス』を見た時のものだ。この新橋文化、ガード下だけあって上映中も容赦なく電車が通りガタンゴトンと音がうるさいだけではなく座席もビリビリ揺れるほどのワイルドな環境であり、トイレは場内直結でスクリーン左右にあってその案内ランプが常時点いているから今時の映画ファンなら悶絶ものの非没入空間、その客層も仕事をサボってる外回りのサラリーマン中心なのでイビキをかいての昼寝などむしろ無い回の方が珍しい。俺も一本は寝てもう一本をシャッキリした頭で見るのが基本だった。洋画B級アクション・サスペンス二本立てで900円の良心料金だからそれでも損をした気にはならなかった。

さてそんなスラムスタイルでジェームズ・ワン&リー・ワネルの出世作にして『死霊館』の原型となったオカルトホラー『インシディアス』を見ていたらドンッと背中に振動が。ははぁ、いわゆる座席蹴りですねぇ。まぁリーマンオッサン連中なんか足組んで見るの普通だからな。それで当たるってこともあるだろう…ドンッ…ドンッ…それにしては回数多いね、映画が怖くてもじもじしているのだろうか。ドン…ドン…ドン…ドドドドドドいや多すぎるだろいくらなんでも! 気付かれないように薄らと後ろを見ると視界の端にぼんやり映る普通の人影。とくに落ち着かない様子ではないしなにか怒っているようにも見えない。ただ黙って座ってじっと映画を見ているだけに俺からは見える。だがそうしている間にもドドドドドドドいやもう怪奇現象だろこれ! ポルターガイストか! 『インシディアス』は俺にはあまり面白くない映画だったがこの怪奇現象のおかげで(?)記憶にしっかりと焼き付いている。果たしてあのドドドド客は何者だったのか。上映が終わると同時にドドドドは途絶え次の映画では何もなかったので、もしかすると映画館の悪霊だったのかもしれない。

次の記憶はもっと新しいが何の映画を観た時のことかは忘れてしまった。見た場所は覚えていて新宿ピカデリー、これは間違いない。単刀直入にオチから言うと後ろの席のオッサンの足が俺の座ってる席の右肘掛けの上ににゅっと出てきてどんと置かれました。えええええ! いくら無マナー観客に寛容な俺でもそこまでの無マナーは遭ったことないぞ! いや、靴を脱ぐのはわかるよ? オッサンの足は大抵臭いから歓迎はしないけどまぁ脱ぎたくなる心理はわかりますし近くに他の客がいなかったら脱ぐぐらい別にいいじゃんと思う(俺はやらないけど!)。足を前の座席の背もたれに乗っけるのもまぁそれは可能な限りやめてほしいが最悪、最悪誰も座ってない座席に対してそうやるのは理解できる行為です(俺はやらないけど!!)。だが前の座席に俺が座ってるのにその肘掛け&ドリンクホルダーの部分に臭気を放つ足を置くってどういうことだよ! 映画館マナーとかじゃなくて人としてどうなのそれは! まぁ俺は小さいから背もたれに隠れて存在が把握されていなかった可能性もないとは言えないが…霊かな! これも映画館の悪霊だったのかもしれないね俺その人の足しか見てないし!

まったく呆れるばかりの二つの事例。とはいえ、俺にとっては呆れて笑える映画館の楽しい思い出だ。こんな客が映画館と観客のマナー向上であまり見られなくなったのは少しだけ寂しく思う。また遭遇したいかといったら…もちろん全然遭遇したくないけどね!

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。ツイッター@eiganiwaka