MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

映画観客鑑賞録

【須藤にわかの映画観客鑑賞録】第3回 ルチオ・フルチのオールナイトの客

今年2月から改装工事に入っていた池袋の名画座・新文芸坐が満を持して4月15日にリニューアルオープンするらしい。新文芸坐といえば通常上映でも場所柄珍客怪客の多い劇場だがとくに印象深い客がいたのはやはり新文芸坐名物オールナイト企画のとき。通常の二本立て上映なら上映中と休憩時間しか他の客を観察する機会がないがオールナイトなら一晩中缶詰で映画を観るわけだから他の客の観察機会も多く、オールナイト特有の祝祭的高揚感もあって味のある客が目につきやすいのだ。

といっても今回取り上げる客は面白かったから記憶に残っているのではなくムカついたから記憶に残った客である。この日のオールナイト・ラインナップは上映順に『幻想殺人』『ビヨンド』『ザ・サイキック』『サンゲリア2』。こうタイトルを並べれば「最後を除いてなんと豪華な!」と脳みそが瞬間沸騰する人もいるだろうがそうじゃない人のために簡単に説明しておくと『幻想殺人』はフルチのジャーロ代表作(の一本)、『ビヨンド』はフルチのゾンビ映画最高傑作(異論あり)、『ザ・サイキック』はフルチがスーパーナチュラルな世界に踏み出した記念碑的傑作、『サンゲリア2』はフルチっぽくないガッカリ作と一般に言われているが(実際、フルチの体調不良により代打でイタリアン・ゾンビの量産職人ブルーノ・マッティが途中から現場に入った)今日の視点で見直せばフルチ的な厭世観やゴシックのムードが随所に見られ、アクションもゾンビも満載でフルチっぽいかどうかはともかくかなり楽しめるイタリアン・ゾンビの佳作、というわけでこれはもう中学からのフルチファンの俺としては満漢全席のようなオールナイト、ついにフルチの時代が来たかと何かを勘違いして劇場に突撃したのであった。

だが、上映が始まって気付く俺の隣の一人オッサン客、いわゆる笑い屋。説明しよう。笑い屋とは主に名画座に生息するとくに面白くない場面で自分がいかに「わかった」映画の観方をしているかをアピールするためにあえて声を上げて笑ってみせる自意識の高い意識の低い客である。基本的に見た目の汚いオッサンである。そう来たか…このラインナップなら全国のフルチファンが『地獄の門』の如く血の涙を流して『サンゲリア』の如く映画館に参集し上映が始まるやスクリーンに開いた『ビヨンド』に吸い込まれてとこしえにフルチの冥府をさまようことになるに違いないと見た俺の希望的観測はあくまでも希望的観測でしかなかったわけだ。

とはいえ、笑い屋の存在はフルチの濃いファンではない人間(濃いファンなら『サンゲリア2』以外に笑えるところなどないだろう)もこのオールナイトに来ていることの証左。笑い屋の隣に座っているヤングカップルも話を盗み聞きする限りではフルチ映画を観たことがない客のようで、フルチの代表的傑作群が新しい観客に届いていると思えば笑い屋とヤングカップルの存在は不快どころかありがたいことだ。だから俺は我慢した。『ビヨンド』の終盤、冥府から溢れ出したゾンビに怯える登場人物を見て笑い屋がガハガハ笑っても、そのゾンビを銃で何度も撃つシーンに関して上映後にヤングカップルの男が「あのリボルバー何発弾入るんだよw」とか浅いツッコミをしていたとしても(その場面をよく見てよく聴けばればわかるが弾切れになればフレーム外でしっかりリロードしており決して何発も弾が入るリボルバー、イコール演出が雑ということではないのだ)、なるほど、まぁ君たちはフルチ映画の見方というものを知らないからそういうツッコミ的な反応になっちゃうかもしれないね、じゃあ次の『ザ・サイキック』はどうだろう、『ザ・サイキック』はきわめて端正に撮られた傑作オカルトミステリーだからこれを観ればフルチの偉大さがわかってもらえるんじゃないかな! と、生暖かい横目でこの三人を見守っていたわけだが途中で笑い屋の小さないびき、そして上映後にヤングカップル男「寝ちゃったわ」お前らなああああああ!

屈辱にもうラスト一本の『サンゲリア2』など身が入らない。逆に『サンゲリア2』では飽きてきたのか笑い屋も大して笑わず(むしろこっちで笑えよ!)ヤングカップルの反応も薄く何も俺が感じることもないが敗北感に全身が包まれる。そんなこんなでオールナイトが明け、せっかくのフルチ傑作選にもかかわらずくさくさした気持ちで劇場の外に出ると、「お前見てただろ!」え? 見れば、劇場から出てきたいかにも学生オタク風情のひょろひょろ男子二人組のオールナイト客が外をほっつき歩いていたチンピラ男に絡まれているのだった。「見てません…」「見てただろうが!」視線を合わせないよう横目で様子を伺っているとチンピラビンタがオタク1に入る。オタク2はその場に棒立ちで動けない。俺の足も動かない。「すいません…」「テメェ舐めてんのかえぁ!」チンピラキックがオタク1に入る。誰か止めに入れよと思うがそういう俺は劇場の外に貼ってある映画ポスターを見ているふりをしてる。

「すいません…すいません…」ひととおり暴力をふるって憂さが晴れたのかチンピラ男は去って行く。オタク風男子二人組も無言で駅の方向に消えていく。早朝の静かな街にたった一人残される俺。気付けばさっきまで心に巣くっていた笑い屋とヤングカップルへの敵意などすっかりどこかへ消えていた。為す術のない理不尽な暴力の後に訪れる静かなカタルシスと諦観はフルチ映画の大きな特徴だが、映画の中に留まらず外でも…いやまったくなんとも奇怪な映画観客体験だ。

2 コメント

  1. 「笑い屋」って言うのがいるんですね。呼び方初めて知りましたよ。
    私が彼らの存在に気づいたのは「チームアメリカワールドポリス」の上映時でしたね。年いってる夫婦のおばちゃんがやたら笑ってましたね。人形の性交シーンだとかにも情け容赦なく笑ってました。当時は面食らうばかりだった私ですが、いまではあのおばちゃんはすごい人物だったのだと、理解できます。
    「ティファニーで朝食を」のリバイバル見てた時は、おじいさんが「ユニオシ」のシーンで一人笑ってましたが……なんだろう、当時の日本国民は進駐軍にすっかり洗脳されてしまっていたのか?と歴史の闇を感じました。

    • コメディで笑うのはわかるんですが、そうじゃない映画のとくに笑えないようなシーンでもいちいち笑うことで「俺はわかってるぜ」感を出す人っているんですよ笑

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。ツイッター@eiganiwaka