【映画の世界の片隅で】1人目 『セブン』のリーランド・オーサー
世紀末サスペンス『セブン』には印象的な場面が沢山ある。飽食の死体は衝撃的だし、図書館の雰囲気は素晴らしい、カイル・クーパー作のタイトルバックは斬新で、そこに流れるナイン・インチ・ネイルズの”CLOSER”も、エンドロール曲のデヴィッド・ボウイ”The Hearts Filthy Lesson”も耳にこびりつく。ケヴィン・スペイシーの不気味さ、ブラッド・ピットの慟哭、そして箱を開けるモーガン・フリーマンの表情・・・だが、俺の心にもっとも強く刻みつけられたのは「肉欲」の罪で娼婦殺害を強要された被害者兼加害者の男が、あり得ないぐらいぶるぶると震えながら取り調べに応じる場面だった。
この被害者兼加害者を演じたのはリーランド・オーサー。後には往年の名作ドラマ『ER 緊急救命室』にシーズンレギュラーとして出演も果たしたが、『セブン』の製作された90年代のリーランド・オーサーといえばハリウッド映画の隅っこの方で悲惨な目に遭うヘタレた人の代表格であった。『エイリアン4』では体内にエイリアンを産みつけられたと知らされずに半泣きでリプリー一行に同行し大した活躍も台詞もないまま無事エイリアンが孵化して死亡、『エスケープ・フロム・LA』では敵一味のハッカー的なポシジョンとして登場するも大した見せ場もないままいつのまにか戦闘のドサクサに紛れて死亡、『パールハーバー』や『プライベート・ライアン』では出演リストには載っているが役名もない役なので場面が確認できていないがたぶん戦場で死亡、珍しくナイスガイな刑事の役で出演したもうひとつの『セブン』こと『レザレクション』ではシリアルキラーに狙われ足を切断、『ボーン・コレクター』では甲斐甲斐しく半身不随の主人公デンゼル・ワシントンの世話をするものの・・・これは見ていない人のために黙っておこう、笑えないブラックユーモア映画の『ベリー・バッド・ウェディング』では友人の犯した殺人の隠蔽をお馴染みの半泣きで嫌々手伝っているうちにどんどん事態が悪い方向に転がっていき、最終的に下半身不随に加えて精神崩壊を来してしまう。
とにかく出る映画出る映画で残念なチョイ役ばかりを演じていた90年代のリーランド・オーサーであったがたとえチョイ役でも決して手を抜かず全力でヘタレを演じるその姿勢は後進にも影響を与え、『ジーパーズ・クリーパーズ』に出演したジャスティン・ロングは『セブン』のリーランド・オーサーに怯え芝居を学んだとインタビューで語っていた。もしリーランド・オーサーが全力でヘタレ芝居をしていなかったら90年代以降のハリウッド映画シーンはどう変わっていただろうか?・・・まぁ、大して変わっていないかもしれない。けれどもリーランド・オーサーの悲惨極まりないヘタレ芝居が90年代の数々の傑作の誰も気にしない片隅を彩ったことは紛れもない事実だ。神は細部に宿ると言うが、だとすれば90年代のリーランド・オーサーにも映画の神は宿っていたかもしれない。
このコーナーではリーランド・オーサーのように映画の世界の片隅に立ち、観る者に強烈な印象を与えた名も無き人々に光を当てていこうと思う。ま、リーランド・オーサーなんかは今ではテレビドラマの名バイプレーヤーなので無名でもないですけどね。