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【追悼・石井隆】私が好きな石井隆5作品

私は映画を本数で言えば観ているほうだとは思いますが、好きだと胸を張って言える映画作家は石井隆だけでした。

初めて石井隆に触れたのは中学生の頃。それから私はずっと石井隆を追い続けてきたので少なからず私の人生に影響を与えている映画作家です。なぜこれほどまでに惹かれるのかはずっと上手く言葉にできず…雨とかネオンとかそういうことでもないような気がします。

私は1990年代の作品から観始めたため映画監督・脚本家としての石井隆しか知らず、長年のファンの方からしたら黙れ小僧かもしれませんが、私が好きな5作品をフンワリと素人の独り言で振り返ってみたいと思います。

『夜がまた来る』(1994)

私にとって初めての石井隆はこの映画でした。そして一番好きな石井隆です。

この映画の名美はとても強いです。名美は「男を狂わせるファム・ファタル」的なイメージが強いですが、夏川結衣が演じる名美は自らを地獄に堕とす自爆タイプ名美です。麻薬捜査官の夫をヤクザに殺された復讐のため組長暗殺未遂→高級クラブのホステス→暴力団潜入→シャブ漬け→場末の娼婦→シャブ抜きと超絶地獄巡りがメソメソ泣くヒマも与えずぶっとく展開し寺田農の「バカ言うんじゃない!!そんな女がどこにいる!?」というセリフも石井隆がセルフツッコミしているかのようです。

とにかくラストの屋上での決闘シーンが素晴らしいです。何に対する復讐かわからないほど全てをかなぐり捨てて生まれ直したい名美はオギャーと生まれた赤ん坊のように咆哮し、カメラは神のごとく空高く舞い上がり絶望の先の朝を見つめます。

どんなに汚れても汚されても立ち上がる名美は石井隆が描き続けた女性の強さの究極型に思えますし、根津甚八演じる村木からは男の弱さがひしひしと感じられます。

でも実は一番好きなシーンはシャブ抜き過程で毛布に包まる夏川結衣が弁当をペイッと蹴るところだったりします。

『人が人を愛することのどうしようもなさ』(2007)

公開当時劇場で観ましたが、そのすべてに圧倒されすぎてエンドロール後もしばらく呆然としました。私はこれほどまでに監督と女優が心中したような映画を知りません。虚構と現実の境目が曖昧になりこわれていく女優を演じる喜多嶋舞という女優が本当にこわれたのではないかとハラハラする痛々しさと切なさと心許なさがありました。

一番好きなシーンは映画の流れが妖しい方向に変わる電車のシーンです。電車内で股を開いて局部を晒す女優を観て感動することが今後あるでしょうか。喜多嶋舞というそれなりに名の知られた女優がここまで肉体を曝け出すには石井隆への絶対的な信頼があったのだろうと思われます。

ハッタリが効いた衝撃的な映画はたくさんありますが、私は未だにこの映画を観るたび激しく動揺します。とても激しくシビアな内容ですがこわれていく人間を憐れみ寄り添う石井隆の視線はとてもやさしいです。そして名美が名美を演じているような物語は石井隆による名美の集大成に思えてならないのです。

『死んでもいい』(1992)

初めて観たのは10代の頃だったと思います。当時の私にはなかなか理解が難しい映画で石井隆の中では好きじゃないと思っていましたが、歳を重ねて観返していくうちにどんどん飲み込まれていくように好きになりました。この映画は10代には難しいですね。

沈むとわかっている泥船に乗り込み溺れるとわかっている海に漕ぎだすような男女をどう表現すれば良いのか未だに言葉にできずにいます。若い男の名美への執着は愛とか恋だけではない何かがあるような気がしますし、犯された男をベッドに引き込む名美の心にも愛とか恋だけではない何かがあるような気がします。

サスペンスフルな展開とホラーのような演出に心拍数が爆上がりするスリリングな映画ですが、私は船宿で永瀬正敏と大竹しのぶがしみじみとグラスを交わすシーンがとても好きです。既に抱き合った関係で触れようと思えば触れられる距離でもあるのに、もう簡単には触れられなくなってしまった一線があります。

男女の関係でセックスを超えるものは死しかなくてそれはもう「死んでもいい」という絶望交じりの究極の愛に思えますが、映画の中でしか体験したくない愛です。

『GONIN2』(1996)

当時クソ映画と叩かれまくっていて何となく好きと言いづらかったのですがこの映画はとても楽しくて好きです。男だらけの『GONIN』はバイオレンスアクションというより私にとっては恐怖映画で活劇的な楽しさが感じられず、当時あまりハマれませんでした(今は好き)。

その反動なのか何なのか、女だらけの『GONIN2』は宝石店襲撃シーンから細かいカット割とスピーディーな編集でオラオラバキュンバキュンと景気良く楽しませてくれます。

『GONIN』の男たちは割と早くバラけるのに対して『GONIN2』の女たちはとても義理堅く、罵り合いながらも助け合って突き進んでいきます。暗く絶望的な作品が多い石井隆作品の中で力強く明るくある意味異質な映画かもしれません。「なめんなよ坊や」のようにちょっと古臭い台詞回しも私はとても好きでこの映画はそんな絶妙なダサ格好良さも存分に味わえます。

一番好きなのは喜多嶋舞と夏川結衣がギャアギャア喧嘩しながら多岐川裕美の遺体を緒形拳のところに届けようとするシーンです。車の中で多岐川裕美の遺体を見つけて「キャー死んでる!」ってそれまで散々殺しまくっておいて可愛いです。そもそも冒頭から大竹しのぶにセーラー服を着せている時点で笑わせにかかっている映画だとは思います。

孤高の鬼となる緒形拳は石井隆と相性が良かったのか微妙なところではありますが、普通の鉄工所のオヤジが簡単には死なないターミネーターに変貌するあたりはなかなかシブい味わいです。

『天使のはらわた 赤い閃光』(1994)

DVDも配信も無く観返すことが難しい映画ですが、『夜がまた来る』と同時期に石井隆に触れ始めた私にはとても印象に残っている映画です。

ラブホテルで目が覚めたら横には死体とビデオテープがありましたという悪夢のような物語はガッツリホラーで恐怖演出が冴えています。名美の心にグイグイと踏み込んでいき、ある意味トラウマから解放される名美は血まみれでとてもおそろしいのに、川上麻衣子のあどけない表情は天使のようでもあります。

石井隆がポルノに対してどう思っていたのかは知らないですが、この映画では性消費としてのポルノを名美はハッキリと否定していました。石井隆はエロいけど抜けないというのはどこかでアンチポルノな気持ちがあったのでしょうか。

私がなんとなく感じる「石井隆っぽい」顔立ちの女優は速水典子と川上麻衣子でその二人が濃密に絡み合う貴重な映画です。


石井隆の映画には幸せな人が出てこないです。生まれ直したい後悔や消えてしまいたい絶望の闇に雨が降り、辛い日々を過ごしている誰かの代わりに泣いているような気もします。

もう新作に触れることができないことは非常に悲しいですが、私はこれからもしんどいと思うときは石井隆の映画を観返すと思います。それが「私が石井隆を愛するどうしようもなさ」ですとか言うと決まったぜ感がありますがたぶんつまりは本当にそういうことです。

素晴らしい数々の映画をありがとうございました。

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