【こちとら年増じゃ!】第1回『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
雑誌や新聞、同人誌やウェブメディア、更にはブログやSNSまで・・・現代という時代には実に多くの映画批評・感想が溢れている。しかし、だが、にも関わらず何かが足りない・・・そうだ、お年寄りの視点が足りないんだ!映画批評を読むのもネットをやるのも若者ばかり!だが日本は既に少子高齢化社会!ならばお年寄りの映画批評がもっとあってもいいんじゃないか!?いや、あるべきだ!!!
ということでお年寄りに最近のハリウッド映画とか大ヒット映画を見てもらって感想を行ってもらおうというのがこの不定期連載。第1回目の映画はこちらです。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
最近の大ヒット映画といえばやはりこの映画ですよね。他にもいろいろあるだろ大体それ何年前の映画だとかうるさい!
見てくれたのは東京都在住のおみやちゃん(91)さんです。
最後に映画館で見た映画は封切り時の『ひまわり』という御年91歳のおみやちゃん。しかしお達者という言葉はこの人のためにあるというほどお元気で頭脳明晰です。戦争を経験した世代はやはりふにゅけた我々戦後世代とは一線を画するのかもしれません。今回はそんなおみやちゃんに『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を批評してもらいましょう。
では早速視聴開始!
と意気込んでDVDを再生したものの映画が始まってすぐおみやちゃんは興味を無くしてしまった様子。確かにこの映画、導入部に登場人物や物語背景の説明がほとんどなく、最近の映画に慣れた人ならともかくお年寄りなら着いて行きにくいかもしれない。イモータン・ジョーの兄弟が画面に姿を現すとギョッとした表情を浮かべたものの、いまいちピンと来ていないようです。
改めて見ると意外と序盤の展開がモタついていたので筆者も横で見ながら退屈に感じていたところ、おみやちゃんの口から『駅馬車』みたいの一言。おお!鋭い!『マッドマックス』シリーズのカーチェイスはまるで車を使った『駅馬車』ですよね!まさに温故知新、映画が娯楽の王様だった時代を生きてきたお年寄りの映画鑑賞力を舐めてはいけません。
映画のギアが上がってきたところでおみやちゃんの話もギアが上がってきました。昔の俳優を愛するおみやちゃんはどうやら最近の俳優に不満があるようで、とくにおみやちゃん曰くテレビで映画を監督したいと言っていたという石田純一の演技力は酷評してました。そして話はおみやちゃんの馴れ初め話へ。当時事務の仕事をしていたおみやちゃんは好きな人がいたそうなのですが、別の人に「結婚してくれないと殺す」と言われて結婚を決意したそうです。なんだかイモータン・ジョーのような・・・しかし結婚後のおみやちゃんの旦那さんはおみやちゃんのために酒をやめギャンブルなどもしなかったようで、二人は仲睦まじく暮らしたそうな。そんな時代もあったんですねぇ。
中盤のマックスとニュークスが取っ組み合いの喧嘩をする場面に入るとおみやちゃんは顔を歪めます。なんでもおみやちゃんは人が殴り合ったりする光景などが苦手で、プロレスも見ないようにしてきたんだとか。殴り合い程度の暴力描写なら暴力描写に入らないとついつい考えてしまうのはもしかすると現代の悪弊なのかもしれません。この映画の暴力描写は殴り合い程度のレベルではないですが。
いよいよ鉄馬の女が登場し戦うお婆ちゃんにリアルお婆ちゃんは何を思うのだろうと少しだけ期待したもののおみやちゃんの表情にとくに変化はなく。そんなことよりしきりに雄大な荒野の風景がすごいと話すおみやちゃんです。案外見過ごされがちな気がしますが言われてみれば『マッドマックス 怒りのデスロード』は風景がすごい映画でした。
そして映画は終盤の一大カーチェイスへ。マックスとニュークスの殴り合いに顔を歪めたおみやちゃんが卒倒しないかと心配でしたがカーチェイスは平気なのか平然としてました。それどころか何度銃弾を撃ち込んでも厚い装甲により倒れないイモータン・ジョーの弟を見て「いくら撃ったって倒れないじゃない!」と不満をこぼしてました。戦時中は四国に疎開し戦争末期になるとどうせ死ぬなら実家のある東京で死にたいと列車で東京に向かい、その道中敵機の機銃掃射を受けたため必死の思いで車両の下に隠れたというヘビーな体験を持つおみやちゃん。東京に着くと一面焼け野原で呆然としたそうですが、殴り合いには弱いのに銃撃戦には強いのはこんな体験ゆえなのかもしれません・・・?
いよいよ感動のクライマックス・・・なのですがここでおみやちゃんはトイレに立ってしまいました。終盤のカーチェイスが始まると食い入るように画面を見ていただけにこちらとしてはちょっと動揺してしまいますが、人間尿意には勝てません。おみやちゃんが帰ってきた時には既にスタッフロール。
さて、おみやちゃんの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』評価やいかに。
――というわけで感想を教えてください
CMが無くて観られたの初めて。
――あ、そうなんですか
やっぱし、日本と違ってスケールが大きいなって感じた。
――なかなか話を追うのが大変な映画かなと思ったんですけど
初めの頃はちょっと意味がわからないけど(笑)見てるうちにだんだん分かるようになった。
――印象に残ったところは?
印象に残ったところは・・・なんかさ、日本にこんな広いところはないなって感じたし、あとは、なんか色んなメイクの人が出てきたんで、ちょっとおっかなかった。
――あ、怖かったんですね
あたしが思ってた外国の俳優さんとは違った印象を受けた。今まで『ひまわり』とか『センチメンタル・ジャーニー』とか、ほら、ね? 良いあれしか観てないから。
――良い顔しか
だから、今観てさ、あ、こういう人もいるんだって思った。
そいで、メイク、こう、白っぽい? なんか能面の人が出てきたりなんかして、あぁこんなメイクもあんだなって思ったよ。
――なるほど
何十年かぶりに映画観ましたね。
――最後に観たのは・・・
もう四五十年前だから。『ひまわり』とか『センチメンタル・ジャーニー』とか『なぎさ』とか・・・それみんな洋画だけど、良い映画だったね。
アラン・ドロンとかそういうのが好きだったから。今観たらそういう素敵な人なんか一人も出なかった(笑)
――みんな汚れてますからね
あれ(『西部警察』)もすごいなと思って観てたよ、爆発やなんかして。だけど、やっぱし違うね。日本のあれとは違うわ。
――この映画ちなみに世界的に大ヒットしたんですけど、どうですか、そう聞いて。
ドキドキして観た、あたし。ドキドキして観て、あぁ今若者こんなの好んでんだなと思った。
――あ、じゃあ、おみやちゃんとしてはもうちょっと、穏やかな映画の方が・・・
うんうん!いいね!今ちょっと、骨折したとこ(※おみさちゃんは少し前に肋骨を骨折したそうです)痛かったね、観てて。
――それはどうもすいません・・・
おっかなかったね、顔が。
――悪い奴の顔が
それでなんか、顔が真っ白な人は死んでる人を思い出しちゃった(笑)
――ははは
でもこんなすごいの、初めてじゃない?91歳で観たの。
――お年寄りで観る人はあんまりいないですからねぇ
いない!子供がいて孫やなんかがいると一緒になって漫画やなんか観てるっていうけど、あたしほら、いないじゃない!
だから、観るっていえばニュースか、志位さんかなんかが出る討論会とかあるでしょ?そういうのしか観ない。
――結構カタい番組が多いんですね
時代もんだと、あれだね、『桃太郎侍』か『水戸黄門』ぐらい。
――『水戸黄門』とこの映画どっちがすごいですか
これ!もう二度と見たくない!
――ちなみに、今ほかに映画を見るとしたら見たい映画はなんですか?
だから時代もん。現代はあんまり好きじゃない。ひっついただのはっついただの・・・で今のほら、なにしろ芸能人が出てるのが嫌だもん。みんなろくなのいない!
――(爆笑)
うた歌ってる若い人だってみんな似たような顔してる。イケメンだけど。だから、これからこんな子たちが日本を背負っていけるのかしらと思って心配。
――個性的な人は少なくなったかもしれないですね
うん少ない。あたしが好きなのは高倉健、梅宮、それから・・・そういう人が好きだった。上原謙は嫌いなのよ。
――ナヨッとしてるから?
佐分利信とか佐野周二とかああいう人好きだった。ガッチリした人。三船敏郎とか。今いないよ!
――ああいう武士みたいな人はいないですよね
考えが古いのかもね。だって空襲中にあの爆弾ジャジャジャジャってやられて、汽車の下隠れたんだから!リュックみんな放り出して。
放り出さなきゃ隠れられないでしょう、汽車の下。そういう思いしてきたから。「欲しがりません勝つまでは」っていう標語だったからね。
女学校行っても勉強しないで落下傘の穴かがり。あたしたちんとこは風船爆弾も作ってたんだからね・・・
(※おみやちゃんの貴重な戦争体験話はなおも続いたものの、個人情報が大量に入ってしまうため残念ながら割愛)
うーむ、やはりお年寄りの映画批評は含蓄があります。風景がすごい、顔が怖いなど、若い観客が当たり前のこととしてあまり言及しないことを改めて突きつけられるとハッとします。戦争体験や歯に衣着せぬ俳優語りも学びがありました。おみやちゃん、どうもありがとうございました!
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