【Merry Christmas!2022】『奇跡の鐘』に刻まれた音楽的記憶(『サクラ大戦 活動写真』より)
90年代初頭、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」の終わりにプライマル・スクリームはアルバム『スクリーマデリカ』をリリースした。
アシッド・ハウス、ダブといった非ロック音楽の反復や揺らぎを吸収した、陶酔的なダンス・アルバム。
彼らはアルバムの中の数曲で、60年代末〜70年代半ばのローリング・ストーンズを手掛けたプロデューサー、ジミー・ミラーを招聘する。
彼とともに完成させたのが『Movin’ On Up』という楽曲だった。アコースティック・ギター、ピアノ、そして多彩なパーカッションが絡み合い、複合的なリズムを発生させている。そしてゴスペル隊のコーラスが高揚感をもたらす。
そのリズムと高揚感こそ、ジミー・ミラーがローリング・ストーンズとともに追求していたものだ。例えば『無情の世界(You Can’t Always Get What You Want)』のような曲で。
この冒頭に置かれた合唱と、楽曲を支配する複合的なリズムを踏まえて以下の曲を聴いてほしい。
TVゲーム『サクラ大戦2』の挿入歌『奇跡の鐘』である。
この曲は後に映画『サクラ大戦 活動写真』のためにリメイクされた。
この曲が歌われる冒頭部分の美しさについては、本サイトのクリスマス映画特集に寄稿した通り。
この映画を見たことで、私は『サクラ大戦』シリーズの音楽が持つ豊かさ、その底知れなさに取り憑かれてしまった。
以下のプレイリストは、一曲目から聴いていくことでその豊かさを味わえるようにと、私が製作しているものである。
サクラ大戦の音楽が指向しているのは昭和歌謡史であり、基本的には生楽器によるどっしりとした演奏が土台となっている。
その中で、打ち込みの反復するリズムが支配するクリスマス・ソングという存在は特異なものだ。
しかしそれはジミー・ミラーの仕事に見られる、ゴスペル的高揚感を踏まえたものだったのだ。おそらく。
上記は状況証拠からの推測に過ぎないが、ゴスペルほどクリスマスに相応しい音楽もないだろう。
さらに、歌詞に耳を傾ければ「誰もがほんの少し誰かを思うとき」とあり、クリスマスを表現する言葉として、これ以上のものがあるだろうか、と感服してしまう。
そしてサビ頭の「今日は特別な日」と上昇する部分。ここにもローリング・ストーンズの音楽的記憶が刻まれている。
『ルビー・チューズデイ(Ruby Tuesday)』である。
「Goodbye, Ruby Tuesday」と下降するサビは詞、曲ともに『奇跡の鐘』と鏡写しのようではないか。
「セカンド・サマー・オブ・ラブ」の意匠を纏ったクリスマス・ソング『奇跡の鐘』は、やはり必然に導かれて生まれたのだ。