【放言映画紹介 ウチだって社会派だぜ!!】第11回 安易な作務衣にご用心!『君たちはどう生きるか』×『ファッションが教えてくれること』
2023年7月14日、ついに宮崎駿の新作『君たちはどう生きるか』が公開される。
この映画、CMはおろか公式HPも無し。全くどういう映画なのかわからない。本当なら今頃、東宝の大宣伝攻勢でローソンのATMが駿の声で喋ったり、ファミチキ『君たちはどう食べるか』味が発売されたり、ファミマの店内放送で「ワオワオ!合宿免許ワオ!ファミリーマートにお越しの皆様!応援ボーイの、敏夫です!」ってアナウンスが聞けていたかもしれなかった。ジブリパークのCMは映画館でめっちゃ流れてた記憶があるのだが・・・
そのジブリパークのCMであるが、「ジブリパークは完全予約制です。ゆっくりお越しください」とか
なんとか鈴木敏夫のナレーションをたっぷり聞かされるのだが、ここ最近の鈴木敏夫の押し出しっぷり・・・違和感しかない!!!
以前Twitterで「鈴木敏夫にアイコンとしての魅力はない」(うろ覚え)というつぶやきを見かけたが、本当にそのとおりである。ジブリファン・・・いや、日本人はナウシカやトトロの生みの親である駿が好きなのである。駿のスポークスマンとしての敏夫には興味があっても、敏夫個人に思い入れがある奴は・・・厳しいんじゃないか。
Twitterで「敏夫 作務衣」で検索するとやりたい放題の老人の画像と、作務衣に悲鳴を上げる一般ユーザーのつぶやきが見られる。
今回問題として取り上げたいのは、最近出たがりの敏夫と彼が着ている作務衣についてである。
駿の『悪魔のいけにえ』(74)みたいなエプロン姿は作業服だから自然だが、敏夫の作務衣は完全に演出である。禅寺の小坊主でもあるまいに、枯山水でも作るのか!?
しかも海外の映画祭にも作務衣を着てくるんだからどうしようもない。外人向けのZENアピールなのかもしれないが、単なるTPOの概念がない人である。一方で高畑勲の葬式にはちゃんと黒スーツで来ているのだから、作務衣ユーザーとしての生き方を全うしろと言いたくなる。そこは黒い作務衣だろ!
男性有名人特有の、大一番でも動じない、普段モードの、オレ演出・・・有害な男性性ならぬ、有害な作務衣と呼ばせてもらおう。ただただ、小賢しい・・・。片岡鶴太郎と同じ匂いがする。
そんなおしゃれ知らずの敏夫に見て頂きたい映画が、米VORGUE(元)編集長であるアナ・ウィンターに密着したドキュメンタリー『ファッションが教えてくれること』(09)である。
2007年、アメリカ版「ヴォーグ」9月号の締切り5か月前。秋のファッション特大号であり、一年で最も重要な号の準備に編集長アナ・ウィンターは忙しい。トレンド傾向を見極め、特集すべきテーマを決め、撮影準備に入っていくアナは、部員から提案される掲載候補服の採用、不採用を決めるなど、分刻みで仕事をこなしていくが……。
Yahoo映画より
この映画、インタビューに答えるアナ・ウィンターの顔のアップから始まるのだが・・・
トレードマークであるサングラスを外したアナの素顔は『猿の惑星』(68)に出てくるチンパンジーの女博士ジーラにそっくりなのである!特に鼻孔の形!一瞬「おいらたちは・・・」って言い出すんじゃないかと期待してしまった。(吹替版「猿の惑星」はなぜかチンパンジーの一人称が「おいら」になっている。)
いや、バカにしているのではない。スタイリング次第で猿もミステリアスな美女に変身できる、これぞファッションの威力である。敏夫だって相応の格好をすればドン・コルレオーネになれる可能性もあるのに・・・。
アナといえば『プラダを着た悪魔』(06)でメリル・ストリープ演じる鬼編集長のモデルになったことで有名だが、映画の中でもスタッフに対し「あなたの見方はとても一面的、どのモデルも同じ服の着方、自分の殻をやぶりなさいっ!!」など厳しいダメ出しが飛ぶ。いや~怖い・・・怖いけど、近藤喜文を死ぬまで追い詰めた高畑勲に比べれば、全然怖くない。
腹心の部下であり、ファッション界の生ける伝説として有名なカリスマ編集者グレイス・コンディントンにも容赦しない。グレイスは1920年代をテーマとした素晴らしいファッションフォトを制作するのだが、アナは容赦なくボツにする。「何もかもボツだなんてものすごい憂鬱」「20年間も一緒にやってるからお互い頑固よ。でも、私は引き際を心得てる」と語るグレイス。かわいそう。
彼女は交通事故で編集者に転身する前は、60年代イギリスを代表するスーパーモデルであった。
そんな元・絶世の美女も(今も綺麗ですが)、VORGUE編集部では猿の女博士の使いっ走りなのだから恐ろしい。ファッションの持つ権力、侮れない・・・。
ちなみに本作ではもう一人の右腕であり、最近ドキュメンタリー『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』(17)が公開されたアンドレ・レオン・タリーも出てくる。
「ミス・ウィンターに健康指導され、おかげで命を救われた。」「3年前体重を減らせって言われたんだ。命令なら仕方ない。テニスを始めた。」と陽気に語るタリー。テニスコートにもルイ・ヴィトンのトランクを持って現れる徹底ぶりを見せつけてくる。中身はペットボトルが入っているだけなのだが。
「私という人間のスタイルだ。自分の審美眼に沿った生き方を守っている」
まさに美学の追求者、形から入るタイプ(レベル100)みたいなお人である。彼とアナは色々あってその後決別し、タリーが22年1月に逝去したことを考えるとちょっと切ない場面でもあるのだが。
映画のラストでアナはこう語る。「流行を予見するセンスなど私にはないわ。グレイスのように変化を見抜く感性も。」そう、この姿勢こそが今の敏夫に欠けているものである。彼女は商売人としての自分に誇りを持っており、ベレー帽を被ったりして敏夫のようにアーティストぶったりはしないのだ。
ジブリが興行収入において圧倒的王者だったのはいまや昔の話である。もはやジブリは追われる立場ではなく追う立場。芸術家である駿はともかく、商売人である敏夫がこの状況を面白く思っているわけがない。
説明するまでもないが、『鬼滅の刃』以降、ジャンプアニメの成長ぶりがとんでもないことになっており、100億越えのメガヒットを連発している。まあプログラムピクチャーなので良くも悪くもほどほどに面白い程度なのだが、製作費も製作時間も宮崎アニメの数分の一でそれ以上の収益を上げているのだから恐るべきコスパの良さである。
敏夫よ、東映まんがまつりなんかに負けて悔しくないのか。
今まで出しゃば・・・出ずっぱりだったのは、ひとえにジブリブランドの延命のためだと思っていたのに、肝心の新作がこの状態では酷くないかい。
敏夫よ、ただ人前に出たかっただけなのかい。
あの鳥のポスター、オタクの大喜利でしか話題になってねえぞ。初日の席、埋まってねえぞ。(7/12現在) これじゃ興収50億いくかどうかも怪しいぞ・・・ああ、言いたいことが山ほど・・・。
かっこだけの作務衣はもう、うんざりである。