【推薦ポエム品評会】第3回 『アイスクリームフィーバー』品評会
著名人による新作映画の推薦コメント。それは今や洋画宣伝に欠かせない要素であり、ときにビジュアルやあらすじよりも強力に見る者の鑑賞意欲を喚起する。こうしたコメントは宣伝であるからして、それがどんなにつまらない映画でもあからさまに貶すようなものはない。しかし、とはいっても書くのは人間。コメントを頼まれたはいいが褒めるに褒められない、しかし頼まれた仕事は断れない。そんなこともあるだろう。また逆に、あまりにも映画が面白すぎて冷静にはコメントすることができない。そんなこともあるだろう。
そこに、ポエムが生まれる。商業と芸術、仕事と趣味、理性と感情のせめぎ合いの末に生み出される映画宣伝の推薦ポエム。宣伝の役目を終えれば誰に顧みられることもなく忘れられていく推薦ポエムを、確かに存在したものとして記録に、そして記憶に残す。そのために品評を行うのが本コーナーである。
今回取り上げる映画はPARCO製作・配給の『アイスクリームフィーバー』なのだが、公式サイトに目を通すと推薦ポエムに負けず劣らずイントロダクションもなかなか強烈なものがあったので、まずその抜粋をご覧頂きたい。
H&MやGU、スターバックス、日清カップヌードル×ラフォーレ原宿の広告、ウンナナクール等の企業ブランディング、桑田佳祐や吉澤嘉代子らのCDジャケット、さらにはドラマやCM制作を手掛けるなど、様々なフィールドで活躍するアートディレクター・千原徹也。私たちの日常に彩りと驚きを与えてきた彼が、デザインを志した原点であり、長年の夢だった映画製作に進出した。
https://icecreamfever-movie.com/about/index.html
この斬新な企画『アイスクリームフィーバー』に共鳴し、参加したのはいずれも各界の第一線を走り続ける面々。
主演を務めるのは、第46回日本アカデミー賞で10部門の優秀賞に輝いた『ハケンアニメ!』や、Disney+オリジナルシリーズ「ガンニバル」等、日本映画界に欠かせない俳優として近年より一層存在感を増しつつある吉岡里帆。
菜摘のアルバイトの後輩、桑島貴子役には、独自の世界観で人気を博す音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のボーカル・詩羽が抜てきされた。本作が映画デビューとなる彼女の初々しくも堂々たる空気感は、唯一無二。
さらに、主題歌「氷菓子」を吉澤嘉代子が書き下ろし、エンディングテーマには小沢健二の名曲「春にして君を想う」を起用。「氷菓子」は、新たな物語の始まりを告げるような高揚感あふれるメロディが印象的。吉澤が紡ぐ「火傷」「アイス」「東京」「口づけ」といった劇中のキーワードがちりばめられた詞世界が、感動を増幅させる。
また、物語の飛躍を予感させるオープニングテーマなど劇中の音楽は東京2020オリンピック開閉会式の音楽監督も務めた田中知之(FPM)が担当。映画、音楽、ファッションなど日本のカルチャーを形成する面々のアンサンブルが実現した。
加えて『アイスクリームフィーバー』の大きな特徴は、映画から他分野への拡張。ウンナナクール、猿田彦珈琲、アダストリア、PARCO、ボディファンタジー、グランマーブルといったブランドとの連動企画が同時展開し、既存の映画の枠を超えた「映画×ファッション×広告×デザイン」が融合したボーダレスなクリエイティブが街を包んでいく。
尋常ではないプレゼンだが、これでも抜粋なので実際のイントロダクション文の半分ぐらいに過ぎない。「各界の第一線」「日本映画界に欠かせない」「唯一無二」「日本のカルチャーを形成する」などの大仰な持ち上げ修辞の数々、それに加えてH&M、スターバックス、アダストリア、桑田佳祐、東京2020オリンピックなどなどの有名な固有名詞の乱れ飛ぶこのイントロダクションを読めば、とにかくすごい人たちが作ったすごい映画であるということは伝わるだろう。監督の千原徹也という人物は寡聞にして存じ上げないが、すごい人たちを束ね上げたのだからおそらくすごい人であるに違いない。
とてもすごい人たちのすごい映画であることがわかったところで、品評に移ろう。
なんとも優しき風に包まれた御ムービーでございましょう。
くっきー!(野性爆弾)
千原監督様にゆっくり話していただいている様な優雅で穏やかでございました。
色合い、セリフの数々、時間の流れ、音楽、全てにおいてなんとも美しゅうございます。
わたくしの様な蟲のちょい上ほどの生き物とすれば眩しく美しくて。
鬼素晴らしきの一言でございます。
カラフルでスタイリッシュな映像内で呼吸しながらも、
又吉直樹(ピース)
彼女達は繊細で複雑な現実を抱えている。
相反するような美しさと痛みがアイスクリームの記憶を伴い、
見事に融合していた。
『アイスクリームフィーバー』の推薦ポエムでまず目を引いたのは芸人の多さ。お笑い映画というわけでもなく吉本興業製作の映画でもないにも関わらず三人も推薦ポエムを寄せている。これも千原徹也監督の人脈のなせるわざなのだろうか。最初、千原徹也というのは千原兄弟のどっちかの本名もしくは映画監督ネームで、だから芸人が沢山推薦ポエムを寄せているのかな?と思ってしまった。
くっきー!のポエムは過剰な褒めが皮肉に反転する瞬間が何度もあり、それが意図的なものか企まぬものであるかは判然としないが、独特の言語感覚も含めてクセの強い、芸人らしい面白い仕上がりとなっている。それと対照的なのは又吉直樹のポエム。芸人というよりもこれは完全に作家としてのポエムであり、くっきー!のポエムとの温度差が大変なことになっている。「カラフルでスタイリッシュな映像内で呼吸しながらも」とくれば続く語句は「カラフル」「スタイリッシュ」と対照を成すものであるはずが、「繊細で複雑な現実を抱えている」と語句の関連性が薄く、いささか形式主義的なポエムのきらいがあるが、なんとなく雰囲気は伝わる。
真昼のダンス
たかはしほのか(リーガルリリー)
伸びる光、屈折を重ねて
ゆらゆらと舟を漕いでいた。
クーラーが汗を乾かす白の香り
雨の音が涼しく満たす秘密の部屋
締め切ったカーテンの模様がドロドロに溶けて無くなってしまう前に
もう一度、
会いに行こう。
なにやら不可思議なポエムである。暗号めいた語句の数々からその言わんとすることを読み取るのは難しく、映画を見る前に読み、映画を見た後にもう一度読んでみたが、やはり意味がわからない。しかしながら、合理的な意味の先を言葉の戯れによって指し示すものがポエムであるとするならば、この意味不明さも純度の高さとして肯定的に捉えることもできようか。
アイスクリームをwow…wow…wow…
SUZUKA(新しい学校のリーダーズ)
惚れて夢中になる事はなんて尊いのでしょう。
溶けては溶け、ドロドロの沼から抜けれない。
この甘い液体で背泳ぎしてたい。
Ahhhh「アイスクリームフィーバー」
ごっつぁんです。
こっちはホントに意味わかんねぇな。いや言いたいことはわかるよ、言いたいことはわかるが「アイスクリームをwow…wow…wow…」とはなんだ。モーニング娘じゃねぇんだから。日本の未来はないだろここには。まぁでもそういうアイスあるもんね。MOWっていうやつね。そういうこと?
今回の推薦ポエムは若い作者が多かった。若い感性に少々胃もたれしたところで、特賞の発表。
まず画角が良い、今時の映画って感じがしてオシャレ。
そして切り取られた東京の風景、普段ふつうに感じる
映画内に出てくるロケ地辺りの空気感がそのままちゃんと表現されていて、
映像もスチール写真的なボケ足感もたくさん生かされていて美しかった。主人公のキャラ設定にはおそらく千原さん御自身も投影されていて、こういう映画、こういう世界観を表現したい!
って想いがひしひしと伝わるとても素敵な映画でした。作りたくて作りたくてその気持ちが破裂して生まれた映画は、なんというか、
ジューシーというか、甘酸っぱい感じというか、暗さとか、怖さとか、いろいろ細かな感情の側面を感じることを楽しめるので、若い年齢の方ほど観て感じて楽しめる部分がたくさんあると思います。僕は若くはないけどニヤニヤと楽しめました。
石井克人(映画監督)
個人的にかもしれないが実に久々に石井克人の名前を目にした。なにやってんの石井克人。もう10年ぐらい新作映画撮ってないじゃないか。最近はCMをメインに活動しているようだが、新作映画に推薦ポエムを寄せるぐらいなら自分でもそろそろ・・・いや、企画がなかなか通らないとかいろいろ本人にはどうにもならない事情もあるのかもしれないな。文句を言うのはやめよう。
そんな石井克人の推薦ポエムは千原徹也へのリスペクトの感じられるもの。石井克人もまた広告畑出身の異業種監督として映画業界に飛び込み、従来の日本映画にはなかったファッション感覚や独特のオフビートなユーモアで話題を呼んだことから、広告畑出身の監督でありこの映画『アイスクリームフィーバー』では様々な面で越境的な表現を試みた千原徹也には共感できるところが多かったんじゃないだろうか。
若いもんを褒めて伸ばすのもいいがあなたも新作撮って下さいねの願いを込めて、特賞である。