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推薦ポエム品評会

【推薦ポエム品評会】第7回 “ドル三部作 4Kリスター版”品評会

著名人による新作映画の推薦コメント。それは今や洋画宣伝に欠かせない要素であり、ときにビジュアルやあらすじよりも強力に見る者の鑑賞意欲を喚起する。こうしたコメントは宣伝であるからして、それがどんなにつまらない映画でもあからさまに貶すようなものはない。しかし、とはいっても書くのは人間。コメントを頼まれたはいいが褒めるに褒められない、しかし頼まれた仕事は断れない。そんなこともあるだろう。また逆に、あまりにも映画が面白すぎて冷静にはコメントすることができない。そんなこともあるだろう。

そこに、ポエムが生まれる。商業と芸術、仕事と趣味、理性と感情のせめぎ合いの末に生み出される映画宣伝の推薦ポエム。宣伝の役目を終えれば誰に顧みられることもなく忘れられていく推薦ポエムを、確かに存在したものとして記録に、そして記憶に残す。そのために品評を行うのが本コーナーである。


マカロニ・ウエスタンと聞いて耳がピクッと動いてしまう人はもうそれなりの年齢だろう。マカロニ・ウエスタンとはイタリア製の西部劇。その作風は監督によって様々だが、イタリア映画史がそこから始まったといえる史劇映画の伝統を受け継いだ見事なセットや小道具、第二次世界大戦直後の現実を生々しく切り取り世界に衝撃を与えたネオリアリズモの影響を感じさせるリアルなディテールや厭世的な世界観、そしてラテン民族のパッションが炸裂した過剰な演出が、概ねマカロニ・ウエスタンの特徴といえるだろう。1960~70年代にかけて一世を風靡したこのジャンルは、しかしブームが過ぎると急速に廃れ、今ではまたウエスタンの中心は発祥の地アメリカに戻りつつある。

そんな中で4Kリマスターされリバイバル公開されるのが『荒野の用心棒』 、 『夕陽のガンマン』、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』の三本、通称“ドル三部作”(大ヒットしたことから“ドル箱三部作”とも)だ。監督セルジオ・レオーネ、主演クリント・イーストウッド、音楽エンニオ・モリコーネの黄金トリオが放ったこの三本はマカロニ・ウエスタンの精髄の詰まったマカロニ中のマカロニ。マカロニ・ウエスタンが遠い過去の遺物ではなく今もってしてギラついた魅力の色褪せぬジャンルであることを証明するに違いない今回のリバイバル、マカロニ映画ファンの一人として喜ばしい限り。

もちろん喜んでいるのは筆者だけではなく、今度のリバイバル上映に際しては各界からも喜びの声が寄せられたようだ。ということで“ドル三部作”4Kリマスター版の推薦ポエムを、今回は品評していきたい。

最初から3本作られるはずではなかったとはいえ、60年経ってみると、これは過去最高の3部作かもしれない。いずれの作品も前作を上回り、新たな表現を発明している。35mm テクニスコープで撮影された3部作の4K修復版は、本当にゴージャスだ。 レオーネ、イーストウッド、モリコーネは、今や神の領域にいる。

ギレルモ・デ・オリヴェイラ(『サッドヒルを掘り返せ』 監督)

サッドヒルとは今回上映される『続・夕陽のガンマン』のクライマックスに登場する、墓石に囲まれた天然の闘技場のような場所のこと(※実際は天然ではなく撮影のために作られたもの)。この監督ギレルモ・デ・オリヴェイラは『続・夕陽のガンマン』が好きすぎて今や草木に埋もれたその撮影地を辛抱強い調査の末に特定し在りし日のサッドヒルの姿を再現してしまった筋金入りのマカロニ・ファンであり、その一部始終を撮影したのがドキュメンタリー映画『サッドヒルを掘り返せ』。「神の領域」と言われればそれは言い過ぎだろとつい言ってしまいたくなるが、ギレルモ・デ・オリヴェイラにとってレオーネ、イーストウッド、モリコーネはたしかに神なのだろう。素朴にして力強い推薦ポエムだ。

子供の頃、母が編んだポンチョを着ていた。マカロニ・ウエスタン好きになったのも、映画好きになったのも、イーストウッドに会えたのも、全部ポンチョのおかげだ。みんなポンチョを着ろ。ドル3部作を観ろ。話はそれからだ。

石津文子(映画評論家)

どちらかと言えばこれば“ドル箱三部作”の推薦ポエムというよりポンチョの推薦ポエムではないだろうか。たしかにポンチョは着心地が良く、見た目は独特だが、それがかえってクセになるという人もいるだろう。近年は雨合羽の代わりに雨ポンチョなども開発され、雨の日に自転車を運転するなら雨ポンチョは最良の選択肢といえるほど、ポンチョはその可能性を広げている。これまで職場や映画館での自主的な体温調節といえばブランケットが定番だったが、すっぽりかぶれるポンチョであればより広い範囲を覆え、かつファッションとしても機能する。考えてみれば、着脱の容易なポンチョは生地に誰かしら何かしらの名前を書けば応援アイテムとしても使用できるかもしれず、デモに参加する場合などポンチョに主張を記してデモ開始と共に着用、デモ終了後は脱いでカバンの中に収納すれば、プラカードなどといった従来のデモ用具に比べて持ち運びが簡単、かつアピール性も抜群ではないだろうか。なるほど、こう考えれば、ポンチョの用途は無限大。全部ポンチョのおかげと言いたくなる気持ちもよくわかる。ただ、“ドル箱三部作”の推薦ポエムではなく、これはやはりポンチョの推薦ポエムである。

「幅広の帽子」「ポンチョ」「眩しそうな眼差し」で孤独に荒野に立つ。クリント・イーストウッドのこのシンプルな立ちポーズこそ!気品!神話性!何者の追随をも許さないヒーローの姿だ。

荒木飛呂彦(漫画家)

独特の画風と文体で孤高のカルト漫画家の名をほしいままにする荒木飛呂彦はコアな映画ファンとしても知られている。その荒木飛呂彦が“ドル三部作”に推薦ポエムを寄せたことで膝を打った荒木ファンは少なくないんじゃないだろうか。そうか!荒木飛呂彦まんがのあの過剰さ、あのスタイルと見栄えを最優先にして理屈は後から考える作風は、マカロニ由来だったのか!実際にマカロニ由来かどうかは不明だとしても、マカロニと荒木飛呂彦に親和性があることは、代表作『ジョジョの奇妙な冒険』第5部の舞台がイタリアだったことからも明らかだろう。その荒木飛呂彦の推薦ポエムはまるで『ジョジョ』の台詞のようだ。「このシンプルな立ちポーズこそ!気品!神話性!」感嘆符を読点的に用いるのが荒木流である。

スパゲッティばかり食べていた僕が、“マカロニ”を食べるようになったのは、この“ドル3部作”のおかげだ。クロサワが産んだ和食は、イタリアの土を踏み、主役のイーストウッド、監督のレオーネ、音楽のモリコーネという三人のマエストロにより、新たなジャンルへと昇華した。米国産の西部劇とも違うその独特のスタイルと魅力は、一度味わうと病みつきになる。タランティーノがかなりの影響を受けたのと同じように、“ドル3部作”がなければ、メタルギアも生まれなかったはずだ。世界中のフォロワーに影響を与えたイタリアン・パスタの絶品が、4Kで蘇る。皿の底まで堪能して欲しい。 

小島秀夫(ゲームクリエイター)

まず第一センテンスについてだが、ここにおいて小島秀夫が言わんとすることは“ドル3部作”を見たことでマカロニ・ウエスタンにハマった、ということだろう。だが、マカロニ・ウエスタンは日本での呼称であり、国際的にはスパゲティ・ウエスタンと呼ばれているため、スパゲティ=マカロニとなり、表現と文意にズレが生じている。映画マニアの小島秀夫は当然マカロニ=スパゲティであることを知っていただろう。知った上であえて「スパゲッティばかり食べていた僕が、“マカロニ”を食べる」と上手いことを言おうとして、スベっているのではないか。無論、これが比喩ではなく、小島秀夫は本当に昔はスパゲティばかり食べており、“ドル3部作”を見てからペンネやマカロニの美味しさを知り、よく食べるようになったという意味と解することもできる。しかし、そう読むとすれば、だからなんだとしか言いようがない。また、最終センテンスにおいて「皿の底まで堪能して欲しい」とあるが、通常パスタ料理の皿は底が浅く、スパゲティのように平皿であることも少なくない。そのため「皿の底まで」と言われてもすぐ皿の底出てくるやないか、これじゃあおめぇマカロニ・ウエスタンは底が浅いみたいじゃねぇか、と言わざるを得ず、ここでもまた上手いことを言おうとしてスベっているように感じられる。全体的に、スベっている推薦ポエムである。

さすが根強い人気を持つ“ドル3部作”と言うべきか、今回は熱量の多い推薦ポエムが多かった。そんな中でも特段の熱量を放っていた推薦ポエムを、今回の特選としたい。

上質の葡萄酒は時が経つほど美味になる。イタリア産の極上VINOなら、なおのこと。もう何度も味わった(観た)って? 劇場でかい? 至福の真っ赤なVINOは、ちゃんとリストランテ(映画館)で味わおうぜ!

鬼塚大輔(映画評論家、「セルジオ・レオーネ」(フィルムアート社刊)翻訳者)

恥ずかしい。なんだかとても恥ずかしい推薦ポエムである。「VINO」だけでもかなりの恥ずかしさなのに、「ちゃんとリストランテ(映画館)で味わおうぜ!」と、読者にわかりやすいよう()で暗喩を丁寧に説明している点、そのうえで「味わおうぜ!」と無茶をして元気ぶっている点、実に読んでいて恥ずかしくなる。だが、マカロニとは、あえて言えば恥ずかしいジャンルではなかったか。大の大人が西部のガンマンに成りきって見せかけの死闘を大真面目に演じるそのコスプレ性は、イタリア史劇の伝統を受け継いだものだとしても、やはり恥ずかしいものである。むしろその恥ずかしさこそマカロニの最大の魅力と言えるのかもしれない。恥ずかしいことを本気で、大真面目に、職人たちが技術の粋を集めて、胸を張ってやりきる。誰に認められなくてもいい。それでも自分たちはこれをやる。あくまでも本気で、しかし仕事として。マカロニ・ウエスタンは一般にかっこいい映画ジャンルとされているが、そのかっこよさはこうした恥ずかしいことを躊躇わない姿勢にあるのではないだろうか。それゆえ、この推薦ポエムはその恥ずかしさによって、マカロニのなんたるかを体現していると言える。恥ずかしいことを本気でやるかっこよさを教えてくれる、カッコいい推薦ポエムである。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka