【特集 北野/たけしの映画世界】原作とか原案とか北野武関連映画を集めてみる
北野武/ビートたけしといえば公開されたばかりの監督最新作『首』の人としてもっぱら話題に上っておりますが、実は現在もうひとつ北野武の関係した映画が公開中であることをみなさんはご存じであろうか。その映画とは二宮和也×波瑠の純愛映画『アナログ』。スマホを持たない知的で清楚な謎の女性と若手建築家が週に一度だけ喫茶店で会ってプラトニックなデートをするが・・・というゼロ年代の難病映画かっ!と言いたくなるほどピュアなこの映画の原作がたけしが2018年に出版した同名小説。血と泥と生首に塗れた『首』の世界からするとものすごい距離があるが、そうした二面性こそ北野武/ビートたけしという希有な芸人/アーティスト/作家の魅力でありましょう。
ウィキペディアによればマルチタレントの草分けというたけしは映画やドラマの監督作・出演作も多いが『アナログ』のようにそれ以外の役回りでクレジットされている作品も少なくない。1985年の『哀しい気分でジョーク』はたけしのアイドル映画といえるものでたけしは主演と主題歌を担当(主題歌は後にシングルカットされた)。たけしを思わせる遊び人の大人気芸人をたけし自身が演じるというこの映画にはたけしの素なのでは?と感じさせる台詞や表情、展開が数多く含まれており、非監督作ながらも興味深い「たけし映画」となっている。
その後1989年にたけしは『その男、凶暴につき』で映画監督デビューを飾るものの、これは元々深作欣二が監督に予定されており、たけしは言わば代打起用。初監督作ということもあり現場の空気はあまりよくなく、脚本も野沢尚の単独執筆とあって、多芸なたけしとしては思うように撮れずに不満も多かったようだ(脚本の野沢尚は野沢尚で脚本意図を汲まずめちゃくちゃな映画にされたと怒っている)。そうした不満からか翌年1990年にたけしは企画と主役格での出演を務めた『ほしをつぐもの』を発表する。
脚本と監督はガイラ名義でも知られる小水一男なのだが企画者として関わり当時のたけしの資産管理会社・北野アツシエーション(アツシエーションはアソシエーションの誤字ではなく正式名称らしい)が製作していることから、内容面にたけしの表現したいものが反映されているのは間違いない。この映画でのたけしは行き場をなくした戦時中の疎開児童を保護し一緒に遊んでやるやさしさの塊のような存在であり、『その男、凶暴につき』の暴力刑事たけしと比べるとあまりの違いにびっくりさせられる。が、もしかするとこちらの方が当時のたけしが表現したい世界だったのかもしれない。
さてこの年1990年、たけしはたけし軍団大挙出演の監督二作目『3-4X10月』を手掛ける傍ら、小説家・たけしの代表作といえる『教祖誕生』を発表する。それ以前にたけしはカルト宗教問題ブーム(?)の火付け役となった新興宗教コミューン「イエスの方舟」を題材とした1985年のテレビ映画『イエスの方舟 イエスと呼ばれた男と19人の女たち』に主演しており、おそらくはその経験から自己流の新興宗教ものを書いてみたくなったのではないだろうか。
この『教祖誕生』を原作に、『その男、凶暴につき』から『ソナチネ』までの全ての北野作品で助監督・監督補を務めた天間敏宏が初監督に挑んだのが1993年の映画版『教祖誕生』。ここでたけしはインチキ宗教を陰で操り敵を排除するためなら暴力も厭わないヤクザな詐欺師を演じており、その内容はどことなく『アウトレイジ』の宗教団体版といった観もある。天間敏宏の静かでシンプルな画作りや演出も初期北野映画の影響を強く感じさせるもので、北野映画度のかなり高い作品だ。ちなみに、『イエスの方舟』と同じ監督で1993年には『説得 エホバの証人と輸血拒否事件』というカルト宗教もの実録テレビ映画も製作されており、こちらも主演はたけしが務めている。
たけし原作映画といえば近年もっとも話題を呼んだものはたけしの修練時代を描いた自伝小説『浅草キッド』に基づく同名のNetflix映画だろう。監督・脚本は劇団ひとり、若き日のたけしを演じたのは柳楽優弥で、そのなりきりっぷりは評判となったが、たけし関連作品として興味深いのは同原作の舞台を現代の浅草に移して映画化した2002年の異色作『浅草キッドの浅草キッド』。タイトル通り主演はたけし軍団の浅草キッドが務めており、たけし役は水道橋博士、たけしと共にストリップ劇場・浅草フランス座で修行を積んだ作家・ジャーナリストの井上雅義役は玉袋筋太郎。他の出演陣もたけし軍団の面々に加えてつぶやきシロー(ビートきよし役)や江頭2:50、鳥肌実にナポレオンズそして内海桂子(!)と現役芸人が多く面白いところだが、脚本をたけし軍団のダンカンが担当している点がたけし関連映画としては重要。
たけし軍団の初期メンバーであるガダルカナル・タカとつまみ枝豆を除けば元々はたけしの草野球チームだった軍団は素人に毛の生えたような人も多かった。そんな中でダンカンはたけし軍団移籍前は立川一門の落語家であり、たけし軍団では数少ない師匠を持つ芸人。『浅草キッドの浅草キッド』ではたけしと石倉三郎の演じる師匠・深見千三郎のユーモラスで疑似親子的な関係性と共に師匠に目を掛けられていないことを悩む井上雅義の心境が描かれ、そうした着眼点や師弟関係のディテールは師事経験のあるダンカンだからこそ取り出せたものかもしれない。また、たけしの方でも『3-4X10月』では助演、『みんな~やってるか!』では主演にダンカンを抜擢しており、一時期はダンカンに自身を投影していた節がある。ダンカンは阪神ファンであるとともに黒澤明の熱狂的なファンとして知られており、師匠を持つ芸人という点でも、野球と映画という趣味の点でも、たけしはダンカンに自分と近いものを感じていたのではないだろうか。
たけしの衣鉢を継ごうとするかに見えるダンカンは1998年には脚本・主演作『生きない』で映画界に本格進出、2005年には脚本・監督・主演の三役を兼ねた『七人の弔』を発表しており、この二作はいずれもたけしが得意とする残酷ブラックジョークやオフビート感覚を多く取り入れている。しかしたけし映画ほど世間の注目を集めることができなかったのか、その後は目立った監督作なし。現在はTAP(元オフィス北野)の専務取締役に就任し、味のあるバイブレーヤーとして映画やドラマに出演する傍らでガダルカナル・タカやつまみ枝豆と共に師匠を失ったたけし軍団を率いている。
世間的にはまったく話題にならなかったらしいが個人的に大きな衝撃だったのが2013年の『キッズ・リターン 再会の時』。タイトル通りたけし監督作『キッズ・リターン』の続編だが、あの最高なラストの続きを作るなんていったいどこの野暮天が・・・と思ったらなんと原案クレジットがたけし本人。原案といってもプロットを指す場合もあれば単にオリジナル・クリエイターを指す場合もあるので、どの程度たけしがこの映画に関わったのか、あるいはまったく関わっていないのかはわからないのだが、いずれにしてもたけしが続編製作を許可したのは事実だろうと思われる。とはいえ出演陣に前作と重なるところがないこの続編、製作陣も重なっているのはオフィス北野と森社長の名前ぐらいであり、言い方は悪いかもしれないが名作の知名度を利用して多少の小銭稼ぎをしたいという以上の製作動機は見出しにくい。たけしが乗り気だったとも思えず、もしかすると森社長とたけしの確執はこんなところに根の一つがあるのかもしれない。
探してみれば意外とあるたけし関連映画。配信どころかDVDにすらなっていない映画もあるのだが、『首』で北野映画に興味が出たらそこらへんも漁ってみてはいかがでしょーか。コマネチ!ダンカンばかやろう!