【こないだビデマでこれ買った】Vol.35 『Cannibal Women in the Avocado Jungle of Death』を買った
世は一大フェミニズムブーム。ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発に端を発する2017年のツイッター(現X)デモ#MeTooから早7年、当初は日本でそれほど大きな動きはなく、フェミニズム雑誌の創刊やKuToo運動(職場でのハイヒール着用ルールを撤廃しようとするツイッター発の運動)など散発的な影響が見られるに留まるも、ネット社会である韓国ではMeTooが大きなうねりを見せて韓国フェミニズムへと発展し、折りからの韓国ブームに乗る形で日本にも韓国フェミニズムが流入、今ではすっかりフェミニズムが一般化されているようです。
ブームとあらばなんであれ便乗するのがB級映画業界。ということでなんとあのフルムーン製作によるフェミニズム映画がこのCannibal Women in the Avocado Jungle of Death!といっても実は製作年は1989年、フェミニズムブームといっても現代のそれではなく、おおむねウーマン・リブ以降のアメリカで興ったさまざまなフェミニズムの小さな波に便乗した映画らしい。その後アメリカでは1990年代に入って一般的に第三波フェミニズムと呼ばれる現代思想系のフェミニズムが業界を席巻し、そして2017年からは第四波と呼ばれるご存じSNSフェミニズムが空前のブームとなるわけですが、それ以前の1989年に公開されたフェミニズム映画と考えれば、さすがフルムーン、先見の妙があるというものです。
さて内容の方はといえばこれはフルムーン映画なのでバカです。アボガドがたくさん採れるアメリカ南部アボガドジャングルでアメリカ人男性二人組が川で沐浴するおっぱいぷるぷるナイスバデーなレディースを発見、うひょーと思って覗いているとなんとレディースが矢で攻撃を仕掛けてきたではないか!じつはこのレディースはピラニア女族という人喰い部族、以来アボガドの供給源を確保するために男ばかりのアメリカ政府はなんとかしてこのピラニア女族を排除せんとしていたが、そこで白羽の矢が立ったのが主人公のフェミニズム人類学者であった。
ピンク大好きで惚れっぽいアホの子ウーマン学生を成り行きで連れてジャングルに向かうこととなった主人公はガイドが必要だということで地元の酒場で無能でアホだが無駄に自信過剰なマッチョ思想の男を雇いいざジャングルへ。途中、ピラニア女族にすっかり飼い慣らされた趣味は料理と編み物でビールは一切飲まず物腰は柔らかいとても平和な男部族に出会ったり、無能でアホだが無駄に自信過剰なマッチョ思想のガイドと主人公が大喧嘩をしたり、アホの子ウーマン学生がアホなのでわぁ可愛いネコチャンだと野生の雌ライオンかチーターを撫でて運良く生還したりしながらも、一行がなんとかピラニア女族の支配するジャングル奥地の寺院に辿り着くと、そこにいたのはなんと『ニューヨーク1997』の紅一点にして一時期ジョン・カーペンターの妻でもあったエイドリアン・バーボーであった。
かつては著名なラディカル・フェミニスト学者であったバーボーだが世間の風当たりは強くアメリカ男社会に絶望してアボガドジャングルに逃走、今では『地獄の黙示録』のカーツ大佐の如くピラニア女族を率いているのだった。如くというか役名がカーツ博士なのでもうそのまんまだ。はたして一行のどうでもいい運命やいかに。やっぱり男の人だけチンチンをちょん切ってソーセージみたいにしたりして食ったりとかされちゃうのだろうか?
それを期待して買ったソフトだったが残念ながらこれはフルムーンのお気楽バカコメディなのでそんなシーンはなかったし主人公とエイドリアン・バーボーがめちゃくちゃゆるいフェンシング対決をして負けたバーボーが「The Horror…」と言いながら死んで終わってしまった。なんでや!このソフトジャケットのフォントとタイトルなら絶対に人を食うだろ!
たしかに人は食っているがそれはあくまでも慣用句的な意味で、であった。基本的にはフェミニズムを取り巻くあれこれを風刺したパロディ映画であり、最後の最後まで血の一滴も出ない平和な食人族映画がこれなのだ。大いに騙されたが、とはいえフェミニズム・テーマのパロディ映画としては結構面白く出来ていて、最近の言葉で言うところの「有害な男らしさ」は随所でギャグにされ、見た目が強そうな男たちも中身は案外ヘボかったりするさまをジョークにし、良い意味でも悪い意味でもまとまりがまったくなく様々な立場が乱立している(おもにアメリカの)フェミニズム事情をピラニア女族同士の内部抗争に置き換えるなど、決してフェミニズムをおちょくってるわけではなく逆にフェミニズムの主張を結構しっかり理解しつつ男も女も平等に笑い飛ばす脚本になっており、なぜ『地獄の黙示録』のパロディになっているのかはよくわからないが、フルムーン映画のくせに脚本はなかなか知的。
もっと活躍するところが見たかったとは思うがエイドリアン・バーボーのラスボス出演も嬉しく(強い女といえばやっぱりバーボーだよな!)、こんなタイトルなのに人は食べないし血も出ないし演出はヘボヘボなので見てると絡まった脳みそがどんどんほどけていく気がすると了解した上で見れば、エロは最初に健全なおっぱいが出るだけだしグロやバイオレンスは皆無なので、わりあい誰でも楽しめるバカコメディなんじゃないだろうか。ちなみにどうでもいいトリビアだが、今回買ったBlu-rayソフトは紙のスリーブがついており、そのジャケ裏とケースのジャケ裏は一見同じデザインなのだが、一点だけ違いがあり、それはスリーブで隠されたケースの方のジャケ裏ではピラニア女族のおっぱいがポロリしている点だった。おっぱい映画と思われたくないという配慮だろうか・・・。