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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.41 『EASTER BLOODY EASTER』を買った

『プー あくまのクマさん』の大成功により現在英米の最低予算ホラー映画界はおとぎ話魔改造ホラーの大ブーム、近々にはあの世界一有名なネズミを果敢にもスラッシャー殺人鬼化した『マッド・マウス ミッキーとミニー』の公開も控え、自前で宣伝しなくても有名だからタイトルが売れるという身も蓋もない理由によって今後しばらくはホラー映画で一山当てたい山師たちによって世界中のおとぎ話が容赦なく血まみれ実写化されていくことだろう。

そうした現今のブームに加えて英米ホラーでは記念日スラッシャーという概念がある。これは言うまでもないかもしれないが、スラッシャー映画の火付け役がハロウィンを舞台にした『ハロウィン』だったため、以来クリスマスや大晦日などありとあらゆる記念日がスラッシャー映画で一山当てたい山師によって容赦なく血まみれ魔改造されるようになったことを指す。ということでこのEASTER BLOODY EASTERはキリスト教圏ではクリスマスと同じくらい盛り上がる春の祭日イースター(復活祭)と、イースターのメインイベントであるタマゴ探しゲームでタマゴを埋める妖精的な存在とされるイースターラビットをダブル血まみれ魔改造した、あまりにも生まれるべくして生まれた最低予算ホラーコメディ。こんなタイトルからして愚にもつかないに決まっている映画もきっちり店頭に並べてくれる実にありがたいビデマさんである。

さて、ところはアメリカの娯楽施設が酒場一軒しかない貧乏過疎田舎町。ここでは謎の住民失踪事件が多発していたがまぁ娯楽もコンビニもなんもない町やからねそら出て行きたくもなるわとあんまり住民も警察も相手にしない。そんな中、夫が失踪して失意と酒の日々を送っていたやさぐれ主婦の主人公はアメリカの田舎によくいる頭にアルミホイル帽子を被ったどうかしている男から実は失踪事件はジャカロープの仕業だと聞かされる。ジャカロープというのは頭にシカの角の生えたウサギのことで、伝承上の生物のような未確認生物のようなもの。アルミホイル帽子男の話によればジャカロープは人間に化けてこの町に潜んでいるらしい。なぜそんな与太話を信じるのかと思うが、おそらく(ジャカロープの影響で)野ウサギたちが殺人ぬいぐるみになってしまったのを目の当たりにしたためだろう、とにかく主人公とその親友はジャカロープ探しに繰り出す。一方、町では当然ながら惨劇の場と化すに決まっているイースターのお祭りに向けて着々と準備が進んでいた。

↑の予告編のサムネには例の凶悪ジャカロープがでっかく描かれているが最低予算ホラーに慣れ親しんだみなさんにはもはや説明不要、こいつはラスト20分ぐらいに出てくるだけでそれまでは殺人ぬいぐるみウサギによるちゃっちいホラー見せ場でしのぐ。しかもラスト20分にやっと出てきて殺戮を繰り広げるジャカロープはもちろん着ぐるみ。殺人イースターラビットがタマゴを掘る人々のタマを獲っていく血祭りが見たいなら素直に『クリッター2』を見るべきだろう。そういうのはこんな最低予算ホラーに期待すべきではない。

とハードルを下げたのはしかし、これが期待さえしなければ案外面白い映画だから。ジャカロープは人に化けるというのでホラーよりもミステリー味が強いのだが、町の住民たちはみなトロマ映画から毒を抜いたようなエキセントリックな曲者たちということで、このフーダニット展開がなかなか犯人を読ませない。坂口安吾の『不連続殺人事件』は犯人候補者がみんな何をしでかすかわからない変人だから誰が犯人かわからないという身も蓋もないアンフェアなトリックで議論を呼んだが、EASTER BLOODY EASTERもやってることは同じだ。そしてついにジャカロープが姿を現すとその殺しは意外と本格ゴア。といってもちゃんとした内臓を引っ張り出す程度なのだが、ちゃんとした作り物の内臓が出てくるというだけでも最低予算ホラーなら最低アカデミー賞特殊メイク賞もの。カッコいい黒人女性ニンジャが出てくるのも嬉しく、主人公とその親友が学がなく金もない飲んだくれの田舎中年主婦というやさぐれ感も味わい深くてイイ。

想像されるよりもずっと巧くバカコメディとフーダニットミステリーとモンスターパニックが融合した最低予算ホラーの佳作と言えるこのEASTER BLOODY EASTERを監督したのは主役も演じているダイアン・フォスター。脚本のアリソン・ローベルも町の鼻持ちならない仕切り役で出演しており、二人はまた製作にも噛んでいるから、いつまでも有名役者になれないしいっそ自分たちで映画作っちまおうぜという感じかもしれない。そのへんもまたグッとくるところなので日本でも公開してほしいが、なにぶんイースターという祝祭が日本では知られていなさすぎるのがマイナスポイント。まぁ、でも、あんまり関係ないか。モンスターと殺人さえ出てくれば大抵のホラーファンは背景行事なんかどうでもいいし、一番の見所は妙にハッピー感ただよう貧乏田舎民ぴょんぴょんダンスのミュージカルシーンというぐらいな映画だから。

ちなみに、イースターをネタにした最低予算のホラー映画では他にEaster Bunny Massacre、Easter Bunny Massacre: The Bloody Trail、Easter Bunny Bloodbath、Easter Evilなどがあるらしいので、ビデマさんでこの映画を探す時には類似品と間違わないようにお気をつけ下さい。探す人が万一いるならばの話ですが。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com