【こないだビデマでこれ買った】Vol.42 『IN THE AFTERMATH』(『天使のたまご』アメリカ版)を買った
最近ハヤカワ・ノンフィクションで文庫化されたアメリカ・インディペンデント映画界のレジェンド、ロジャー・コーマン先生の自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』を読んだところ、コーマン先生はあの『日本沈没』の権利を東宝から買い付け、特撮シーンばかりを抜き出し、更に新撮のドラマパートを追加した上で元々140分のこの映画を70分にまで短縮させたもはや別作品の魔改造映画Tidal Waveをでっち上げたそうで、これはぜひとも見たいのだが今のところソフト化などはされておらず幻の作品となってしまっているらしい。
誠に残念至極だが、その代わりと言えるかどうか、コーマン先生の鬼のでっち上げ技術を継承した弟子筋監督カール・コルパートによるこんな映画はビデマで入手することができた。その映画のタイトルはIn The Aftermth、押井守と天野喜孝がタッグを組んだ名作アニメ『天使のたまご』が監督の押井守に一言も知らされずコーマン先生の設立した映画会社ニューワールド・ピクチャーズに権利を売られた結果生まれた、コーマン印の魔改造作品である!(もっともこの頃1988年、コーマン先生は既にニューワールドを売却し新会社ミレニアム・ピクチャーズで製作と配給を行っており、ニューワールドとは配給契約を巡って関係が悪化し裁判まで起こしていることから、作品に直接は関わっていないと考えられる)
魔改造作品ということでTidal Wave同様にこちらもオリジナルを自由に切り抜いて新撮の実写パートを加えたもの。140分の『日本沈没』の魔改造短縮版を作るのはわかるが(わかるな!)『天使のたまご』は元々75分しかないのでそのまま公開すればよかったような気もするが、なにせ明確なストーリーのない詩的な作品ゆえ、アメリカの観客にはちと高尚すぎると判断されたのだろうか。アメリカで撮影した実写ドラマパートを加えた結果『天使のたまご』は生まれ変わった。ポストアポカリプスSFとなったのだ。
核戦争により世界が荒廃し大気の汚染された近未来。辛うじて残された人々は防護服に身を包んで『風の谷のナウシカ』のものすごくイマジネーションのない版みたいな感じで荒野の廃工場を探査していた。しかしそこにも希望ナシ。あるのは放射能にやられた人間の死体と予告編に使ってアクション映画なのだと客を騙すために撮ったと考えられる申し訳程度の銃撃戦だけだ(それ以外にアクション要素はない)。絶望に暮れる主人公。しかしそこに天使の羽が落ちてきた。これはいったい・・・?その羽を拾ってから、彼は奇妙な光景を幻視するようになる。天野喜孝の絵が流暢に動く世紀末SFゴシックなあの光景を・・・。
魔改造作品ゆえどれだけオリジナルを破壊しているのだろうと邪悪にも期待してしまったがその期待は案外裏切られることとなった。いや、『天使のたまご』にお前ら何してくれてんねんとこのあらすじを読めば思われるかもしれないのだが、コルパートはコルパートなりにオリジナルに敬意を払っているらしく、オリジナルと同じ構図の実写シーンを撮ってアニメと実写をオーバーラップさせたり、『天たま』のたまご少女とだいたい同じ格好をした少女を実写で登場させるとか、オリジナルに出てきた小道具(ポーション入れる瓶みたいなやつ)をわざわざ実際に作ったりと予算もないのに凝ったことをしているのだ。設定としては核戦争後のポストアポカリプス世界で希望を失った人類が地上が荒廃しているためにこちらも荒廃してしまった天界(?)の少女と神秘的に接触、これが恩寵となって地上世界に救済がもたらされるというもので、ハーラン・エリスンの『世界の中心で愛を叫んだけもの』を思わせる詩的なニューウェーブSFとして、魔改造映画とはいえ志は案外高い。
その志に残念ながら予算がまったく追いついていないため主人公が幻視したたまご少女の絵を描くというシーンでは一応プロのアーティストに描いてもらっていると思われるこのたまご少女絵がまったく天野喜孝の絵と似てなくて苦笑させられたりもするのだが、その神秘主義的な独自設定とストーリーゆえアニメと実写の混在する(実写パートに切り抜いたアニメが入ってくるシーンあり)映像にはなにやらアシッド感が漂い、背景となる赤茶けた荒野や廃工場の風景と合わせてアレックス・プロヤスの傑作『スピリッツ・オブ・ジ・エア』を少しだけ彷彿とさせたりと、これはこれでオリジナルな面白さ。権利問題により日本ではソフト化も上映もほぼ絶望的なのだが、『天たま』ファンならずとも一風変わったSFを見たい人にはオススメできるかもしれない。まぁ、見終わって最初に頭に浮かんだのは、やっぱり『天たま』は名作だな~ということなのですが。