MOVIE TOYBOX

映画で遊ぶ人のためのウェブZINE

こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.44 『ENTER THE VIDEO STORE : EMPIRE OF SCREAMS』を買った

仕事帰りや学校帰りにふらりと立ち寄ってまだ見ぬ世界のさまざまな映画に思いを馳せる――そんなレンタルビデオ文化も今や風前の灯、すっかりネット配信にシェアを奪われてレンタルビデオ最大手だったTSUTAYAが都内旗艦店のSHBUYA TSUTAYAからレンタルビデオフロアを一掃するなど、もはやレンタルビデオ屋のあの空気、あの時間を体感することはほとんどできなくなってしまったので、その「あの」を今でも留めるビデマさんに通っているわけですが、さてレンタルビデオ屋といえばトロマ、そしてエンパイア。いずれもレンタルビデオ文化を支えたジャンル映画界もしくはB級映画界の雄であり、レンタルビデオの面白さを知性と品性の下の方から人々に知らしめたヨゴレ役功労者と言えるでしょう。

とくにエンパイアは良かったナァ、夢があって。エンパイア映画にはロボットとかゾンビとかエイリアンとか非現実的な存在がおそらく必ず出てくる。仕事に学業にいや人生そのものに疲れたビデオ庶民にとってその異世界はまさに癒やし、しかも上映時間がポンポさんも驚く70分ぐらいと短いので頭をまったく使わずに済んでしまいます。たしかにエンパイア映画はチャチい。そして爆発的に面白いことはほぼ無い。けれども、だからこそとりあえずの感じで借りてきてダラダラしながら適当に見ることのできる気楽さがエンパイア映画にはあったのだし、そしてそれこそが従来の映画にはなかったレンタルビデオ映画の魅力であったのかもしれません。

で今回買ってきたのはそんなエンパイアの中でも選りすぐりのA級B級タイトル(※A級とB級という意味ではなくB級映画の中のA級タイトルという意味です)を5本セットにしたARROW VIDEOの企画Blu-ray BOX、ENTER THE VIDEO STORE : EMPIRE OF SCREAMS。1980年代のレンタルビデオ文化をエンパイア映画で追体験しようという駄菓子屋さんの色の悪いお菓子食べ放題みたいな夢のようなBOXセットです。レンタルビデオ屋に魔術師やら殺人人形やらゾンビやら巨大テディベアさんやらがわちゃわちゃ集った箱絵はレンタルビデオラヴァーなら絶対に欲しくなる秀逸さ、ARROWの高品質Blu-rayが5本も入って1万ちょいというかなりのお買い得価格というのもあって、これは買わないわけにはいきません。いざバックトゥザ80年代レンタルビデオ屋!

収録作①『SFダンジョン・マスター/魔界からの脱出』(THE DUNGEONMASTER

まず1本目はエンパイアの「SF〇〇」シリーズの一作『SFダンジョン・マスター/魔界からの脱出』。テッド・ニコラウやデヴィッド・アレンらエンパイアの職人たちがそれぞれ数分程度のアクションやSFやホラーなどの短編を監督して繋げたオムニバス的な映画でいや~これが面白くない!ハイテクメガネを装備した主人公が送り込まれる様々な異世界は『マッドマックス』風など毛色の違ったものもありますが同じようなものも多いし基本はハイテクメガネ(異世界では腕に装備したハンドヘルドコンピュータになる)でビーム出して敵をやっつけて終わりなので芸がまったくありません!でもそれがイイ。芸はまったくないけれど、『マッドマックス』風の世界とかゾンビとかストップモーションで動く巨像とかファンタジックなものが数分おきに出てくるので、つまらないけれども退屈は決してしないのです。これぞまさにエンパイア作品。エンパイア総帥チャールズ・バンドが監督したスラッシュメタルバンド編など本当に面白くありませんが、ともあれレンタルビデオ的現実逃避にうってつけの作品と言えましょう。

なお特典にはインタビューなどの他アナザーバージョンであるRage Warのワークプリント版、さらにそのインターナショナル版を収録。米国公開版であり日本でリリースされたバージョンであるTHE DUNGEONMASTERとの違いは冒頭にただ女優さんのキレイなヌードを見せるためだけに用意された完全に無意味な夢のシーンが入っていることと、エピソードの順番。そんなのどうでもいいよ!3バージョン収録って『ブレードランナー』かよ!誰が喜ぶのかはわかりませんが、モノが『SFダンジョン・マスター』とは思えない好待遇はさすがARROW VIDEOと思わせます。フルムーンが自社で出してるエンパイア映画のBlu-rayなんか大抵ビデオゾーン(昔やってたエンパイア映画のメイキングドキュメンタリー販促ミニ番組)ぐらいしか特典が入ってないのに!

収録作②『ドールズ』(DOLLS

これは改めて解説するまでもないかもしれません。エンパイアが得意とした人形ホラーの優等生にして、『死霊のしたたり』のスチュアート・ゴードンによるダーク・ファンタジーの傑作。メルヘン的なストーリーや主人公の子どものかわいらしさでほっこりさせつつ、殺人人形たちの殺し方が足の腱を切って転倒させ集団で拘束するとかだいぶ陰湿で痛々しく人形ゴア描写(破壊すると中からドロドロした顔が出てくる)もガチ度が高いというギャップがたまりません。デヴィッド・アレンによる人形ストップモーション・アニメはもちろん素晴らしく、寂しさと温かさ、そして不気味さの同居するラストの余韻はエンパイア映画とは思えない。

収録作③『セラーデュエラー』(CELLAR DWELLER

見たことがないタイトルだったんですが密かに日本でもビデオが出てたらしい。漫画家志望の主人公デブラ・ファレンティノが芸術家の卵たちの集うトキワ荘みたいなところに引っ越してきたら、実はそこは曰く付き物件。かつてジェフリー・コムズ演じる漫画家が面白い漫画を描くためにホンモノの悪魔を召喚してしまい、その魔道書は今でもトキワ荘の地下室(Cellar)に雑に置いてあったのだ!ということで当然惨劇となるわけですが、奇人だらけの登場人物や、主人公が漫画に描いたことが現実になるメタ的な展開が面白く、1940年代から数々の名監督のもとで働いてきたハリウッドの大御所イヴォンヌ・デ・カーロが怪演する寮母も多いに見物。しっちゃかめっちゃかの末のハッピーエンドにほっこり、と思わせておいて急転直下のバッドエンドにびっくりする。

収録作④『アリーナ』(ARENA

銀河の果ての惑星で開かれている天下宇宙一武闘会に惑星の宇宙人向けダイナーで働いている冴えない地球人が参戦、すぐに敗退かと思われたが名女性伯楽の指導の甲斐もありめきめきと頭角を現していく・・・というエンパイア版『ロッキー』×『スター・ウォーズ』。銀河の果てまで行ってやってることが着ぐるみ宇宙人のもっさりしたキックボクシングなのでショボさが際立つが、実は着ぐるみ宇宙人をかなりの数作って動かしており、観客もエキストラを100人ぐらい呼んでスケール感を演出した、エンパイア的には大作の部類。面白いかどうかで言えば答えに窮する感じだが、でも宇宙人がとにかくたくさん出てくるのでなんか得した気分になります。

収録作⑤『ロボ・ジョックス』(ROBOT JOX

オタク界隈のごく限られた一部で「早すぎた『パシフィック・リム』」とも称される人間搭載ロボット・アクション大作。経済が破綻し世界が分断再編された近未来、人々は戦争の代わりに巨大二足歩行ロボットによる対決で国家間の争い事を解決していた。目下のところ常勝街道を突き進むソ連ブロックの冷酷パイロットに挑むは米国ブロックの俊英パイロット。だがその決戦の場で観客を巻き添えにした大事故が起こってしまい・・・。

巨大二足歩行ロボットのバトルやパイロットの全身の動きがロボットの挙動に反映される操縦システムなど日本のロボットアニメで幾度も見た光景がついにハリウッド(近傍)で実写に!と喜んだのも束の間、肝心のロボットバトルはデヴィッド・アレンのストップモーション撮影は重量感があって見事なものの、兵器としてのリアリティを重視したか結構もっさりしていて微妙に期待したものから外れているのが実にエンパイア。しかも映画の半分くらいは米国ブロック陣営の中でのスパイ捜しのサスペンスに費やされているのでなんとも歯がゆい。いや、そういうのいいからロボットバトルやってよ!と思いますが、ロボット造型や特撮は言うまでもなく、ロボットを作った日本人マツモト博士や野心的な女性パイロットなどなどのキャラクターは魅力的だし、ソ連パイロットと米国パイロットが最後にはコックピックを出て拳で殴り合い、やがて握った拳を解いて握手で和解するラストもアツいと言うほかなし!

なんだかんだエンパイア末期の名作ということで特典も監督スチュアート・ゴードン本人によるオーディオ・コメンタリー(ゴードンは2020年に亡くなったので以前のソフトに収録されたもののよう)ほか、主要出演者のインタビューやデヴィッド・アレンのドキュメンタリーなど、このBOXの中で一番の大盛り。エンパイア映画にしては大作すぎたので興行的には失敗したものの、その後チャールズ・バンドは『ジャンクウォーズ2035』『地球最終戦争 ロボット・ウォーズ』と会社を変えてまで似たテイスト(出演者やスタッフまで半分ぐらい同じだ!)のロボット映画を世に放ちエンパイア・ロボット・トリロジーを形成したので、いつの日かエンパイア・ロボット・トリロジーのBlu-ray BOXも出してもらって、米国産ロボット映画の先駆的シリーズとして再評価されてほしいところです。ただあんまり面白くはない。

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com