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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.2『Morbid Tales』を買った

ブライアン・ポーリンといえば知る人ぞ知る、知ってる人は超知ってるが知らない人は一切知らないという現代ゴア映画シーンの最重要監督。その魅力はなんといっても悪趣味を通り超してアーティスティックでさえあるゴア描写、人体が様々な作用で変形し解体され血やらなんやらの液体を出せる限り噴き出しながら原形を留めぬ肉塊へとダイナミックに変貌していくさまは恐怖よりも爽快感と陶酔感を感じさせ、その意味でポーリン監督作はしっかりと物事の善悪の区別がつく大人でなければ嗜むことのできない大層キケンな代物といえる。

現在ビデオマーケットでは最新作にしてポーリンが新境地に達した胸糞映画『Septic』も好評販売中だが(※これを書いてる時点の話なので詳しくは直接お問い合わせ下さい)、棚を漁っていたら2020年発表の前作『Morbid Tales』のDVDがひっそりと中古1000円とかで売ってたので即購入。ということで今回はその内容を紹介しよう。

さて『Morbid Tales』、これは厳密には2020年の作といえるかどうかわからない。というのもこの映画、1990~1991年の間に制作されたポーリンのフィルモグラフィー最初期の短編『Sacrificial Birth』『The Shifters』『Final Scream』を百物語形式で(ゴア映画的には『バーニング・ムーン』形式というべきだろうか)繋いだ自選短編集であり、各短編間のブリッジドラマとプロローグ/エピローグは新たに撮られたものではあるが、ランタイムの大部分は初期短編が占める。ポーリンも出演して自ら肉塊と化すエンディングの人体崩壊スペクタクルは大いに見物だが、基本的にはポーリンの初期作に興味がある人向けのファンアイテム、ボーナス映像みたいなものであまり長編映画という感じはしない。

日本のゴア映画シーンも水面下で秘かに盛り上がりを見せている昨今、人知れず様々な場所でゴア映画上映イベントなども開かれているようだが、おそらくこの映画が上映されることは今後いかにポーリン人気が高まろうが少なくともお金を取る上映イベントでは決してないだろう。常にキケンなポーリン映画の中でもこの映画はとりわけキケンだ。キケンすぎる。こんなものを世に出して本当にいいのかとその映像を網膜に刻みつけながら目を疑った。良心というものはないのかと脳が震えた。あまりにも、あまりにもこの映画・・・画質が悪すぎる!

元々ポーリン映画は画質が悪いことに定評があるが1990年代初めに安いホームビデオで撮られそのテープもたぶん物置の中にでも突っ込まれていたに違いないこの映画に収められた三つの短編の画質は画質が悪いなどという生ぬるい言葉では到底表現できない。その片鱗は予告編からも確認できると思うが、この酷さが本編では1分や2分ではなくトータル50分ぐらい続く。数カ所画質が悪いとかそんなものではなく三つの短編すべてが最初から最後まで最低画質。このDVDを買ったことを後悔などしていないし今でも1000円なんて激安特価で買えてよかったビデマさんありがとうと思っているが、見る人が見ればその衝撃的な画質に目が飛び出し腸はひっくりかえり全身の穴という穴から謎の液体を噴出し煮えたぎる怒りを抱えながら溶けてしまうんじゃないだろうか。とにかくそれぐらいびっくりする画質である。最近撮られたブリッジドラマ部分はちゃんと夜間撮影でもクッキリとキレイなのでこの三十年でのカメラの進化に感動させられるというあたり、ゴア映画マニアよりもカメラマニアの興味を惹く一本かもしれない。

さて各短編だが、まず『Sacrificial Birth』はランタイム五分ほどの掌編なのでああだこうだと書けるだけの内容はない。悪魔の子供を身ごもった女の腹を引き裂いてデビルベイビーが誕生するというもので、出演者はカメラを持ち悪魔の声を担当するポーリン本人の他は友達かガールフレンドであろう女性一人、撮影場所は画像が粗すぎてよくわからないが家のガレージとかだろう。家のガレージの照明を落として映画用の照明もちゃんと立てずに撮ってるのでとにかくなにが映っているのかよくわからない。見所はもちろんデビルベイビー誕生のゴアシーンのはずだがその最低画質によりナチュラルにモザイクがかかってしまっているので全然見えない。良いとか悪いとか面白いとか面白くないとか以前に画質が悪くて見えないというのはなかなか斬新である。

次の短編『The Shifters』はこれに比べれば何が映っているかわかるというだけ良く出来ていた。しかしこちらはこちらで衝撃的で、相変わらず暗所で撮影されたシーンは何が映っているかわからないも明かりをちゃんとつけた室内のシーンではさすがに何が映っているか判別できるのだが、充分に照明を入れて尚この程度の解像度なのかよ・・・!という驚きがある。解像度も悪ければとにかくこれはテープの保存状態が悪いので映像は歪みノイズは入り色は変色し、とあたかもポーリンの流儀でテープそのものにゴア・エフェクトをかけているが如し原型崩壊っぷり。お話はどうも狼男?か何かに関するものらしいがそんなことはどうでもよく、見せ場はもちろんゴア描写。しかしこちらもちゃんと明るいところで撮ってるのに赤っぽいのはわかるが何が映っているのかよくわからなかった・・・これはもうこういうアートなのかなという気もぼんやりとしてくる。

トリを飾る三本目の『Final Scream』ももちろん画質が悪かった。そのうえ夜の森を悪夢の中でさまよう男の物語とあって何が映っているのかよくわからない。しかしこれは良い。ブライアン・ポーリンはどっちがサイドでどっちがメインだかは知らないがノイズ系のメタルバンドもやってるらしく、この『Final Scream』はそうしたポーリンの音楽面での成果がつぎ込まれているのかもしれない。どこまでも続くような暗い森の中に谺する凶風の響きは恐ろしく、抑揚なく主人公の名を囁き続ける謎の声には気が滅入る、やはり何が映っているかよくわからないゴア描写も恐怖感を生じさせることに特化した凶暴なBGMが乗ることで見えないはずなのに実際以上に禍々しいものと見えてくる。台詞らしい台詞もほとんどなく物語というよりは夢を描いた詩のようなこの短編にあっては画質の悪さもかえって効果的だ。意図したことではないにしても、ダークな音楽・音響と相まって、何ひとつはっきりとは見えない朧な映像が悪夢の雰囲気を見事に醸し出しているのである。

さて頑張って三本見たらあとはご褒美映像のコーナー。狂言回し役だった悪魔というより近所の面白おじさんにどうしても見えてしまうロバート秋山似の悪魔がいよいよ本性を現し、恐怖のお話会に集いし罪深き者どもを血祭りに上げていく。初期短編からだいたい三十年。その間一心腐乱にゴアを追求してきたブライアン・ポーリンの残酷撮影手腕は当時に比べ飛躍的に向上し、更にカメラもちゃんとしたものに買い換えたことで何が映っているかクッキリわかる!・・・わからない!あまりにも肉体損壊の度合いが激しく原型なしのミンチと化す人体は途中から血の他に泡が噴き出したりスパゲッティー(?)が飛び出したりするようになるのでもうなにがどうなってるのかわかりません。ちゃんと見えるのに!いやはやブライアン・ポーリンとは恐ろしい男だ。

DVD特典はメイキングの他にNGシーンやオフショットを含む未公開シーン集、ポーリンほかの音声解説。英語は中学生レベルも厳しいくらいな俺なのでどうせわからんと諦めメイキングと音声解説は見ていないが、マニアなら当然必見必聴だろう。画質の悪さについても本人からなにか一言あるかもしれない。未公開シーン集もサラッと流しただけだが悪魔役の面白おじさん風の人はやはり面白おじさんであったことがNGシーンからわかったのは収穫。しかし収穫したところでどうするのか?まったく何の役にも立たないトリビアである(しかしそれが本来のトリビアというものだ)

ちなみにDVDのメニュー画面で本編をスタートすると本編が始まる前にポーリンの過去作の予告編が二本付いてくるのだが、その一本はどういうわけか以前日本でJVDがリリースした際に制作された『ハードスプラッシャー』の日本版予告編。少しのあいだ違う映画が始まったのかと思ってしまった。レンタルビデオ屋も街から消えて当時のJVDの予告編なんか今はなかなか見る機会がないので、ちょっとだけ嬉しいポーリンからのプレゼントであった。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com