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レビュー 発掘80s

【発掘80s】第5回 『肉欲のオーディション/切り裂かれたヒロインたち』(1983)

ここは80年代好きの後追い世代による80年代に作られた傑作、あるいは忘れ去られているかもしれないけど傑作ではないかと思う作品をピックアップ(=発掘)して稚拙な感性ながらその魅力を紹介していくコーナーです。※文章は自身のFilmarksにおけるレビューを一部加筆&修正したものになります

今回紹介するのはある映画の主役のオーディションに集められた女優達が次々と不気味な老婆マスクの何者かに襲われるカナダ産80sスラッシャーの『肉欲のオーディション/切り裂かれたヒロインたち』(1983)。主演は先日亡くなった「コレクター」「ザ・ブルード/怒りのメタファー」サマンサ・エッガー。

登場人物の多くが女優ということもあり、それを活かしたミスリードや展開が冒頭から幾つも用意されている点や一部殺人の直前には老婆マスク同様不気味な人形が雨の山道にポツンと佇んでたり(&急に腕を掴んで来る・・!)雪の中に手だけ出して埋まってるのが特徴で、中盤のスケートしながら刃物片手に迫って来る老婆マスクはスローモーションも相俟ってかなりのインパクト。

正直残酷描写は大した事無く犯人も誰が今生き残っているか考えれば想像はつきやすいのですが、老婆マスクは唐突に現れるのでちょっと驚くわ立場が上と思われた「もう一人の殺人犯」の形勢が逆転するラストはなかなか痛快で、役作りの為わざわざ精神病院に入院し自分が選ばれると思っていたらオーディションが開催されると知り会場までやってきたベテラン女優の執念深さや若い女優陣を「良いように使う」監督の醜さも忠実に描いており終盤のピンク色の照明が彩る首吊りマネキンが並ぶ小道具小屋はジャーロ的魅力が。

「便器に〇」は同時期の「スプラッター・ナイト/血塗られた女子寮」でも有ったもの。ブルーレイ収録の最新ドキュメンタリーを観ると写真のみ残っている「モーチュアリー」や「アクエリアス」的なエンディングも用意されてたとの事でこれは映像で観たかった所です。

キャストに注目すると強面のマイケル・ウィンコットがチョイ役で出演しており、オーディションに参加者の一人を演じたリン・グリフィンは元祖スラッシャーの一つ「暗闇にベルが鳴る」にも出演、最近はイーライ・ロス監督「サンクスギビング」にチョイ役で登場(ロス監督はどっちかあるいは両作品のファン?)。同じく参加者でスケート女子役のレスレ・ドナルドソンは「誕生日はもう来ない」にも出演。

個人的にはパナソニックのラジカセやカワサキのスノーモービル、世界一美しいクーペと呼ばれたBMW6シリーズにも目が行きました。ちなみに監督のジョナサン・ストライカーという人物は実在せず、リチャード・チュプカという監督が途中まで撮影したもののアート寄りの作風を取り入れようとした彼と流行りのスラッシャー風に仕上げたいプロデューサーのピーター・R・シンプソンがモメてチュプカ監督は途中降板、結局彼の代わりにピーターが監督を務めたというゴタゴタが有ったことで劇中でジョン・ヴァーノン演じたジョナサン・ストライカーという監督の役名をそのまま監督の名前として使用した・・というのが真相のようです。

チュプカ監督が手掛けたその後の作品を調べると今作のようなスラッシャーホラー的作品は殆ど見当たらず、(途中降板なものの)今作の出来を見るとそれが勿体ない印象。しかしながらスラッシャーやホラーにあまり縁がない(=拘りがない)人だったからこそ、ちょっと個性的な今作が作られた気がしないでもないです。もしかするとスラッシャー/ホラーファンにとってはいまいちの可能性もありますが、老婆マスクのビジュアルは一度観ていて損はないはずです。

画像出典:https://www.amazon.co.jp/CURTAINS/dp/B00K1L4NBU

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特に80年代90年代の洋画が好きです!未配信未DVD化の良い作品を発掘するのが趣味だったりします。