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ワンサポナタイミン・ザ・幕

【コーエン添田のワンサポナタイミン・ザ・幕】第5回『ヘイトフル・エイト』からどこまで行けるか?

西部劇の建物は高床式である。

高床式の利点は風通しがよく、涼しいことだから、西部の町にもいいだろう。

『ヘイトフル・エイト』では、それが思わぬサスペンスを招いたわけだが。

「タマにさよならしな!」

しかしあの豪雪地帯にあの造りでは、寒いよな。

『ヘイトフル・エイト』では冒頭、一面の雪景色の中、馬車が走ってくる。音楽はエンニオ・モリコーネ。とくれば……

『遊星からの物体X』である。

『物体X』では犬が走ってくる。この導入は音楽ともども大変に印象的で、そこだけ何度も見たくなる。

ところが原作小説『影が行く』には、そんな場面はない。既に物体は持ち込まれていて、それを囲んで議論している。

では、あの犬はどこから来たのか? といえば、やはり西部劇なのだ。

クリント・イーストウッドの監督そして主演『荒野のストレンジャー』が分かりやすい。

陽炎の向こうからイーストウッドとその馬が現れる。湖畔にぽつりと置き去りにされたような町。イーストウッド演じる「ストレンジャー」は幽霊なのだそうだが、この町や住人もまた、そうなのかもしれない。湖畔に縛り付けられ、西部の暮らしをし続ける罪人たち……。

『物体X』だって、最初から全員が物体なのかもしれないではないか。創元推理文庫から出ているホラーSF傑作選では『影が行く』の次にディックの『探検隊、帰る』が置かれ、そういう読みを誘っている。

『ヘイトフル・エイト』のクエンティン・タランティーノ。そして『物体X』のジョン・カーペンター。両者とも西部劇狂として知られている。セルジオ・レオーネ『ウエスタン』のコメンタリーや特典映像ではカーペンターが大いに語っている。

だから、あの犬は「ストレンジャー」なのだ。そしてコミュニティに上がり込み、暴虐の限りを尽くす。

『ヘイトフル・エイト』から『遊星からの物体X』を挟んでセルジオ・レオーネへ。ここまで来た。また、『荒野のストレンジャー』と『遊星からの物体X』が兄弟のような作品であることも分かった。

ところで今回、取り上げた中で唯一モリコーネを起用していないのが『荒野のストレンジャー』である。監督イーストウッドは、モリコーネ節と言えるあのメロディを踏襲しなかった。彼が引き継いだのは、モリコーネのもう一つの側面、楽曲としては抽象的だが音色で強い緊張感をもたらし、場を支配する、あの感じであった。

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