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映画観客鑑賞録

【映画観客鑑賞録】第11回 新橋ロマン劇場の客

前回前々回と映画館で目撃した観客の喧嘩の話が続いて、まだもう少し書き残しておきたい観客喧嘩はあるのだが、あんまり穏やかではない話ばかり書くのもどうかと思ったので一旦別の観客話をしたいと思う。成人映画館。エロを目的とするピンク映画のみを上映する成人映画館ではその性質上観客のいろんなものが外に出やすい。いわゆるハッテン場として活用されている成人映画館も多いことは成人男性ならばご存じの通りだろう。成人映画館では一般映画館ではまず見られない観客の行動が見られるというわけで、映画観客鑑賞者ならば成人映画館は文字通りの意味で穴場といえる。

・・・と書けばさぞ面白い観客遭遇体験があるのだろうと思われるかもしれないが、実はほとんどない。なにせ現代ではピンク映画は第一級の絶滅危惧種、数は少なくとも根強いファンのおかげでなんとか業界が存続している状態で、したがって成人映画館の方も遠からぬ未来に過去の遺物となることは確定していると言っていい。エロコンテンツが多様化しそれをクリックひとつで鑑賞できるこの時代、わざわざ成人映画館にまで足を運んで本番はなく作品によってはエロよりストーリーが主軸のエロ映画を見ようとする観客は絶無に近い。今のエロ映画ファンもエロ映像を求めてエロ映画を見ているというより映画マニアだからエロ映画を見ている人間が圧倒的多数ではないだろうか。

ハッテンカルチャーは今も残っているがこれも同性愛が忌避された時代の名残りのようなもの、マッチングアプリでスマホ片手にまさしくスマートに同性愛者が出会えるこの時代、あえてハッテン場を活用しての一時の出会いを求める人間というのもスマホに疎い中高年に限られると思われるし、実際成人映画館に行けばそこは中高年のパラダイス、アラサー以下の客などはほとんどいない。座席でタバコを吸うマナーの最悪な客も最近は消防設備の充実に伴い激減したんじゃないだろうか。そんな客もかつては成人映画館の迷惑な名物だったのだが。

しかし、そんな今だからこそ書き残しておかねばならない。場所は新橋ガード下の成人映画館・新橋ロマン劇場。十数年前のことだからかかっていた映画は覚えていないが、そこで客もまばらな平日の昼間、俺は最前列に座りぐいと身を乗り出してスクリーンを斜め下から覗き込む中年男のつぶやきを確かに聞いた。「これ、見えてるんじゃないの・・・?」。AV同様にエロ映画でも局部が露出することは日本の法律上ありえない。もちろんスクリーンの正面ではなく斜め下から覗き込んでも見えないものは見えない。にも関わらず、その男の目には確かに束の間「見えた」のである。これを映画の奇跡と言わずしてなんと言おうか。想像して欲しい。エロ映画よりも遙かに映像のリアリティが高いマーベル映画を見て「これ本当に空飛んでるんじゃないの・・・?」などとつぶやく客が存在するだろうか。しない。絶対にしないに違いない。だが、エロ映画と成人映画館ではそれに類することが起こったのである。

おそらくこんな奇跡がエロ映画では起こり得ることをエロ映画ファンは知っているのだろう。だから彼ら彼女らは今でもエロ映画を求め続け成人映画館に通い続ける。俺はそこまで映画を信じることができないからもう何年もエロ映画は見ていない。それでもあの台詞はいつも脳みそのどこかには刻まれている。「これ、見えてるんじゃないの・・・?」

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka