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映画の世界の片隅で

【映画の世界の片隅で】5人目 アレックス・ガーランド映画の顔となったソノヤ・ミズノ

イギリスの脚本家アレックス・ガーランドの初監督作にして高い評価を受けた出世作『エクス・マキナ』で主役格の三人、ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザックを差し置いてもっとも強烈な印象を観客に残したのは、おそらく日本人型アンドロイドのキョウコを演じたソノヤ・ミズノだろう。スラリと伸びた体躯に端正でどこか人を寄せつけないところのある人造的な顔立ち、それにキレのある動き。アンドロイド開発者のオスカー・アイザックがソノヤ・ミズノを従え、なにやら秘密めいた口調で「彼女はそれ以上のことだってできる…ダンスだ!」と言うや否やミュージック・ビデオのように二人並んで踊り出すシュールな場面は『エクス・マキナ』を忘れがたい映画にしている。

ソノヤ・ミズノは日本人の父親とイギリス人の母親を持つ東京生まれイギリス育ちの元バレエ・ダンサー。20歳頃からはモデルとしても活動を始め、後に幼い頃からの憧れだった映画の世界に役者として飛び込む。正確なデビュー作は美形AV女優の原紗央莉が出演したことで多少の話題を呼んだ『ヴィーナス・イン・エロス 天使たちの詩歌(うた)』だが、実質的なデビュー作は出演二作目の『エクス・マキナ』。意外にも日本ではほとんど話題に上らないが、以降ソノヤ・ミズノはNetflix映画『アナイアレイション -全滅領域-』、ディズニープラスの連続ドラマ『DEVS/デヴス』、現在日本公開中の『MEN 同じ顔の男たち』と、すべてのアレックス・ガーランド監督作に出演を果たし、『DEVS/デヴス』では堂々の主演。今やアレックス・ガーランド映画の顔といっても過言ではなく、シンデレラ・ストーリーと呼ぶに相応しい活躍を見せている。

だが、それはイギリス映画界でのこと。ハリウッドでのソノヤ・ミズノは出演作こそ『ハートビート』、『ラ・ラ・ランド』、『クレイジー・リッチ!』とフレッシュな話題作が並ぶが、その役柄といえば『ハートビート』が主人公のルームメイトの一人、『ラ・ラ・ランド』も同じような役、『クレイジー・リッチ!』では台詞のあるパリピその1といった感じで、言うならば映画に多様性を持たせるための画面の賑やかし。イギリスでの評価もハリウッドには浸透しなかったようで、画面の端っこの方にそういえば居た程度のいささか屈辱的に見える扱いがしばらく続いた。ここらへんハリウッドの話題とアメリカ人映画評論家の受け売りで成り立っている日本の映画評論業界や映画ファンダムがソノヤ・ミズノの活躍を掬い取れていない理由かもしれない。

それでも映画の世界の片隅で地道にキャリアを重ねることは決して無駄ではない。ソノヤ・ミズノの出演最新作はHBOの傑作連続ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』待望の続編『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』、準メインキャストとして6エピソードに出演しているのだからアメリカでもその実力が認められつつあるのだろう。2015年にデビュー、2022年には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の準メインキャストなのだから、ハリウッド映画を見ていると隅っこの人の印象しかないソノヤ・ミズノだが、その評価が確立されるまでの時間を思えば真田広之や渡辺謙などを押しのけ、現代のハリウッドでもっとも成功した日系人俳優と言えるかもしれない。これからますます活動の幅を広げると思われるソノヤ・ミズノを、今後も映画館の客席の片隅から見守っていきたい。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com