【網走シネマ矯正院】第1回『カンフースタントマン 龍虎武師』
めっちゃくちゃ忙しいですわ……時間が足りませんわ……。
道は凍りますし雪は積もりますしケツから転んだ拍子に両耳からイヤホンぶっ飛んで雪山から探す羽目になりますし……。
なんですのこれ……タスクをこなせばこなすほど積み重なって参りまして、まっことSAN値直葬でございますわよ……。
みなさまご機嫌よう。早々に愚痴をぶん投げてしまいましたけれど、わたくしという語り手の解像度が高くなりましたら何よりですわ。
年が明けた目出度さももはや遠い記憶となり、コンビニに貼られた恵方巻の写真にご自分の加齢と時の速さを感じることはございませんくて?
わたくしはこうしてまた一年があっという間に過ぎていくのかと思うと、すうっと肝の冷える恐ろしさを覚えますわ。
まあなんつうかもうそうしたしみじみとした余韻に浸るような心身の余裕は消え去りましたけれど!
仕事が! 仕事とわたくしの業がわたくしを追い込みますわ!!
さて、本日よりこうして『MOVIE TOYBOX』の末席に名を連ねることとなりました、散々院 札子(さんざんいん さつこ)と申しますわ。どうぞお見知りおきあそばせ。
生まれは北海道、育ちも北海道、アァ内地の方々がおっしゃいます、いわば国外でございますわあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アアッ寒さが! 寒冷地仕様の寒さが骨身に染みましてッ!!!!
仰々しい口調ですけれど、わたくしはお嬢様ではなくお嬢様口調で鑑賞した映画を語るただの一般人ですわ。パンピーでございまして。
わたくしが『MOVIE TOYBOX』で書く目的……それは【映画を通してわたくしの人生を見つめ直す】これに尽きますわ!
わたくし、本当にお排泄物なご縁で十年近く同じ男に金も時間も気力も貢いでいるのですけれど、もういい加減自分以外の誰かに貢ぐのが嫌になってきているんですわ〜〜〜〜!!!!!!
嫌なのに離れられない〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
離れてもまた戻ってきてしまう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
わたくしの稼いだお賃金はわたくしのために使いたい!!!
でも十年近く続いた貢ぐという習慣をやめられない!!!!!
どうしたらいいんですの〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
貯金したいですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
様々な土地へ足を運んで自分の知見を広げたいですわ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
やりたいことたくさんあるんですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
いま死んだらなんか絶対後悔しますのわかっているのです………
気がついたらわたくし、次の二十年も同じようにわたくしの全てを貢いでいそうなのがまた恐怖以外の何物でもございませんで……。
地獄!!!!!!!
これがわたくしの矮小な世界における地獄でございますわ!!!!!!
はやく解脱した〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!
あ、ちなみに結婚の可能性は全くございませんわ。わたくしからお断りですわ。
こんな……わたくしが……現状から脱却・改善・もしくは妥協するための手段のひとつとして……映画を選択いたしましたの……。
映画には様々な人間の人生や生き様が、濃くも薄くも流し込まれていると思いますの。
人間でなくとも、監督の意図した/意図せぬ主張を考えることにより、わたくしの人生の糧とならせていただく……。
これがわたくしの『MOVIE TOYBOX』における姿勢でございますわ……。
見ていらっしゃいわたくしの人生、わたくしは映画で遊びながらお前に復讐してやりますわよ……。
ちなみにわたくしのお嬢様口調は某ゲーミングお嬢様リスペクトですわ。
完結しましたのでご覧くださいまし。
ちなみにわたくしは、北海道はサイコパスの産地という偏見を持っておりますわ。
さて、今回ご紹介ならせていただくのは、エンドロールの最後に出てきた【字幕監修 谷垣健治】で非常に腑に落ちた『カンフースタントマン 龍虎武師』でございます。
タイトルから察せられるように、その顧みない過激さで鑑賞者を熱狂させた香港映画アクションを担うスタントマンに焦点を当てたドキュメンタリー……で宜しいのかしら。
サモ・ハン、ユエン・ウーピン、ドニー・イェンといった名だたるアクション俳優や武術指導・スタントマンの方のインタビューを中心に、京劇から始まった香港アクション映画およびスタントマンを取り巻く環境をまとめていらっしゃいます。
わたくし、お恥ずかしながらリーもジャッキーもあまり馴染みなく過ごしてきてしまいまして、香港アクションに関しましてはジェット・リーからやっと親しみが湧くくらいのにわかでございます。しかしながら、わかりやすく丁寧に香港映画アクション黎明期から現在に至るまでを解説していただけますので、ご存じの方はインタビュイーの方や劇中映像、裏話などで尚の事楽しめると思いますし、わたくしのようなほぼ無知識ですと作中で紹介された映画を参照したいという気持ちが強くなりましたわ。
特にパンフレットが秀逸に感じまして、香港スタントマンチームの系譜が見開きでわかりやすく記されておりますのは資料価値が高いと感じましたわね。この系譜を見ているだけでわくわくいたしますわ。武術系と京劇系で分かれており、そのどこに誰が入っているのか一目瞭然でございまして。
甄子丹班に谷垣健治・下村勇二・大内貴仁の名前が載っているのはやはりそういうものなのですね、という気持ちがいたしますし、実際にパンフレットにこの三名のインタビューがございますわ。特に下村勇二と大内貴仁両者の対話はドニー班での様子が語られていて面白うございます。下村班のスタントマンがみんな『マンハント』で借り出されていたので『BLEACH』の撮影では他のチームから応援を呼んだっていう話が個人的にツボでしたわ。
あの多国籍吹き替え映画撮影の裏側で、そうした事例がございましたのね……。
わたくし『マンハント』は池内博之のハイテンション謎踊りと、謎の虚脱を味わうために慈しんでおります。いい映画でございますわ。
日本軍による侵略から逃れるために中国本土から香港へ移住した京劇役者たちは学校を設立して子どもたちに京劇を教えたのですけれど、廃れていく京劇では食べていけなくなった生徒たちが身体能力を生かし活躍する場として映画界(スタントマン)があった、という冒頭は歴史の皮肉めいたものを感じますわ。
ブルース・リー前/後、サモ・ハンによるカンフー映画の活況とジャッキー・チェンによるアクション・コメディの盛況。
最も危険なスタントがこの頃と映画でも紹介されて、なるほどと感じる次第でございました。危険なスタントシーンの成功例と失敗例を交互に出され、更に失敗例の時の首の折れ曲がり方ですとか顔から落ちた後しばらく動かないですとか、当時の関係者のインタビューを織り交ぜながら解説されますともう笑って見ていられませんわ……。
自分でコントロールできないので爆発が怖いとスタントマンの方々は口にされておりましたけれど、ビルのそこそこの高さから回転しつつスケートリンクに落ちるスタントもわたくしは恐ろしいと感じましたわ。
ぶん投げられてテーブルをぶっ壊す際、高いところから落ちる際、地味に監督の指示でくるくる回転しているのもスタントマンの方の身体能力の高さを感じましたわね……。普段ぼけーっと見ているだけですとそこまで気が付きませんわ。
当時の関係者としてスタントマンの方が多々出ていらっしゃるのですけれど、インタビューされる空間がみなさんどれも違っていて面白かったですわね。
サモ・ハンの飾らない事務机よかったですわねえ。傍らに大量の冊子か資料が積んであったのも高ポイントですわ。
どなただったか忘れてしまったのですけれど、仕事場の背景にでけえワンダーウーマンのフィギュアやらDC系の車やら飾っていた方のはちょっと面白かったですわ。二人くらいいた気がしたのですけれど……コレクションを自慢したかったのかもしれないではと邪推してしまいましたわ。
飯屋でインタビュー受けている方もいましたし、その場所にもその個人の性格が反映されているようで楽しかったですわね。背後にトロフィーとかTHE成金風に飾りまくっている方はいかにもテカテカしていて、それはそれでよかったですわ。
ジェット・リー、ドニー・イェンまで進みましたら、香港スタントマンの現在の苦境と打開策として、チン・カーロッを中心としたスタントマン協会の取り組みで幕を閉じます。
中国本土では武術学校もあったりすることで容易にスタントマンを見つけることが可能である一方、香港ではスタントマンの地位が低く、協会で鍛錬を重ねる訓練生たちの収入も芳しくないというのは何とも世知辛いものがございます。劇中ではそうした訓練生たちを通して香港スタントマンのこれからにほんのすこしでも希望をもたせようとしていた感はございました。
年を取ってスタントマンを退いた先輩方に花を持たせようと、チン・カーロッが定期的にお茶会や慰労会みたいなことをやっているのも人間ができていると思いますわ。
さすが儒教の国、年上の先輩は敬うというやつなのでございましょうか。
先人として道を築いた先輩方を敬い、後輩の育成に励む……チン・カーロッのそれは彼も属している香港スタントマンの今後を真剣に憂いたゆえの行動ではございましょうけれど、そこには利他の精神が少なからずあるように感じますわ。
己の所属した団体に尽くす人生……一貫したその姿勢は眩しいものがございます。
いや眩しいのですけれど……崇高さも感じますけれど……わたくし現状でこれやりましたら完全に供給が終わるまで貢ぐルートまっしぐらじゃございませんくて……?
もしくはこの職責に人生を捧げイヤですわあ……。
この妙なぬるさの筆致でなんとなく察してほしいのですけれど、血湧き肉躍る殺意といったものがこの映画では感じられなかったのですの。
全編が見事なアクションの釣瓶撃ちですのに、なぜかしら。
むしろインタビュイーのみなさまの、当時を振り返ることの温かさが胸に染みる次第でしたわ。
そこには、過酷でありつつも華やかな過去への誇りがあるのでしょうね。
ってことはわたくしやっぱ貢いで終わる人生に誇りを持てば宜しいんですの?
確かにそこそこなあれをくぐってきた自負はございますけれど。
誇りを持てる別の何かをこれから探せばよいのでしょうかねえ。何を始めたらいいんでしょうね……。
インタビューに出ていた年配のスタントマンの皆さまが街を歩かれたら、完全にそのへんにいるおじいちゃんで、「この時代に老いぼれを見たら『生き残り』と思え」じゃございませんけれど、道行くじいちゃんばあちゃんがかつてのスタントマンであった、という状態が現在の香港では普通に有り得ますのがすごいですわね。
今回のドキュメンタリーとは趣旨が被っておりませんから何も触れられておりませんでしたが、香港に対する中国の締め付けは完全にスルーだったように感じます。
香港アクション映画全域に馴染みのない人間には、こちらの映画は非常に勉強になりましたわ。これを機に、ブルース・リーから鑑賞してみようと思ったくらいでして。
そうでなくとも豊富なインタビューは見ているだけで面白かったですわね。
ちなみに、わたくしが鑑賞した回では6名しかいない鑑賞者のうち、ドニーさんのインタビューが出た途端拍手をなさったお姉さまがいらっしゃいました。更にうち2名はポップコーンを美味しそうに召し上がる幼子とお連れのお姉さまでございました。
幼子のやわらかな脳に刺さるものがあれば、同じスクリーンを共有した者として嬉しさがございますわね。
あまりにも真っ当な映画だったために私も平坦な感想しか並べることができなくて、どうしようかと途方に暮れている次第でございますが、まあどうにかなりますわ!
そうやって生きてきた人生ですもの。穏当に野たれ死ねたら最高ですわね。
それではこのあたりで筆を置きましょうか。みなさまご機嫌よう。さようなら。
畜生ッ!! まっじめに仕事が終わんねえですわあ〜!!!