【たまに面白い映倫】第15報 『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ほか
〈このコーナーはたまに面白い映倫の年齢区分指定理由や文章表現などを紹介するコーナーです〉
今回はセンセーショナルな題材を扱った二本の映倫テキストを。どちらも映画ファン必見の作品です。
クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
未来社会で人類は臓器に異常な進化を遂げるようになった。パフォーマンス・アーティストのソールはパートナーのカプリースと臓器の解剖をショーとして行っていた。SF。簡潔な肉体損壊の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。(1時間47分)
https://www.eirin.jp/
ボディ・ホラーの巨匠デヴィッド・クローネンバーグが初期作『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』を下敷きにした(とタイトルから考えられる)最新作。クローネンバーグといえば今ではネットミーム化している『スキャナーズ』の頭部爆破や『ビデオドローム』の倒錯セックスなど過激な描写で知られる監督であり、この映画もその異常なあらすじからR指定は免れ得ないように思えたが、意外なことにPG12。臓器そのものの映像はそれなりにあるが、人体を解剖して臓器を取り出したり、人間の外見が臓器移植の結果大きく変形するなどのホラー的な描写はあまりない、ということかもしれない。あらすじを聞いてどんな血みどろ異形世界が繰り広げられるか期待を膨らませていたファンにとっては少し残念なお知らせか。
ちなみに元ネタの『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』はクローネンバーグが在学していた大学内のみで撮影されたと思われる自主映画であり、残酷描写やエロ描写の類いは一切ない。
福田村事件
1923年春、元教師の智一は妻の静子と共に、日本統治下の朝鮮・京城から千葉県福田村に帰郷する。そのころ、香川県の行商団一行15人が関東を目指して出発していた。ドラマ。集団虐殺の描写及び差別的台詞がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。(2時間17分)
https://www.eirin.jp/
こちらはオウム真理教の事件後を追った『A』で知られるドキュメンタリー映画の異才・森達也の初フィクション映画作品。関東大震災直後に発生したいわゆる朝鮮人虐殺を題材にした作品であり、「井戸に毒を入れられた」流言飛語が原因となった朝鮮人虐殺を「ドキュメンタリーは嘘をつく」という命題の下でドキュメンタリー制作を行う森がフィクション映画の形で監督したのだから、その多層的な構造が面白い映画かもしれない。
PG指定の理由は少し微妙なところがあり、最近の映倫は「差別用語」の使用を含む映画はそれを理由にPG指定にしているのだが、これ「差別的台詞」となにやら婉曲的。また、「殺傷描写」はよくR指定の理由として挙げられるが、こちらは「集団虐殺の描写」とあり、これも「殺傷描写」とはニュアンスが少し異なるように感じられる。おそらく直接的な残酷描写・流血描写などはなく、放送コードに触れるような差別用語も含まれていないが、題材がセンセーショナルと判断されてPGも付けないのはどうかという話になり、半ば苦し紛れに「集団虐殺の描写及び差別的台詞」という合わせ技がPG理由として考案されたのではないだろうか。実際に作品を見てみないことにはなんとも言えないところもあるが、なにか日本人の臭い物には蓋イズムを微量ながら感じる通好みの映倫テキストである。