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映画観客鑑賞録

【映画観客鑑賞録】第15回 『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』の客

以前『モスラ』を友人と見に行った時のこと、近くの席に座っていたお子様が昔の映画特有のまどろっこしい展開にしびれを切らし、同伴した母親に何度も「モスラまだ~?」と訊ねる一幕があった。映画館は映画を見るだけではなく観客を見る場所でもある、と考える俺にとってこの一幕はささやかながら楽しいもの、後に友人にそのことを話すと映画を静かに見たかったらしい友人は顔をしかめたのだったが、お子様は大人に比べて反応が直接的だから良い。テレビ東京の人気乳幼児向け番組『シナぷしゅ』の映画版を見に行ったのは映画はもちろん、そんなお子様の反応を観察するためでもあった。一歩間違えば危険人物であろう。

だが『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』のお子様観客たちの反応は予想していたものとは少々、いやかなり違っていた。端的に言えばきわめて大人しくスクリーンをガッツリ見ていたのである。「0歳から見られる映画」を惹句とする『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』である。0歳ともくればそれはもううぎゃあうぎゃあと泣きわめくものではないのか。だが泣かない。ぐずらない。まだ喋れないという事情もあるだろうが「モスラまだ~?」と苛立つこともない。かといって映画に興味がないわけではなく、むしろ逆に、もぎりでもらえるミニタンバリンをお歌のシーンになると律儀に振り、きりんさんが画面に出ると「あっ!あっ!あっ~!」と大興奮、いろんなものが転がっておもしろい効果音を出すと慣れない舌先で「どでっ!がちゃんっ!」などと効果音を復唱するほど映画に熱中していたのである。

さすが乳幼児アニメのヒット作、お子様のハートをド正面からキャッチしまくりであるが、これには『アンパンマン』の映画など最近の乳幼児向け興行において場内の照明を完全には落とさずちょっと明るくしておく、通常の上映よりも音量を下げておく、本編上映前の解説動画では通常の上映とは逆に「声や音を出しても大丈夫」とアナウンスされる、などの劇場側の配慮も奏功しているのだろう。真っ暗だとお子様は怖がってしまうかもしれない。音が大きすぎるとびっくりしてしまうかもしれない。「騒いではいけない」という意識が親にあるとお子様を満足にあやせないし、その緊張はお子様にも伝わってしまうかもしれない。ミニタンバリンを配布し自由に鳴らしてもらうことで窮屈さを緩和すると同時に映画を堪能してもらう、というのも近年の乳幼児向け興行においては定番化しつつあるが、これらの配慮によってお子様、そしてその親はとてもリラックスして映画を楽しむことができるのだ。

上映後には客席での記念撮影時間が数分ほど設けられ、通常の上映ではレレレのおじさんかという勢いで映画館スタッフに場内から追い出されるものだが、この『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』では焦ることなく自分のペースでゆったりと場内を後にすることができた。なんてやさしい世界なんだ。そしてなんと豊かな世界なのであろうか。上映前のマナー広告でアレもダメこれもダメと注意ばかりされ、少しでもマナー違反があれば短気な観客が口論をおっぱじめたりする昨今である。映画館に自分一人の没入感ばかりを求める大きいお友達のみんなには少し見習ってほしい。『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』の場内は明るいし音は小さいし『シナぷしゅ』ファンと考えられる観客のお子様たちは声を出すこともあるが、そんなことは少しも気にせずみんな映画を楽しんでいるのだ。これでは大人の方がよほど乳幼児より集中力が、そして映画を楽しむ力もないことになってしまうじゃあないか・・・!

ジーンとしながら帰りのエスカレーターに乗っていると先に劇場を出ていた推定一歳児のお子様がお母さんに心配されながらも見事に立ってエスカレーター移動をこなし、エスカレーターの終点ではつまづくことなく一人で降りたことで良く出来たね~と褒められていた。その光景を後ろから眺めておじさん一人にっこり。一歩間違わなくても危険人物であろう。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com