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【自主映画で1億稼ぐ方法】第3回 『小さな庭の大きな宇宙』人は誰でも映画になれる

 人は誰でも作家になれる。という本があった。自己啓発本の雄・中谷彰宏大先生の本である。なんと1時間で読み終わってしまうスカスk…短い言葉に熱量が詰まった本だ。そこに書かれていたことで今でも印象に残っている事がある。それは、どんな人でも自伝は書ける、ということ。そして、この世でたった一人に向けて書けば面白くなる、ということ。そんな事を思い出した映画が『小さな庭の大きな宇宙』である。人は誰でも映画の主人公になれる。

作品Facebookページより引用

 68歳という若さで亡くなったドキュメンタリー監督・森田惠子。森田監督は小さな庭で、たくさんの植物を育てていた。なんと無くなる直前まで庭に咲く植物のドキュメンタリーを撮影しており、残ったテープは本作の監督である榊祐人に託された。


 榊監督は、森田監督が生前にブログに書かれていた言葉をナレーションで使いながら、庭の植物をユーモラスにテンポよく映し出す。小さな庭も、カメラが寄ればまるで植物園のようになる。その半径5メートル以内の日常から非日常を見出していく感じが楽しかった。この愉しみは戸建に住まないと味わえないなと思った。

小さな家に、ありとあらゆる植物が育ち、さながら小宇宙と化す


 お庭の植物の話は時たま脱線して、森田監督の生涯を振り返っていく。幼少期、父が屋外上映を企画していた事で映画と出会う。マイペースだと怒られた新入社員時代、ふとしたことから映画に関わっていく30代、やがて映画にまつわるドキュメンタリーを制作していく数奇な人生。


 それら全ては、もう既に森田監督は亡くなっている事を知った上で見なければならないので切ない。人は死ぬ。いつか死ぬ。絶対死ぬ。私は常々、その事を考えるととても悲しくなる。しかし森田監督は少し捉え方が違う。庭の植物のように、生命は面々と紡がれていく。私たちはその大きな流れの中の一部なのだと、この作品は語りかける。

生前の森田惠子監督(YouTubeより引用)


 そこで思い出したのは『ペパーミント・キャンディー』という映画だった。この映画は発狂したおっさんが線路の上でとてつもない鬼の形相をしながら「あの頃に戻りたい!」と叫んで電車に轢かれるところから始まる。轢かれる刹那、人生の時計の針は逆回転し、男の失敗続きの人生が回想される。裏切ったかつての親友を撃ち殺しに行った日、自分の不倫で崩壊した家庭、警察官時代の学生への拷問、徴兵時代の誤射による殺害、素直になれなかった若き日の恋・・・。悲惨極まりない物語なのだが、なんとも言えぬ感動に包まれて終わる。その感動の正体は、「それでも、人生は美しい」というキャッチコピーにある。悲惨だけど、それでも人生は美しい。うまく言葉にできないけれど、辛いことは数え切れないけれど、全くポジティブじゃないけど、それでも人生は無条件に素晴らしい。そう思わされる映画なのだ。


 森田監督はまさか自分の生涯が映画になると思わなかっただろう。映画を愛した人の人生が映画になる。みんな、そこに何より感動したのではないだろうか。本を愛した二階堂奥歯さんの短い短い生涯がになったように。そして、森田監督の人生を考えることは、実は自分の人生を考えることにもなる。この映画は素晴らしいが、きっとどんな人の生涯も映画になるだろうし面白いんじゃないかと思う。人生は素晴らしい。映像制作が手軽になった現代、全ての人の生涯が映画になっていいんじゃないかと思う。

 とはいえ、本作が他の自主制作ドキュメンタリーと一線を画すのは、森田監督という人そのものの人柄の魅力と、榊監督の素晴らしい構成力や編集のクオリティの賜物である。非常に上手くまとまっていて、これ以上ない出来だったのではないかと思う。


 私は本作をTwitterで知った。きっかけは思い出せないが、もうすでに亡くなられた映画監督の作品、というところに何か胸が締め付けられたのは覚えている。インディペンデント映画はタイミングを逃すと見ることができなくなることが多い。思い立ったが吉日、車をトコトコ走らせて、相模原を抜けて府中を抜けて、聖蹟桜ヶ丘のキノコヤまで足を運んだ。知らない街に行くのは楽しいね。

キノコヤ前の大栗川。よくよく見ると青春の一コマが写っている。


 帰ってから感想を調べてみると、監督のツイートが出てきた。この日、お客さんから感想があったのか、賛否両論割れたらしい。


 本編の9割で森田監督が撮影した映像を用いて、森田監督のメッセージを汲み取って一つの作品にされた訳で、これはやはり森田監督の作品だと思う。もちろん一から構成したり、素材を吟味したりなど、その労力は相当なもので、出来た作品もその構成力が素晴らしかった。しかし生前森田監督が「私は自分のことを監督とは思っていない」と仰っているのに対し、クレジットで監督として榊監督の名前が入り、評判が良くないなどと仰っているのは、なんかモヤモヤしてしまう。

 その日どんな意見が出たのかは全く分からないが、そんなのは全く気にしなくていいのではないだろうか。榊監督は森田監督の意思を継いで、素晴らしい作品に仕上げたと思う。だから、毅然と構えていればいいと思う。

森田監督が亡くなる直前に残したメモ(小冊子より引用)


 少々、話が脱線してしまいました。最後に、忘れられない言葉を一つ。即興一人芝居役者の冨士山絢々氏が、伝説のドキュメンタリー映画『12月にハバナで会おう』に向けて寄せたコメント。

 「夢を持つ人は皆、ドキュメンタリー映画の主役になれる」

 

 

億万長者への道・その3
「どんな人生でも映画になる。この世でたった一人に向けて、自伝を書こう」

 

 

入り口はBarになっており、靴を脱いで2階に上がるとスクリーンがある

【興業記録】

『小さな庭の大きな宇宙』

企画・撮影:森田惠子

監督・構成・編集:榊祐人

出演:横田桂子(ナレーション)

上映日:2023年6月10日 14:00

場所:キノコヤ

料金:1,300円

来場:9人程度

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しがない映画ファンです。たまに自主映画作ったり、上映イベントをやったりしてます。