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特集

【ミニミニ特集】映画クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶ究極の8選!

映画クレヨンしんちゃんも今年で30周年、アニバーサリーイヤーということで今年の映画クレヨンしんちゃんはシリーズで初めて全編3DCGで製作された番外編なのだが、いやぁそれにしても30周年・・・早いものですなぁ月日が流れるのは!30年の間にはいろいろありました。かつてはPTA選出の子供に見せたくないアニメに見事選ばれ、かと思えば『アッパレ!戦国大合戦』ではは文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞の栄誉に輝き、キャストの高齢化に伴う声優交代があり、いつのまにかゾウさんとグリグリは見られなくなり、原作者の臼井儀人先生は登山中の滑落事故で亡くなってしまった。

それでも人生と映画クレヨンしんちゃんは続くよどこまでもということで30周年を記念して映画クレヨンしんちゃん全30作(2023年7月現在)の中からこれは究極!という作品を様々な観点から8本選出。しんちゃん的に言えば「見れば~?」ですが本心ではぜひ読んでそして映画を見てね!でございます。ではどうぞ!

ヘンダーランドの大冒険

映画クレヨンしんちゃん初期の代表作といえばやっぱこれでしょう。変だ変だよ~ヘンダ~ランド~!劇中CMのこの愉快なフレーズは子供の頃に聴いて耳にこびりついた。CMソングの脳天気さとは裏腹にしかしこの映画、結構コワいのが大きな特長である。カクカクした動きで襲ってくるみさえとひろしの操り人形、しんちゃんだけがその危険な正体に気付いているのにみさえとひろしは一向に相手にせずお客様として歓待する悪徳ゆきだるまス・ノーマン・パー・・・まぁトラウマとまでは言いませんが、見た目の不気味さもさることながら頼れる大人が頼れなくなってしまう、むしろ自分に害なす敵になってしまうという子供にとっての絶望シチュエーションは、当時のキッズ観客たちを恐れおののかせたに違いない。

そうした不安と恐怖が前半で存分に描かれているからこそ生きる後半の疾走感溢れるバトルやギャグ、そしてなんだかんだ一介の幼稚園児に過ぎないしんちゃんが示す勇気と成長。コワくて笑えてハラハラして興奮して最後はちょっと泣く、これを最後に一旦監督の座を降りることになる映画クレヨンしんちゃん最初の監督である本郷みつるによる、娯楽映画に必要かどうかは知らないがあると嬉しい要素だいたい全部乗せ豪華セットだ。

さわだ

嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ

 クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ』が「春日部に帰ってこないカスカベボーイズ」であったことは記憶に新しい。
 かすかべ防衛隊一行と野原一家が西部劇映画の中に入り込んでしまう、というのが本作のシチュエーション。一家が町に辿り着くと音楽が止み、蹄や拍車や木の床が立てる音が耳を捉える。
 この時、野原一家は典型的な西部劇の「よそ者」である。ひろしが酒場でまごついていると、男が近づいてきて、ひろしの髭でマッチを擦る。彼は『夕陽のガンマン』の、イーストウッドによって首筋でマッチを擦られていたその人だ。

 「よそ者」は、やがて町を出ていくとしても、ひとまず滞在者として受け入れられ、町は集団として機能し始める。そうしてストーリーが動いていく。
 本作を手がけた水島努は近年、『荒野のコトブキ飛行隊』というTVシリーズで改めて西部を描いている。同じく彼が手がけた『ガールズ&パンツァー』『SHIROBAKO』といったシリーズでも、大事なところで西部劇の意匠が引用される。のみならず、西部劇の物語形式が作品の深いところに根付いている。『カスカベボーイズ』は彼の最初の成果といえる。

コーエン添田

嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

2001年公開の新世紀しんちゃん映画1発目。現在2023年からすれば実に22年前の大昔の映画ということになるわけで、その時代の邦画とかアニメを見ると「時代だな~」と感じるところは多いが、『オトナ帝国』は何度観ても少しも(まぁチープなCGを除けば)古びたところを感じない。それどころか万博で国威発揚だとか平成リバイバルなどと騒がれている現状を見れば『オトナ帝国』で描かれる退行的なユートピアは現代そのものであるとさえ言え、むしろ公開時よりも今見た方がアクチュアリティを感じられるという意味で、あまりにも鋭く早々と21世紀日本の精神の行方を描き切ってしまった作品と言えるんじゃないだろうか。

その批評性の高さもさることながら世代的に懐かしくないはずなのに思わず「懐かしい・・・」と涙ぐんでしまう夕日町の造型、フォークソングの名曲が彩る魅惑的なサウンドトラック、原初的な高揚感を喚起するひたすら走り続けるアクションと、原恵一の趣味とこだわりが各所で炸裂して、エンタメ的満足感めっちゃ高い。風間くんの「懐かしいって、そんなに良いことなのかなぁ」など名言迷言多し、今でも語り草の「ひろしの回想」は何度見て号泣、東京タワーを駆け上がるしんちゃんの姿には号泣を通り越して顔面崩壊。世紀の狭間が産み落としたまさしく世紀の傑作と言い切りたい。

さわだ

オラの引っ越し物語 ~サボテン大襲撃~

ジム・ジャームッシュとクレしん映画は似たことをやっている。 と言うと、え!?ジャームッシュ監督がケツだけ星人を!?と思う方もいるかもしれないがそうではない。両者共通しているのはジャンルの換骨奪胎を盛んに行っているということだ。

ジャームッシュ監督は殺し屋、西部劇、ゾンビ・・・などさまざまなジャンル映画を自分流に解釈しお決まりのオフビートさで再構築してきた監督である。それはクレしん映画でもそうだ。西部劇、時代劇、SFアクション・・・とジャンルを横断しそれを自らのフォーマットに落とし込んできた。それらのジャンルがどう面白いのか?を分析し、それを子供が見れる形に落とし込む・・・冗談抜きで日本人の映画受容にかなり大きな影響を与えていると思う。

ようやく本題だが僕が今回取り上げるのはパニック映画をクレしん流に取り込んだ、人喰いサボテンの恐怖を描いたオラの引越し物語 サボテン大襲撃である。話としてはヒロシがメキシコ行きの辞令を言い渡され引っ越すがそこには人喰いサボテンがいた!という話だ。序盤のカスカベ防衛隊たちとの別れは普通に良い話だがここで感動ポイントを稼げばあとはパニック!パニック!

パニックホラーとしてとにかく丁寧にセオリー通りな序盤はホラーマニアから見ても手抜きを感じさせないうまさ。一人、また一人と消えていき一気に人喰いサボテンどもが動き出す部分は緩急が素晴らしくガキどもはトラウマ必至!敵の弱点を探っていく展開や、利権を求める市長との対立などはまさに定番!敵のサボテンが無機質でちゃんと怖い!群像ドラマもうまい!伏線回収するラストは熱い!と「子供向けのモンスターパニック映画」というあまり見ない文字列な映画をしっかりこなす名作だ。

ハカタ

ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者

ファンタジーアクションのようなタイトルと導入部からはなかなか実際の内容が想像しにくい異色作。今回のテーマは夢なのだが、同じテーマを据えた後年の『爆睡!ユメミーワールド大進撃』と比べるとその差は歴然、あくまでもエンタメの範疇で夢を描いた『ユメミーワールド』に対してこちら『金矛の勇者』は夢のありのままを描いてアート映画の世界に片足を突っ込んでしまった。とにかくシュール。わけがわからない。実際の夢がそうであるようにこの映画も起伏や脈絡がなく、わかりやすいギャグシーンやアクションシーンもないため掴み所がない。

そのため賛否両論というか基本的には否寄りの意見の方がやはり多いのだが、ダリやエッシャー、デ・キリコやマグリットといったシュルレアリスム作家のパロディとみられる美術や(いつものことではあるがいつにも増して)奇抜な造型の敵キャラクター、突然始まるナンセンスな歌と踊りなどアート的な見所は多く、しんちゃん映画というよりもブニュエルやグリーナウェイ、デヴィッド・リンチの映画からエロスとバイオレンスを抜いてギャグを増量したアニメ版として見れば数段面白くなるんじゃないだろうか。設定デザインで参加したのは湯浅政明ということで湯浅アニメのテイストも強く、その夢幻的な世界を監督・本郷みつるの疾走感あふれるアニメーションで駆け抜ける終盤はなかなか脳がシビれます。

さわだ

アクション仮面VSハイグレ魔王

「究極の」と問われれば、第一作映画作品ハイグレ魔王は外せられないだろう。 家族愛というより、フィクションとSFと、ほんのちょっとだけ大人になるしんのすけのひと夏の冒険といった印象を強く受ける。 当時は光線を当てられて次々とハイグレ姿になる春日部市民に対し、おかしな格好をさせられて可笑しい以上の感情を抱かなかったが、社会人になってから見ると結構な屈辱とも、雁字搦めにされた社会からの解放とも感じられ、趣深い。今となっては「ハイグレ」という言葉自体遠い昔のものとなってしまった。

作品内作品「アクション仮面」が実在するパラレルワールドでアクション仮面を助けるために選ばれた少年という、『ラスト・アクション・ヒーロー』を思わせる浪漫があり、古ぼけた駄菓子屋で金色のカードを手に入れる導入から子供の頃に持ちがちな選民意識をくすぐられる。海水浴にでかけた野原一家が渋滞でうだる夏の道路を飛び出して、誰も走らない道を一直線にひた走る。着いた先に奇妙な浮遊感の漂うテレポーテーション施設があったという、日常からの逸脱の描写が非常に気に入っている。車が家へ戻る際の夕暮れの描写も、どこか現実離れした様で、映画でしか見られないクレしんを見ているという強い好奇心を抱かせた。

ハイグレ魔王にたまたまωがついているのも非常に好ましい。この外しがクレヨンしんちゃんだと感じてしまう世代ではある。男らしい男(特に変身後)の体現者であるアクション仮面の敵が、異性装というのが面白いが、しかしこれがクレヨンしんちゃんなのだと考える。ハイグレ魔王、野沢那智なんだよなあ豪華だ。 倒すのではなく和解、というシリーズでよく見られる結末の方向性はこの作で定まったのではないだろうか。

散々院 札子

ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん

 近年の重要作。シリーズ中、高橋渉が初めて監督を努めた。彼は本作以降、ほぼ二年に一度しんちゃん映画を手掛けており、いずれも高い水準の、面白い映画になっている。この人はいずれ、しんちゃん映画に留まらない作家になっていくのではないか。
 公開当時、しんのすけとロボになったひろしが向かい合うヴィジュアルが話題になったのを覚えている人もいるかもしれない。あの画は「もしかして名作なのではないか」という期待を抱かせる。その期待に応える映画となっている。

 ひろしがロボになる、というシチュエーションから膨大なネタが引き出され、それらが適切な間で配置され、笑いとして十二分に機能している。しんちゃん映画は第一にコメディでなければならない。その上で90分超のドラマを進め、成り立たせている。
 物語が進むに従って、アイデンティティの揺らぎというモチーフが全面に出てくる。その葛藤が例えばレトロゲームのような演出で表現され、見る側は少し面食らうことになるが、それも後になってしっかりと活きてくる。見事だ。

 本作を見ていて思い出したのが、ピンク・フロイド『ザ・ウォール』のコンサートや映画で使われた、二本の斧を交差させたシンボルマーク。今はあれが「父」という字に見える。

コーエン添田

嵐を呼ぶジャングル

しんちゃん映画黄金期を支えた監督の原恵一は日本アニメ映画史上の傑作『オトナ帝国の逆襲』の製作に入るに当たり、ネタが尽きてしまって大いに悩んだという。もうしんちゃん映画でやりたいことはすべてやってしまった。その苦悩が『オトナ帝国』および『戦国大合戦』を生んだとしても、この二作はしんちゃん映画のフォーマットから大胆に逸脱した作品であり、いつものしんちゃん映画の楽しさには少し欠けたところがある。

『オトナ帝国』の前作にあたるこの『嵐を呼ぶジャングル』はそうした意味で原恵一のしんちゃん映画集大成といえ、アクションもおバカギャグもかすかべ防衛隊の掛け合いもシロの活躍もオタク的パロディネタも変な悪役も大満載、絶海の孤島という狭い舞台の中にしんちゃん映画の楽しさが所狭しと詰まっている。しかも泣けるんだこれが。70年代に骨を埋めた時代錯誤なアフロ男・パラダイスキングとアクション仮面の戦いはシリーズでも屈指の名勝負、子供たちとかつて子供だった大人たちが一丸となってアクション仮面に声援を送るシーンの感動は『オトナ帝国』とも瞬間的に肩を並べる(当社比)。ヒーローとは何か、フィクションとは何か、そしてしんちゃん映画とは何か。その答えが知りたければこの映画である。

さわだ

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