【こないだビデマでこれ買った】Vol.16 『SCARECROWS OF THE THRD REICH』を買った
カカシが人間を襲うホラー映画には案外佳作が多い。代表格はやはり『ヘル・ゴースト 地獄のスケアクロウ』だろうか。カカシと言われてわれわれ日本ピープルが一般的に想像するのはへもへももへじのあれであろうからカカシでホラー?という気がしてしまうが、西洋カカシは日本カカシのように記号的にデフォルメされていないリアル志向の造形物、したがって日本カカシに比べて広大な畑の中なんかで遭遇すると結構不気味だったりするのである。と一応書いてはみたものの田んぼに触れる機会の少ない現代日本人ならそれぐらい周知の事実というか、むしろ西洋カカシの方に馴染みがあるかもしれない(どっちだよ)
というわけでジャンルを築くまでには至らないものの西洋ではカカシ・ホラー映画が細々と作られ続けており、2018年製作のこちらSCARECROWS OF THE THRD REICHはその最新作かどうかは知らないが近年のカカシ・ホラーとしては結構話題を集めた作品、前にツイッターで海外の新作ホラー情報にめざとい系のアカウントが紹介しているのを見た記憶がある。しかしそれは記憶が正しければリリース前のこと。そういえばあの映画の評判全然聞かなかったな、と今回ビデマのセール棚で発見して思い出したので、サルベージしてみることにした。
SCARECROWS OF THE THRD REICHすなわち『第三帝国のカカシ』であるからナチスと殺人カカシが出てくることはまず間違いないだろうとは予想していたがタイトルが出てすぐに話がナチスの残党の人狼の方に移ってしまうことは予想していなかった。なぜ人狼か?といえば、末期ナチスにはヴェアヴォルフ(=ウェアウルフ、人狼)と呼ばれるゲリラ部隊が存在していたからだった。当然これはコードネームであってヴェアヴォルフ部隊のナチ兵士たちが実際に人狼だったわけではない。そんなことを書く必要があるのかどうかわからないが何もかも信じられない現代社会なので事実は事実として丁寧に書くことにした。さておき、ヴェアヴォルフ部隊なる超カッコいいなまえがあればホラー映画の制作者がそれを文字通りの人狼による部隊として解釈するのもまた当然だろう。つまりこの映画にはナチス(当然SS)とナチスのカカシ部隊とナチスの人狼部隊の生き残りが登場するのである。わぁ、『三大怪獣 地球最大の決戦』みたいな豪華さですね!
しかし真の驚きはその後にあった。一向に定まらない構図、何をやっているのかよくわからないアクションシーン、テンポという概念がないランダム生成的な編集、フリー素材のスコアを抑揚なく垂れ流すだけの音楽、統一されていない音声トラックのボリューム、登場人物が何か台詞を言って演技をしているのに淡々としたナレーションを上に被せて状況説明をする無神経、等々の底辺映画あるあるには今更驚かないが、シネスコっぽいがよく見るとシネスコよりも少し狭い気がしていたスクリーンサイズ(上下だけではなく左右にもマスクがある)が途中でちょっとだけ変わり、直後に上下のマスク位置がズレて画面右端に元々は16:9で撮られたこの映画のマスクの下の映像が映り込んでしまうのだ。それも一瞬だけじゃなくて以降1時間ぐらいずっと。
前に別の底辺映画を見たときにもマスクに隙間が空く(何を言っているかわからない人も多いでしょうが・・・)現象に遭遇したのでははぁこれはカメラのモードでスクリーンサイズをいじっているのではなく物理マスクを使っているな?と邪推したものだが、こちらSCARECROWS OF THE THRD REICHはエンドロール(底辺映画でお馴染みの一人一人顔と名前をスローで紹介していくやつ)でマスクが外れ画面が16:9になるという演出があったので、上に挙げた底辺映画はどうかわからないがこの映画に関してはどうやら物理マスクではなく編集時のマスキングのミスで画面右端のマスクが外れてしまっているようだ。
そんなことあるの?そもそも映画撮影の場合は先にも書いたが基本的に撮影段階というかコンテ段階でスクリーンサイズを決めるものであるから編集ソフトの側でマスクを付けるということはあまりしないと思われるが、編集ソフト側でマスクを付けた場合でもそれは要は一括トリミングなわけだからシーンによってマスクがちゃんとついてたりズレたりするみたいな現象というのがどうもよくわからない。一体どんな操作をしてそんなことになったのだろうか。まずそれが単純に疑問であるし、明らかにマスクが外れているので編集作業中でもその後でもいいがなんぼなんでもDVDを焼く前には監督なり試写要員の友達なり誰かが気付くだろと思うのだが、なぜそうした幾重ものチェックをすり抜けてこの状態のマスターが無事円盤に焼かれ極東の島国にまで届いてしまったのか、これはもう迷宮入りの謎である。
何度か巻き戻してマスクの外れた瞬間を確認してしまったほど俺にとっては前代未聞の事態だったためストーリー等々の解説などほっぽり出してついそのことばかり長々書いてしまったが、まぁそんなミスが発生するぐらいの底辺映画ということさえわかってもらえれば内容の詳述は不要だろう。カカシはゾンビタイプかと思ったらパワーに物を言わせるプロレスラータイプ、人狼は人狼タイプかと思ったらパワーに物を言わせるプロレスラータイプ、SSはパワーに物プロレスラータイプ。他に必要な情報はそれぐらいだろうか。カカシプロレスラーに指示を出していたプロレスラーのSSが勢い余って自分も殺され役に噛みつきに行ったのはちょっと笑ったな。
それにしても不思議な映画だ。こんなに底辺なのに一般流通してる。IMDbでユーザー評価平均3.7も獲得してる。多くはないが一応ゴア描写もあるし役者もプロレスラーが結構出てくるし小道具とか衣装もしっかり用意してる。その資金力と人脈と意気込みはあるのにどうしてマスクが外れてしまうぐらい撮影と編集周りの技術面が壊滅的なのだろう。そしてどうしてまぁまぁ面白いのだろう。度を超した底辺映画はときに完成されたミステリーよりもスリリングで知的好奇心を刺激する。ミステリーに満ちた映画という意味では『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』なんか全然超えていたんじゃないだろうか。常に全てがヘボすぎるので画面から目を離せないという意味でも、ポアロが勝手に事件を解決してくれることはわかりきっているので最初と最後だけ見ればいいやという気分にさせられる『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』とは対照的だ。
SCARECROWS OF THE THRD REICHは最近流行りのわざとヘボく撮ったいけすかねぇサメ映画とかと違って本当に映画の技術がない人が真剣に撮ったカスなので、なんでここまでヘボくなるんだという驚きが最初から最後まで絶えることがない。そのうえ登場人物が全員プロレスラーなので10分に一回ぐらいはプロレスが始まるのだから、これはもう全編が見所といっても過言ではない。『第三帝国のカカシ』、これは、カカシ映画ではなくカ・・・カス映画!を見たいときにぜひともオススメしたい一本である。そんなタイミング、人生にない。