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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.31 『Flesh City』を買った

ビデマさんの入り口前にはコンテナが置いてあってそこはガレージセール的なジャンクソフト売り場になっている。ジャンクといっても『ジャンク 死と惨劇』ではない。よくほらブックオフでも同じようなのがあるがディスクに傷が入ってるとか需要があまりにもなさすぎるとかで100円ぐらいしか値段がつけられない中古ソフトが投げ売られているあれだ。あれがビデマさんにもあってこないだ物色していたら最安で10円のソフトが見つかったのでちょっと笑ってしまった。もはやタダ同然なので買えば良かったが買わなかったのでやはり10円のソフトだけあるなと思う。

んで、そんなビデマさんのジャンク置き場で300円だったのがこのFlesh CityのDVD、どんな映画かは知らんがジャケットには顔がガイコツみたいになってて背中から触手っぽいのが生えた全裸の人型クリーチャーが描かれていたからなんかそういうタイプのホラーだろうと踏んで購入、どうせ300円だしカス映画でも損をした気にはまったくならないだろう。普段はユーロトラッシュとかの謎に高画質版のソフトを何千円とか払って買ったりしているわけだし・・・。

300円のDVDだけあってディスクを見るとなるほどそこそこ目立つ大きめの傷が入っている。でもパソコンに入れると再生には問題なし、さっそく東ドイツ時代の遺産かもしれない(※ドイツ映画)奇妙な形状の団地群を切り取ったビデオ撮りの安い映像が始まった・・・が!なんかおもてたんと全然ちがう。ジャケ絵およびジャケ裏のあらすじからすればよくあるクリーチャーホラーと思えたが、これはなんだろうか、まずホラーではないと思うのだが、かといって何かと言われると答えに窮す。あえて言えばSFかもしれないが、そんなジャンル分けなど意味を成さないような、そうだねこれはアート、300円の投げ売り品だったのにアート映画でしたよ!

旧東ベルリンと思しき荒廃した街で一組の男女が謎の発光体科学者に何かを埋め込まれて徐々に変形していく・・・というストーリーは一応あるものの、これは取って付けたようなもので、作り手が見せたかったのはそんなありふれたストーリーではなく数々のアーティスティックなビジョンだろう。まず、話の腰を折るように何度も『マックス・ヘッドルーム』みたいな絵面の新曲紹介テレビ番組が差し挟まれ、突然ミュージックビデオが始まってしまう。これがかなり本格的な作りでオシャレ。その楽曲名はHappy Happy HolocaustとかNuclear Fanboyとか危険きわまりないものだが、とくにエイフェックス・ツイン風のテクノ曲Nuclear Fanboyはビデオも音楽もカッコイイので思わず見終わってからネット検索してしまった。が、まったくヒットしないのでこれはどうやら映画のために作られたフェイク曲とフェイクビデオ。フェイクでこの完成度!YouTubeとかに動画があればぜひとも載せたいところだが無いのでちょっと悔しい。

フェイクのミュージックビデオでこの完成度なのでと書いたところで実物をお見せできないので伝わらないかもしれないが、この映画、インディーズとしては相当に映像レベルは高く、お金がかかっていないのは一目瞭然なのだが、そのことによるチープ感はほとんどない。それはストレートに映像センスが優れているためでもあるが、多彩なデジタルエフェクトと編集テクニックの自由自在な使用によるところも大きいと見える。たとえばマスクの変形はその代表例にしてこの映画の大きな特徴。マスクというのは画面の上下に出る黒い帯のあれだが、もともとビデオカメラで一般的な16:9のアスペクト比で撮影されているこの映画は、シーンごとに編集で追加されたマスクの形が変わって画面がシネスコになったりスタンダードになったりする。それだけではなくこのマスクは台形になったり建物の外観に合わせて切り抜かれたりさえするのだ。まるでグザヴィエ・ドランみたいな実験性!

カラーもまたシーンごとにモノクロになったりカラーになったりとコロコロ変わる。初期のCGを模したチープCGがあえて合成される。『空飛ぶモンティ・パイソン』でテリー・ギリアムがやってたみたいな切り貼りアニメも入ってくる。コマ落としによる疑似的なストップモーションで疾走感を演出。合間合間に差し挟まれる鋭角の線が印象的な団地のフィックス画は廃墟写真集でも見ているかのようだ。謎の触手によって浸食され変形する街を俯瞰で捉えた悪夢的な映像はA24の尖ったホラー映画のワンシーンですと言われても違和感のない出来映え。地下の配管の上を這う電気クワガワのイメージは独創的。昔ながらの業界用語でいうところのパカパカ、画面が高速で明滅する効果もとくにラストで過激に使用と、とにかく使える限りのエフェクトや映像アイデアを使って観客を異世界にトリップさせる。見てたら頭が痛くなってきたのでここは目を背けてしまったが。

その実験精神や人体の変形のテーマから『電柱小僧の冒険』や『鉄男』といった初期の塚本晋也映画から強い影響を受けているのはおそらく間違いない。他にもミュージックビデオの危なさからはギャスパー・ノエの影響が見て取れるし、主にネットで発表されているデヴィッド・リンチの実験的な短編の影響も感じさせる。こういう小癪な趣味を持つインディーズの映画監督はだいたい人真似をしているだけなのに俺カッコイイとか悦に入ってるのが見え見えなしょうもない映画を撮りがちだが、Flesh Cityの監督は随所にこれこれを忍ばせつつも陰謀論や都市伝説、悪魔崇拝やクラブカルチャー等々を交えてオリジナルな世界を作り上げているし、なにより映像センスがやはり他のこれ系監督とは何段階も違う。そのうえこの人にはコンポーザーとしての顔もあるらしく、劇中のフェイク曲は自作(共作)っぽいので、これはもう渋谷のイメージフォーラムとかでレイトショー上映されててもおかしくないぐらいアーティーでセンスの塊のような映画である。

西ベルリンのアングラカルチャー、映画でいえばウィリアム・バロウズやジェネシス・P・オリッジが出演したムシャの『デコーダー』やウンリケ・オッティンガーの酩酊世界の正統な後継者の風格も漂うFlesh City、いやもう300円で買ったソフトからこんなのが出てきて驚いたのなんの!

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Blueskyアカウント:@niwaka-movie.com