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こないだビデマでこれ買った

【こないだビデマでこれ買った】Vol.21 『RETRO CHRISTMAS CLASSICS』を買った

考えてみれば数年前に初めてビデオマーケットを訪れたのは例年ブログで書いているクリスマスホラー映画特集に載せる映画を探している時だった。ビデマとクリスマス。一見ずいぶん離れているように思われるかもしれませんが、今年のビデマトピックのひとつは店内にでかい本格派くるみ割り人形が置かれたことであり、POPなどはないもののホラーコーナーの最上段は『悪魔のサンタクロース』シリーズや『クリスマスまで開けないで』などのソフトがまとめて置かれたクリスマスホラーミニコーナーに結構前からなっているなど、意外やビデマはクリスマスの好きなお店、先日行った時には店内BGMもしっかりクリスマス仕様になっていた。

そんなビデマのお馴染みSOMETHING WEIRD ViDEOコーナーに面陳されていたのがこのRETRO CHRISTMAS CLASSICS、1940~1960年代のクラシカルなクリスマス短編映画や予告編、コマーシャルなどを集めに集めて16本というあまりにもメリーなソフトだった。DVD-Rなのに(あるいはDVD-Rだから)価格は3000円ほど。おそらく収録作品の多くは動画サイトなんかで見られるんじゃないかと思えば決して安いものではないが、クリスマスはやはり寛容の季節。ここはそんな吝嗇根性など『クリスマス・キャロル』のスクルージさんのように投げ捨てて買ってみた。

さっそくPCにソフトを入れて再生するとこんなメニュー画面が表示されたのでご覧いただきたい。

RetroChristmasClassicsのDVDレコーダープリセットメニュー画面

おいこれ家庭用のDVDレコーダーでオーサリングしてるだろ!

もちろんDVD-Rということはわかって買っているので品質面でなにかを期待していたわけではないのだが、まさかこんな懐かしいメニュー画面がいきなり出てくるとは思わなかった。ジャケ裏を見ると発売2007年、その頃の自分を振り返ればスカパーのホラーTVチャンネルで放映される日本未ソフト化ホラーをひたすらVHSとDVD-RWに録画しまくっていたので、こんな画面は見覚えがある。デジタル文字数字のカクつき具合が実に時代を感じさせるなぁ・・・というか当時の水準でもこのカクつき方はちょっと古いだろ。いつ買った機種で焼いたんだこのDVD-Rは。

いや、そういう問題ではない。同人ソフト的なものとはいえ売り物なのにおそらくは編集ソフトを使わずレコーダーでオーサリングしているっぽいし、チャプター分けすらされていない、それ以前にデータ日付もプリセットなので本当にただそのまま焼いただけというこのストロング仕様。ハンパないアングラ感だ。内容はすべて子供向けのクリスマス映像なのに人が大量に残酷な死に方をするモラルなきゴア映画のソフトなどよりも圧倒的に「例のブツ」感がある。これはなんというか色んな意味で大丈夫なソフトなのだろうか。まだ始まってもいないのにドキドキさせるあたり、さすがSOMETHING WEIRD ViDEOのソフトは格が違う。

チャプターがないので何が収録されているのかもよくわからないままとりあえず本編をスタートさせてみる。余談になるがチャプターのないDVDといえばDVD黎明期のパブリックドメイン系ソフトなどを除けば日本が誇るカルト監督・小栗康平の『埋もれ木』のソフトがそうだった。これは映画はたとえ家庭内鑑賞といえども最初から最後までちゃんと見て欲しいという小栗康平の要望によるもの、とすればRETRO CHRISTMAS CLASSICSのチャプターなし仕様にもまた児童向けクリスマス映像数珠つなぎを2時間ぶっ通しで見て欲しいという製作者の意図が込められているのかもしれない。閑話休題。何が収録されているのかわからないと言いつつ、実は収録作は全部ジャケ裏に書いてある。仕様はストロング&オブスキュアながらそのへんに関しては親切なSOMETHING WEIRD ViDEO。全部書き写すのは大変なのでこちらも画像を載せてしまおう。

RetroChristmasClassicsの収録内容

一覧にしてもらったところで少しも内容が想像できない得体のしれないにも程がある作品チョイスだが、そんな中で目を引くのはアニメのRudolph the Red Nosed Reindeer、『赤鼻のトナカイ』で、これはアメリカ最初期のアニメーション監督であるかのマックス・フライシャー1948年の作。見てみるとこれが可愛いのなんの。この頃すでにフライシャー兄弟の最盛期は過ぎていたのでディズニーアニメなどと比べて作劇的にも技術的にも古さが感じられ、決して優れた作品とは言えないかもしれないが、今となればこの素朴さもむしろ作品を味わい深くするスパイスだろう。それに続くThe Snow Queenというのはアンデルセン童話『雪の女王』をベースにしたレフ・アタマーノフによるソ連の傑作アニメ映画で、このソフトに収録されている予告編はそのアメリカ公開時のもののようだ。フライシャー兄弟とアタマーノフはいずれも20世紀のアニメ映画界の巨匠であり、見事な動物描写で知られるほか、宮崎駿に大きな影響を与えたという共通点もある。今では忘れられた監督といってもおそらく過言にはならないだろうこの二人の作品を(片方は予告編だが)繋げるあたり、何の脈絡もなくひたすらネタを詰め込んでいるようで案外考えられた構成になっており、思わず唸る。

それにしてもこの2時間のあいだにいったい何匹のトナカイと何人のベッドで寝る子供と何足の靴下を見ただろうか。チャプターがあっても別に飛ばしはしないがチャプターがないので飛ばしたくても飛ばせないこのソフト、とにかく休む暇なくひたすらサンタ、トナカイ、オモチャ、子供、クリスマスツリー、動物を見せられ、クリスマスソングを聴かされ続ける。こう、一種のルドヴィゴ療法というか。見ているうちにだんだん幸せな気分になってきて、子供向けクリスマス映像のコンピレーションなのだからその反応は悪いものでもないはずなのだが、なんか純粋に映像を楽しんでの幸福感ではないだろうこれは。ギャスパー・ノエの映画などはよく見るドラッグみたいな形容をされたりするが、このソフトこそ見るドラッグ、見るハッパと言えるのではないだろうか。片っ端から動くオモチャたちやどいつもこいつも人語を話す動物たちや延々繰り返されるサンタの笑い声を聞きながら北極に行っては帰り行っては帰り行っては帰りの終わらないクリスマスを見ていれば日常生活で溜まりに溜まったストレスも雪のように溶けていく、思考も北極の彼方へ飛んでいく、ホーホーホー、ホーホーホー、ははは・・・たぁのしいナァ・・・ふふふ・・・みんななかよし・・・クリスマス・・・クリスマス・・・メリーメリークリスマス・・・還って来い!

なかなかに恐ろしいコンピレーションだが、この異様なグロテスクさは単にクリスマスものだけを2時間ぶっ続けて見ているから感じられているものでもないのかもしれない。というのも、考えてみれば当たり前なのだが、この2時間に収められた夢の世界はすべて大人が子供に向けて作ったものであって、決して子供の願望がそのまま反映されたものではないからだ。自分の子供の頃を振り返るとクリスマスで気分がアガったという記憶がほとんどない。雪が降れば嬉しくなったがクリスマスという日については単にオモチャかゲームを買ってもらえる日というだけの認識だった。もちろんサンタを信じたことなど一度もない。思うに、クリスマスで盛り上がっているのは子供ではなく大人なんじゃないだろうか。そして大人たちは、クリスマスを通して幸福な子供時代という幻想に浸り、過酷な大人社会を一時的に忘れようとしているんじゃないだろうか。クリスマスの祝祭に込められているのは子供の願望ではなく、本当は大人の幼児退行願望なんじゃないだろうか?だとすればクリスマスとは一見純粋なようでいて相当歪んだイベントであり、このソフトに詰まっているのも子供たちの夢ではなく大人たちの狂気と言えるだろう。

そうかどうかは神のみぞ知る、いやサンタのみぞ知るだが、暴力的なまでの幸福感の押し売りで視聴者の脳を麻痺らせながらもクリスマスの裏の顔を垣間見せる、そんなRETRO CHRISTMAS CLASSICS、これはそこいらのクリスマスホラーなんかよりもよっぽど怖くてヤバい、そしてヤバいからこそ幸せなブツだった。

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ゆるふわ映画感想ブログ映画にわか管理人。好きな恐竜はジュラシックパークでデブを殺した毒のやつ。Twitter→@eiganiwaka