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網走シネマ矯正院

【網走シネマ矯正院】第5回『首』

『威風堂々』に乗せて、たけしの本音が炸裂するッ! ネタバレ仕様の最終予告編ッ!

『歴女』──それは黒歴史の香り

一時期流行った『歴女』という言葉を覚えているだろうか。
当時、戦国武将や刀剣、日本史を好む女性が増えたことから生じた造語だ。これはPS2ソフト(レトロゲーではない)『戦国BASARA』(発売は2005年らしい……えっそんな前だった?)のヒットを発端に、イケメン化されたキャッチーな戦国武将キャラクターから元となった武将を知ろうと、ゆかりの城郭や古跡といった聖地巡礼がファンの女性たちにより行われた結果生み出されたと言われている。
釣り、プラモデル、昆虫食……「女性らしくない趣味」を堂々と掲げる女性は増え、今や戦国武将を趣味として掲げても、偏見の目に晒されなくなってきた。
悲しいかな、ちょうど当方も流行った時期に戦国武将ゲームに手を出してしまったため、熱を入れていた1~2年間ほどは推していた武将キャラクターの歴史本を買う程度のぬる『歴女』であったといえる。
ただし、世間がBASARAに浮かれていた中、天邪鬼の私はあえて『戦国無双』にドハマりした。
そもそも武将キャラゲーに手を出したきっかけは近所のおねいさんがやらせてくれたからだ。今はもうご結婚されてご家族そろって道外へ移住されてしまったが、おねいさんが私に『戦国無双』をプレイさせなければ大分性癖が歪まなかっただろうと思っている。

『戦国無双』は『三國無双』の派生作品であるためか、槍使いである趙雲を主人公としたように、同じ槍使いである真田幸村が主人公として描かれている。しかし、ストーリーモードでは各キャラクターの生涯に沿って主な戦場を駆けていくこととなるため、群像劇と考えてもらっていい。
私がドハマりしたのは関ケ原の合戦で西軍の大将を張った某武将と、彼が召し抱えた某家臣との捏造愛憎劇であった。某武将がマァ性癖に刺さる美形にアレンジされており、しかも武器が鉄扇とスケベ心をくすぐるものとなっていた。誰よりも主君を思う気持ちが強いが、真面目で融通の利かないツンツンさが周囲との軋轢を生み、そうした殿の良き理解者である家臣が何かと知恵を働かせてフォローに回る。
非常にスケベな関係でよかったんですよこれが。カプコンと異なり、コーエーがキャラクター商売をしなかったこともあり、私は非常に飢えていた。
当時、パソコンという悪しき知恵の実で二次創作個人サイトというものを知っていた私が、暇な時間ほぼ全てを某家臣×某武将もしくは某武将受け小説を読むことに費やしたのは、ごく自然な結果だった。

大戦で負けた総大将ということで、打ち首晒しの悲劇に遭ってしまう某武将。それゆえか、敵軍の武将たちの手により秘密裏に匿われ、性の慰めものにされる設定は多かった。戦国ゲームジャンルものはその性質上ゆえか、危害を加えたり監禁したりするものが多かった印象がある。私が積極的に成人向けを読み漁っていたために、偏りが生じた可能性は大いにあるが。

私が心の師と仰いでいる方の裏ページにあった傑作は、某家臣が戦に負けた某武将を拉致し、地下に作った絢爛たる小部屋に四肢をもいで、阿片を嗅がせながら快楽に悶える主君を肴に酒を呑むという、非常にシコいものであった。この方のせいで私の達磨癖がついたに違いない。

というわけで、戦国武将=性的コンテンツという間違った図式が当方には刻まれていた訳である。

成人指定の『おっさんずラブ』

北野武監督作であるから、皆殺し映画であることはなんとなくわかっていた。
初日に行けず、また趣味の同人誌の原稿にかかりきりでなんとなく足が遠のいていた中、見ていない友人や妹から、「『首』には男色があるらしい」「『首』はエロいらしい」などと都市伝説のように語られるのを聞き、どんなもんかとようやく重い腰を上げた。
年始であり、できたばかりの都市部の劇場であり、たけし映画とあってシアターには年配のご夫婦がちらほら見られた。果たして彼らは楽しく見ることができたのだろうか。

奇しくも本年1月5日からドタバタ一般向けBLドラマ『おっさんずラブ』の新作がスタートするが、本作はこれの成人向けだと私は考える。『きのう何食べた』の成人向けではない。
非常にご褒美でした。鑑賞中も鑑賞後も圧倒的感謝に満ちております。

冒頭の裂けた生首からよちよち出てくる蟹の時点でテンションは上がらざるを得ない。
この令和の時代に草臥れた遠藤憲一のあざとかわいい受けを見る羽目になるとは、誰が予測できたであろう。
しかも相手は『きのう何食べた』でも年齢の割に顔が整っていてきもちわるいと周囲から評判の筧史朗を演じた西島秀俊。真面目堅物系武人明智光秀がよく似合っていた。
西島秀俊が利休の下に捕らえられた遠藤憲一を憎き信長の代わりとして殺そうとするも一転、絆されて匿い、かつてのようにイチャイチャ乳繰り合うのがもう最高ありがとうございます。
遠藤憲一は自分が夜伽の相手として西島秀俊の情に縋らなくてはならない身の上も理解したうえで、信長を殺せと嘯くのが非常にシコかったです。
たけし映画であるからして男色の描写があっても驚かないが、ここまで濃厚に有名俳優の濡れ場を入れていただけると思わなかったので鑑賞中は死ぬかと思いました。
暗黒金持ちプロデューサーが道楽で作った性癖映画だと言われても納得がいく。
蘭丸を犯した後に弥助に身体を揉ませるので、信長は攻め受け両方いけるのかと目をかっぴらきましたが、そんなことはなかったので残念でした。自分は総攻めであるべきという態度がパワハラの強硬にも繋がっているように思える。
正直、信長と明智の濡れ場は見たかった。天守閣の開けた場で家臣に見せつけながら犯すという展開もありそうでよい。

明智光秀と荒木村重の間に愛情を伴った肉体関係が成立しているために、処されることとなった荒木が明智と家臣の斉藤との仲を疑うのもよかったですね。すっかり恋愛脳になった荒木はたけし映画おなじみの男社会の権力闘争から逃れているものの、どこか滑稽に映る。
今回のたけし映画はホモソーシャルにがっつりホモセクシュアルが入っているため、男同士の恋愛や友情は権力闘争の出口にならないような気がするのだが、どうだろうか。
自分に尽くす官兵衛も曽呂利も潮時になったら消そうと笑う秀吉に対し、家康を守り続ける半蔵と忠勝の徳川勢は同じ打算関係でもより生死に直結するので、パワハラ描写が見られない。

個人的に意外だったのは寺島進の扱いだった。
たけし映画ではわりと情けない役どころで起用されることが多い彼であるが、大河ドラマ『真田丸』で演じた真田方の忍とほぼ同じような凛々しい役どころだった。
忍ゆえに権力闘争ではなく里の生活のために動くも、里を明智に滅ぼされたことで復讐に動くという役がまたヒロイックだ。
甲賀の里は巫女のような狐面の童子を従えた光源坊のキャラクターといい、ケレンが光っていた。
忍者バトルの激しさは完全にカッコよさを重視したものだといえる。

「待っていた……オマエみたいな変態を……」

こんな職場にいたくないを体現する加瀬亮の信長ご乱シーンのせいで、次々と殺されては代わりが出てくる家康の影武者シーンとコントばかりやってる秀吉のシーンがほっこり清涼剤ポイントとなっていた。
たけし演じる秀吉が親戚のとっつあんにしか見えなかった。秀吉もまた理不尽に振舞うものの、信長ほどの狂気に侵されていないのがまだ笑える範囲なのだろう。
側近の大森南朋は弟であるし、浅野忠信は優秀な軍師であるからして、容易には消せない。そこでドヤされ要因に堀部と仁科が出てくるも、ふたりとも自分の命は惜しいので怯えるだけで終わっている。
扱いが面倒だけどまあおっさんだからな……で済むくらいで留まっているのが今回のビートたけしだった。
酷い手管で敵対する武将を責めてはいくものの、たけしを中心とした大森南朋と浅野忠信の掛け合いはめんどくさい上司を煙に巻く有様で和んでしまう。

そう! 日本映画界のテポドンミサイルこと三池祟史の『殺し屋1』で片想いのマゾサドを演じたふたりが今回はほのぼのコントをしているのだ。
それだけで私のような人間には非常に喜ばしいことです。

今回の教訓:職場恋愛やめとこ

武勲である信長の首を探す明智(なぜ首がないのか、というオチのつけ方も皮肉が利いていて好き)と、首よりも敵将が死んだという事実が欲しい秀吉、侍になりたいばかりに親友を殺して首を奪う茂助。
のし上がるために手柄を求めて死体の一部分にしか過ぎない「首」に翻弄される様は、たけし流のスパイスで楽しめた。
中村獅童の褌から見える汚れた尻だとか、また津田寛治がおいしい役もっていったとか、柴田理恵がかわいいだとか、感想は尽きない。

権力闘争にノイズを生むのが恋愛であれど、恋愛が絡んだ権力闘争ほど面倒くさいものはない。
それを、戦国時代という斬って斬られてまた斬っての戦乱の世で表現した本作は、非常に示唆に富んでいると考えられる。
性別に関わらず、職場恋愛はやめておくに限る。なにせ、関係が拗れても毎日職場で顔を合わさなくてはならないのだ。どちらかが異動するか退職するかまで続く気まずさは相当のものだろう。それにより、仕事の生産性も落ちてしまう。
信長に謀反を起こした荒木には、散々尽くしたというのに振り向いてほしい相手に振り向いてもらえなかったという心理も手伝ったことだろう。

思えば戦国時代から遠い令和の世を生きている我々である。
性嗜好を満たす愛憎劇は、嗜好品として身の上に起こさないことが肝要であろう。
我々には多くの作品群を閲覧する自由があるのだから。

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いい感じに野垂れ死にたい系一般人ですわ