【網走シネマ矯正院】第7回『サンクスギビング』
笑ってええんか?
タランティーノ&ロバート・ロドリゲスが好き勝手やったおもちゃ箱映画『グラインドハウス』(2007年公開って本気で言っておられる……?)の本編2作よりも、超ショートショートなおふざけ予告の方が好きな方ってのは、そこそこいるんじゃないだろうか。
かく言う私がまさしくそれで、トレホ叔父貴が主役を張った『マチェーテ』の長編映画はワックワクで見に行った。おっぱいに挟まれるトレホはかわいかったね…。
予告編コンテストに選ばれて上映された『ホーボー・ウィズ・ショットガン』も長編映画化されているし、ふざけつつもやりたいやつをおふざけとしてやったからこそ、それぞれの監督の性癖濃縮原液として、あの予告群は輝いていたのではないかと考える。
5本のウソ予告の中でも、イーライ・ロスの手がけた『Thanksgiving(感謝祭)』は、とことん悪趣味で好きだった。
流れとしてはベタもベタ。古き良きスラッシャーとジャッロを思わせる黒手袋の男が感謝祭に町の住民を血に染めていく、典型的な祝祭日ホラー。そこに露悪的な悪趣味殺人が宝石のように輝く!
彼氏の前でストリップ・トランポリンするチアリーダーは開脚時にくぱぁ☆を刃物で突き刺されるし、ママは括られた脚で剥き出しになった性器に温度計みたいなもの(あれ何なんだろうね?)を挿されて食卓にお出しされる。何より、『ハイテンション』の名シーンを彷彿とさせる、生首合体七面鳥の丸焼きをオナホールにする素晴らしさ!
性癖をぶち込んだと言わんばかりの、観客を嫌悪させる映像に私は拍手喝采した。好き。
しかしながら、本作はあまり観る気が起きなかった。ゆえに本日まで放置していたのだ。
「今更長編化したんか?」という首を傾げる気持ちもあったが、何よりも『グリーン・インフェルノ』が秘境に住む現地住民のほのぼのドキュメンタリーであったことから、今回も温いのではないかと舐めてかかっていた。
その期待は早々に裏切られる。
血染めのタイトルが出るまでに語られる『謝肉祭の惨劇』を、真面目な顔でアメリカ消費社会の闇と頷けばいいのか、馬鹿じゃねえのコイツら~などと笑っていいのかわからなかった。
痛ましいと理解できるものの、割れたガラスに首が刺さる男性客や、カートの車輪に髪の毛が引っ掛かってべろんと頭皮が剥ける女性の姿は、ギャグとして見れてしまう。
アメリカや中国ではブラックフライデーが戦場のようになると実際の動画を見たことがある。略奪が起きがちな海外ゆえの豪胆さと他人事として見ていたが、本場アメリカでも正気を疑われる行為だと示されていたのは新鮮だった。
列に並ばせるとか整理券を配るとか、そういう発想がないんだろうねえお店もねえ……。
ブラックフライデー初日記念で無料配布されるワッフルメーカーに鬼気迫る勢いで群がる消費者の姿。同一の欲望を抱く名無しの『一般客』ほど、質の悪いものはないのでしょう。
真面目な監督・丁寧な殺人鬼
本作の殺人鬼は『ワナオトコ』『パーフェクト・トラップ』を連想させる、丁寧な手仕事に長けた職人でございました。
惨劇を生み出した原因であるクソティーンエイジャーを主賓に、好き勝手やらかした客と対策を講じなかったオーナー家族を晩餐会にご招待。そのために美しい食卓とご馳走を用意し、SNSと動画投稿サイトを用いてちまちま犠牲者のメンタルアタックにも勤しむ。
加害者を徹頭徹尾恐怖に陥れようと手を変え品を変え行動する様は、まさしく極上のおもてなし。小さなミスを起こさないよう、丁寧に慎重に仕事を行う殺人鬼はプロフェッショナルそのものだ。
そう、あまりに緻密な計画と忍耐力のせいで、予告にあったクレイジー殺人鬼の姿は霧散してしまった。本作の殺人鬼は自分の性欲を満たすために七面鳥生首ニーはしない。トランポリンチアリーダーのくぱぁを突き刺さないし、七面鳥焼きにした女性を性的に貶めない。本作は被害者である撒き餌含めて珍しいほど性的な欲望が表れないのだ。
親御さんも安心してご家族でご鑑賞できますね。
殺害シーンも丁寧で楽しむことができました。『グリーン・インフェルノ』を吹き飛ばす豊かな描写でよかったです。
笑ってしまったのは、顔に穴が開いてしまったあのシーンと、丸ノコでぷら~んのあのシーンですね。
大袈裟な人体損壊は好きです…!
やられたくないのは予告編にもある耳きーんでございますね。あれは嫌だ…!
殺人鬼の職人気質に表れるように、物語の運びは丁寧でわかりやすい。奇をてらうということをしない、オーソドックスな作風となっている。それは、『誰がどうしてこんなことをしたのか』という殺人鬼の心理を汲むことのできる構成と(真相聞いた時は「えっ…お前も相当やん…」とは思った)、犠牲者の殺害シーンの丁寧な描写に見ることができる。犠牲者がどれだけ抵抗して、どのように死んだのかというのをちゃんとわかりやすく描いてくれるんですね。気持ちよさを優先にした『テリファー 終わらない惨劇』と比べてみると面白そうであるし、これならばマイケル・マイヤーズの復活作である『ハロウィン』(2018年)の方が、よほど斬新な画をしていたように感じる。
ねこは無事です! よろしくおねがいします
おなかをすかせた猫ちゃんに餌をあげて、頭を撫でてあげる殺人鬼が悪い人なわけないじゃないですか!
観客が殺人鬼を応援したくなるように撒き餌をクソに描いているのを見ると、イーライ・ロスのにやけ顔がちらついてくる。
アデローーーーール
スマートドラッグ、やっぱり出てくるんだなあ。
ファイナルガールはファイナルガールの夢を見る
話の筋は基本に則っているので、オチはいつものとなっております。
生き残れたからこそ、恐らくは死ぬまで狙われ続けるという幻影に怯えなくてはならない。
生存者に殺人鬼という一生消えないトラウマを植え付けたという点で、殺人鬼の勝利だと言えるかもしれません。
今回の教訓:細部にこそ神が宿る
目的を達成するまで殺意と敵意を丹念に尖らせ、決して周囲には悟らせず、相手を苦しませることを第一に考え、そのための準備と行動を怠らない。
本作の殺人鬼は忍耐と努力の人であったといえる。
私めなどは自分ひとりの気持ちよさを優先して、ろくに推敲せずアップロードしたり脱稿したりしてしまうので、本作の殺人鬼の根気強さを見習いたい。
丁寧で細かな仕事であるからこそ、世間に誇れるというもの。
マイケル・マイヤーズの影に怯えるハドンフィールドのように、彼の仕事ぶりは後年まで語り継がれることだろう。